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40. 国王への謁見



 長い時間を馬車で揺られているうちに、いつの間にか睡魔に襲われていたらしい。

 思えば昨夜は一睡もしないでいたので無理もない。前を見ればルヴィアも壁にもたれてウトウトと眠っている。


 そうして半日ほどかかって辿り着いた王都は、傍目には以前と変わりない様子に見えた。騒ぎになっているわけでもなく、街の人々は落ち着いて過ごしているようだ。


 私たちを乗せた馬車は、まっすぐに王宮に向かい大きな正面玄関で降ろされた。出迎えた人からは、これから国王に会うことを告げられ、その部屋まで案内すると話した。


 王、と聞いてつい気後れしそうになるけれど、私はアンセルのことを思い浮かべて自分に(かつ)を入れる。

 とにかく、あの二人の誤解だけは絶対に解かなければいけない。そう思って気合を入れて王宮に足を踏み入れたものの、その煌びやかな内装に思わず圧倒されてしまった。


 壁や窓、天井から床に至るまで、見たこともないような美しい世界が広がっている。これが王様の住処なのかと愕然としながら、自分のみすぼらしさと場違いさに恥ずかしさを覚える。


 お世話になっていた聖堂だってそれは豪華に思えたけれど、その規模がまるで違った。

 開いた口も塞がらないまま周囲に気を取られて歩いていると、ふと隣を歩くルヴィアに目が留まった。何も気にしない様子で、まっすぐに前だけを見て姿勢良く歩いている。


 王宮の絢爛さに引けを取らないその姿は、やはり彼女も特別な人なのだと改めて実感した。そしてそんな人が私の同士として隣にいてくれることは、とても心強いものだった。




「こちらです」


 大きな扉の前に着いて、案内をしてくれてた人がそう言って立ち止まる。そして目の前の重厚な扉をゆっくりと押し広げていった。


 私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 この国で一番偉い人にお会いするのだ。その人に、言いたいことを伝えなければならない。

 私たちが部屋に足を踏み入れると、すぐに後ろの扉が閉じられた。部屋の奥には、大きな椅子に座る一人の男性がいる。

 

 目前まで歩み寄ると、ルヴィアはドレスの裾を摘まみ膝を下げて一礼をした。私はというと、外套のクロークを着たままという姿だったので、王弟殿下にしたように祈りの姿勢で頭を下げた。



(おもて)を上げよ。今日は儀礼を気にしないでよい。何より、そなたたちが混乱のさなかにあったことは承知している。中でも、ステラード公の姪であるルヴィアには多大なる迷惑をかけた」


 国王は詫びの言葉を口にするが、その姿勢があまりにも堂々としているので不思議と謝っているように見えない。これが王様の貫禄というものなのか、と思いながらその顔を見つめる。

 口ひげを生やしているが、思ったよりも若々しく見えた。何となく王様といえば髭を蓄えたおじさんの容姿を想像していたけれど、随分と違う。

 引き締まった体と、こちらを射抜きそうな鋭い視線。一見すると好戦的にも見えるその風貌は、これが国や派閥の顔を窺い中立を保っていたという王様の姿には思えなかった。 


「恐れ多くも、私は迷惑などと思ってはおりません。なぜなら、私は自らの意志で公爵のもとへ向かったのですから。むしろ、私が迷惑をかけてしまったのはここにいるエマ……アルト民の彼女を、不本意ながら巻き込んでしまったことでございます」

「ふむ……」


 国王は交互に私達を見て、何かを考えている様子だった。


「まあ良い。その話は後に回すとしよう。すでに聞き及んでおろうが、先日、ラダクール王国と我が国は連合王国を成立させた。近々各国へ使節団を派遣し、その旨を伝える予定である。そして今回のことから、我が国はアルトの支援国となり協力していくこととなった」

「はい。この度の陛下のご決断、アルト自由都市の民として心より感謝申し上げます。私共にとって、これ以上に心強く、喜ばしいお言葉はございません。まさかそのようなお考えを秘められていたとは存じず、驚きを禁じ得ませんでした」


 ルヴィアが応えると、国王はやや身を乗り出して笑みを浮かべて彼女を見つめた。


「……そなたたちはこちらに業を煮やして、何やら面白いことを考えていたらしいからな。リゼルという男はなかなかに興味深い奴だった」


 国王の口からリゼルの名が出て、背筋に緊張が走った。彼と話をしたのだろうか?

 短い付き合いの中でも窺い知れる、リゼルの風変わりな気質を知っている身としては冷や汗が流れる。

 しかしルヴィアは顔色を変えることなく、質問を投げかけた。


「陛下は、リゼル・クイードとお会いになられたのでしょうか」


 一拍の間を置いて、国王は姿勢を戻した。深く椅子に座り、質問には答えずゆったりと語り出す。


「……魔法院からそなたらが連れ去られた日、その少し前にサンベルグ公爵はここを訪れていた。少ないながら兵を連れてご高説を垂れてな。あの男は、私のことをまだ若造だと見くびっていたのだろう。まあ、あれは私の赤ん坊時代を見てきたのだから、わからなくもない」


 特に怒りや苛立ちを見せることなく、振り返るように淡々と言葉を紡いだ。


「私が王位を継いだ二年後に起きた事件が、ガルダンによるアルト侵攻だ。おそらくこの王位交代を好機と捉えたのだろう。ガルダンの騎王とサンベルグ公爵は、若く経験の浅い新王ならば公爵の手で抑えつけられるられると踏んだ。実際公爵の力は強い。おそらく周辺国から反感を買うであろうガルダンを孤立させず、出来れば支持国にさせたい思惑があったのかもしれぬ。当人に聞いたわけではないから、正解か知らぬがな」


 貫禄たっぷりな姿勢でそう話されても、なかなかピンとこない話だ。つまり、公爵は国王をなめていた。そう話しているこの方も、それを理解した上で受け入れていたということになる。


「あやつらの勝手はさせられん。かといって正面から糾弾すれば反発は免れぬ。公爵を支持する貴族がそれなりにいれば、大きな内乱にまで発展しかねないからな。前国王が崩御された後、己の力を誇示する公爵をどうにかしたいと常々考えていたところだった。王に従わない貴族など、私にとって害でしかない。それで私は隣国のラダクール王国に密書を送った。その内容にはあちらもかなり驚いたらしいが」

「では陛下の御心は、初めから……」

「連合王国とする提案はこちらからの打診だ。公爵との関係に決着をつけるなら、国力が削がれる覚悟がいる。その際に、後ろ盾が欲しいと考えてのことだ。当然あちらに利点がなければ動くわけもなく、こちらもできるだけ不利な条件を負うことなく合意に持っていく必要があった。そのため相手側を説得する材料を集めることに、数年を要していたわけだが……」


 そこで一旦話を区切ると、ちらりと私に目を向けた。すっと背筋が凍る。


「公爵がここを訪れる少し前に、それがようやく実を結んだところだった。あとは調印を交わすのみというところまで来たところで、公爵が兵を引き連れてのこのことやってきた。こちらとしては、もう間もなく決着をつける時が来る。だからその時は武力をちらつかせる相手の要求を飲む振りをし、二人を連れ出すことを許した。先程迷惑をかけたと言ったのは、そういう理由だ。

 しかし……そのあとの魔法院との話し合いの中で、公爵の行動の起点に何やら不自然さを感じた。その元を探れば、エマというアルト民の存在から始まっていると気付いたわけだ」

「…………」

「二人ともそう身を固くするな。――それで私は、彼女が発見された地の領主であるクイード子爵を呼びつけた。そこから魔修士リゼルの名が浮上し、その男も呼びつけて話を聞くことにした。以前魔法院からはアルト民を保護するという報告を受けてはいたから、その詳細に語らせるためにな。一聞すると、ただのアルト民救済の話でしかなかったが、どこかに臭く感じる嗅覚が働いたわけだ。私は腰を据えてリゼルを相手にすることにした。……あやつは早く解放されたがっていたようだが」


 国王はニヤリと笑って口ひげを撫でた。

 私はというと、これから国王が何を話すのかと固唾を飲んで聞いている。今の話しぶりだと、私たちのことを責めているのか認めているのかわからない。

 この何とも言えない空気に、私たちは口を挟むこともできず黙って話を聞いていた。


「会ってすぐにわかった。あれはなかなか危険な男だとな。女のような柔和な面差しをしながら、その内には毒蛇を飼っているらしい。こちらの心懐を見定めようとする男が、どうやら一匹、二匹、そして三匹……と手持ちの蛇を放っていたようだ」


 そう言って、私たちを交互に見た。

 その意味を理解して、私は震えることも出来ずに硬直した。



 

 

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