二人のプロローグ
晴れ渡る空の下、私たちの結婚式は修道院で盛大に執り行われた。
祈りの間で厳かにされた結婚の誓い。
心が震えるような感動の式を終えて、修道院の広い庭でたくさんの人たちに囲まれて祝福された。
ずっとお世話になりっぱなしだった修道院の方々。エルミン院長に副院長、そして一番仲が良かったサリーも、今日の為に力を尽くしてくれた……本当に感謝しかない。
それからカザエラからは薬屋のハリーさんや、メサイムでいつも仲良くしてくれていたご近所さんたちも、遠い道のりをわざわざ訪ねてきてくれた。
そしてローラさん。私の親代わりでもある彼女の足が悪いために、クイード家が馬車を用意してくれた。
幸せで、あたたかな時間。
私たちは皆に見守られながら、手を振って二人で馬車に乗った。
「――これから、新しい生活が始まるのか」
馬車の中で、アンセルがふっと目を細めてそう呟いた。私もその言葉にしみじみとして応える。
「そうね。私は一足早く住まわせてもらっているけれど」
本来なら、妻となる私が新居に嫁ぎにくる立場なのだけれど。私の仕事のおかげでアンセルが後から家に入るという順番になってしまった。
昨日までは私とミル、そして昼間だけお手伝いさんがいる生活だった。
けれど今日からはアンセルも一緒の生活が始まる。そう思うと、なんだか嬉しさにそわそわして落ち着かない。
「……そういえば、リゼル様とルヴィアさんから結婚祝いのお手紙が届いていたのよね」
そんな気分を紛らわせるすように、別の話題を切り出した。
アンセルの話では、出席できないことを事前に知らせる手紙が届いていたという。
王都から戻って以降、アンセルとルヴィアの間で何度か手紙を交わしていて、そのやりとりの中で、兄であるリゼルも参列できないと書いてあったらしい。その理由は、今はルヴィアと一緒に国を出てアルトに行ってしまっていたから。
「こうしてアルトから手紙を出せるようになるくらいには、落ち着いてきているらしいね。復興にはまだ時間がかかりそうだとは前の手紙には書かれていたけれど、今はどうなっているのかな」
ガルダン騎国が仕掛けた約四年半にもわたるアルトとの交戦は、一年程前に終結へと向かった。
セダ王国とラダクール王国が連合を組み、新たに『ラスダニア連合王国』と国名を掲げ大国になったことで、色々とあった末にガルダン騎国はアルトから撤退した。
「何が書かれているかしら。……今読んでもいい?」
アンセルが頷いて顔をこちらに向けたので、二人で見られるように手紙を前に差し出して広げた。
『親愛なる アンセル様、エマ様
この度はご結婚おめでとうございます。
お二人がとうとう一緒になると聞いて、私たちはとても嬉しく思っています。』
綺麗な字で、祝いの言葉が綴られていた。その言葉の下には、リゼルが参列できないことをどれだけ悔しがっていたかということなどが書かれている。
アンセルは微妙な顔をしていたけれど、私は微笑ましい気持ちで続きに目を通した。近況報告を兼ねた祝いの手紙は数枚にもおよび、それを一枚一枚丁寧に読み進めた。
『そちらに行けない理由の一つに、今のアルトがとても重要な時期を迎えているということにあります。それはあなた方がいるラスダニア連合王国、それから敵国であったガルダン騎国を含めた周辺国との協議の中で、アルト自由都市を国家にする案が提出されたことです。
私はステラード家の一員として、そしてリゼルはラスダニア連合王国との調整役として動いているため、とても手が離せない状況なのです』
私とアンセルはそこまで読んで、互いに顔を見合わせた。
アルト自由都市が、国家になる?
思いもよらない内容に、真剣になって続きを見た。
『この案が出た理由は、アルト市民に”国”という意識を持たせる目的があります。アルトの悲劇が起きた背景には、己の力を悪用し他国で問題を起こした人物がいたということ。今後はそういったことが起こらないよう入出国の管理を強めたいという思いと、アルトが『祖国』であるという意識を根付かせるためにあります。そして、それに伴いエマさんには朗報があります』
それに続いて、私にとっては本当に信じられないような奇跡が書かれていた。
『アルトの名簿の中に、エマさんのお父様とお兄様らしき人の名前がありました。彼らはアルトの義勇軍に入り、ガルダンと戦っていたとのことです。まだ確証は取れていませんが、フジムの町出身でエマという娘と妹がいたことを話しているようです。
それからアルトは現在、他国で保護されていたアルトの住民を少しずつ受け入れ始めました。数が多いので時間がかかりますが、その中からお母様の名前も探してみるつもりです。その時はまた、こちらからお手紙を送りますね。
それでは、これからのお二人の幸せを、アルトの地から心より願っています。
やあ、アンセル、エマ。本当にそちらに行けなくて残念だ。また君たちに会える日を楽しみにしているよ!
ルヴィア・ステラード&リゼル・クイード』
最後に、リゼルの一言メッセージが添えられて手紙は終わっていた。
私はそれをリゼルらしいと思って笑いながら、目から涙を流していた。
父と兄が生きているかもしれない。ずっと心の中で願っていたことが、本当に現実になるなんて。
私はたまらなくなって、次第に声を上げて泣いてしまった。嬉しくて、そして遠く離れたルヴィアとリゼルに心から感謝した。
「……エマ、良かったね」
アンセルが、私の肩を引き寄せてそっと頭を撫でてくれた。言葉少なにそう声を掛けてくれた彼の声も、少しだけ声を詰まらせていた。
「アルトが落ち着いたら、一度エマの故郷に帰ろう」
私が泣き止んだ頃、アンセルがそう言ってくれた。
「エマの生まれ育った町を、一度見てみたい。――それに君のご家族にも挨拶させてもらいたいからね。その頃には、きっと手紙をくれた二人も一緒になっているだろうから、お礼も兼ねて会いに行こう」
私は頷いて、アンセルと手を重ね合わせた。この大切な手を、いつまでも握り続けたいと思う。
馬車の窓の向こうに、私が育てた薬草園と花畑が見えてきた。
色とりどりの花が私たちを出迎えてくれる。
この長い道の先には、私たちの未来が続いている。
変わらない日常、当たり前の毎日。
それを二人で紡いでいけるなら、それはとても幸せで素敵なことなのかもしれない。
〈終わり〉
最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました!
最初は10万字くらいでおさまるかなー?なんて後半を書きながら思っていたのですが、なんやかんやで15万字ほどまでになってしまいました。
少しでも楽しかった、面白かったと思ってもらえたら幸いです。そして評価までしていただけたら、とても嬉しく喜んでしまいます。
改めて、ありがとうございました!




