表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/48

25. 魔女の血筋



「夕食のご用意をいたします」


 カーラが廊下からワゴン台を受け取り、テーブルの近くまで運んできてくれた。台の上に被せられていた蓋を開け、料理の乗った皿に手を添えるのを見て私は慌てて声を掛ける。


「カーラさん、それくらいは自分でやります」

「いえ、これは私の仕事ですから」


 カーラは表情一つ変えずに淡々と答える。そして運び込まれた料理を小皿に少量を移し、私の目の前でそれを口に入れた。

 あれ、もしかして私の食事じゃなかったのかな?と不思議に思っていると、すぐに小皿は下げられ少ししてから料理をテーブルに並べ始めた。


「お食事は問題ございません。安心してお召し上がりください」


 そこで私はやっと彼女の行動の意味を理解した。そうか、毒見をしていたのか。

 薬草について学んでいくと、必ず通る毒の歴史。毒殺や毒見なんてものは王侯貴族の遠い世界のことだなんて思っていたけれど、今の私はその遠い世界だった場所にいるのだと改めて実感する。




 食事を終えると、最後にカーラがティーカップにお茶を注いだ。ここに運ばれてから随分と時間が経っているはずなのに、カップからはほのかに湯気が立ち上っている。そして口を付けると、熱すぎずぬるすぎもしない丁度良い温度であることを不思議に思う。


「カーラさん、このポットは冷めにくい造りになっているのですか?」


 それほど大きくない金属製のポットなので、普通ならばすぐに冷えてしまいそうに見える。それが気になって尋ねてみると、驚くことを話してくれた。


「こちらの容器には魔法が施されてあります。丁度良い湯になるよう設定されているので冷めることはございません」

「魔法⁉」


 思わず驚きの声を上げてしまった。ここは魔法院なのだからおかしくないのだけれど、まさかこんな使われ方をしているとは思わず、とても感動してしまった。


「魔法って、こんな便利なことに使えるのですね」


 私がその意外性に感嘆していると、今まで淡々としていたカーラがどこか誇らしげな表情に変わる。


「こちらでは最先端の魔法技術が研究されています。これらの生活魔法はかつてここで生み出されたもの。神から人に与えられた御力に、我々は感謝していかなければなりません。そして人々に豊かさと恵みをもたらすことが、選ばれた私たちの使命なのです」


 私はカーラの話を興味深く聞いた。一度アンセルから聞いたことがあるけれど、当時はあまり理解できずに想像もつかないものだった。


 意外な使い方に驚きつつ、入れてもらったお茶を飲んでいると、再び部屋をノックする音が聞こえた。カーラがそれに対応し、ほどなくして戻ってくる。


「ルヴィア様がお呼びになられているようです。すぐに向かわれますか?」


 彼女からはまた後でと言われていたけれど、これから詳しい話を聞かせてもらえるのだろうか。

 私は頷き、すぐにそちらの部屋へ向かうことにした。


 


 

「こんばんは。あなたが疲れて寝てしまう前に説明をしておこうと思って」


 ルヴィア・ステラードが微笑んで出迎え、ソファに座るよう促してくれた。


「あなたが同胞だとわかったから、早めに話をしておきたかったの。長くなるかもしれないから、今お茶とお菓子を用意するわね」


 そう言って、ルヴィアは近くにいた使用人に指示を出す。すでに用意されていたのか、ティーワゴンがすぐに運ばれ丁寧にお茶が注がれた。カップを見ると、中にドライフルーツが入っている。


 他人から入れてもらったお茶で、こうして飲むのは久しぶりかもしれない。

 そう思った時、ふと、もしかしたらこの飲み方はアルトの風習なのではないかと気付いてしまった。今まで意識していなかったけれど、メサイムではこんな飲み方をしている人がいなかった。



「で、早速だけれど。あなたは自分の力について、何か知っている? その力を使ったことはある?」


 矢継ぎ早に問われて、思わずたじろいだ。知らないと言えば知らないし、知っていると言えば少しだけ知っている。使った自覚はないけれど、もしかしたら、と思ったことは一度だけあった。


「私はアルトのフジム出身ですが、魔女の存在や力のことは何も知りませんでした。ただ、私が逃げた先で知り合った人から、少しだけ話を聞いたことがあります。魔女は……たしか人の心を奪い、惑わす力があると」

「何も知らなかったということは、あなたのご家族や町の人たちも、そういった話を一切していなかったということよね? 町を出て、外から初めて存在を知った」


 ルヴィアは、確かめるようにゆっくりと考えるように話す。


「わかったわ。では、全部説明していきましょう。ステラード家のこと、それからアルト自由都市の成り立ちをね」


 そして語られた内容は、私の想像を超えるものだった。


「私たちステラード家の祖先は、後にアルトとなる小さな町に流れ着いた貴族だったと言われているの。でも家にはそのような具体的な記録が残されていないから、本当のところはわからない。ただ、彼がその地で新たに商売を始めたことで、町が急速に発展していった。ここまでは、歴史として知っているかしら?」

「はい。親から聞いたり、本から学んだりしました」


 そう答えると、安心した様にルヴィアが笑った。初対面のときは魔女だと思って怖かったけれど、意外にも人懐っこい笑顔を見せてくれる。


「では歴史の部分は省きましょう。ここからはあなたの知らない話になると思うわ。……まずアルトとステラード家が大きく発展した大きな理由、それが魔法と魔石を発見したことだったの」

「魔法と……魔石?」

「そう。今あなたの目の前にもあるわ。これよ」


 ルヴィアは首元のネックレスを指差した。黒い宝石が、彼女の胸元で美しく輝いている。


「この黒い宝石が、魔石よ。もともとこの鉱石は、当時の地元民が拾って簡単に加工できるような安いものだった。硬度が低く欠けやすいから、たまに安く売られていたのね。でも、ステラード家の祖が、この石に不思議な力が宿ることを発見した」

「……それが魔法だった、ということですか?」

「その通り。おそらく、当時はどこの国も魔法の存在を認識していなかった。魔石のおかげで、不思議な力が初めて()()()()()ものになったのよ」


 彼女がそう話しながらネックレスに手をかざすと、宝石の中心部分が徐々に赤く染まっていった。


「力ある者がこの石に触れると、その力に応じた色に変化する。そう気付いたステラード家は、そのすべてを管理する体制を作り、他国の王侯貴族たちと取引をするようになった。……これが、アルトが自由都市にまで発展した理由よ」



 話を聞きながら、私は信じられない思いだった。

 まさか、アルトが魔法の発祥地だった――? 


「あなた方が知らなかったのも無理はないわ。ステラード家はそれを魔石だと言わずに管理していたし、市民が偶然それを手にしたとしても、ただの脆い黒い石にしか見えない。不思議なことに、魔石は高貴な血を引く者にしか反応しないの。だから町の人たちには価値が無く、魔法などの噂が立たなかったのでしょうね」


 つまり、ステラード家が魔法と魔石の鍵を握っていた。

 だからガルダン騎国は、ステラード家を魔女だと断定して統治していたアルトを殲滅させようとした?

 そう尋ねた私に、ルヴィアは首を横に振って否定した。


「違うわ。この国にも魔法院があるでしょう? それは神から授かった特別な力として扱われている。なぜなら、そのおかげで王侯貴族の暮らしは劇的に豊かになったから。だから、それが理由ではないの」


 さっき注がれたポットのお湯のことを思い返した。この国のだって積極的に魔法を研究し、使っている。たしかにアルトが狙われた理由にはならないのかもしれない。


「では、なぜアルトの民が魔女と呼ばれるようになったのですか。たまたま悪いことをした人がアルト出身者だった、というだけでは説明が付きません。それに、魔女は人を惑わすと聞いています。それも研究されている魔法なのでしょうか?」


 初めて知ることばかりで頭がこんがらがりそうだ。でも頑張って整理しながら質問をしてみる。

 それで、以前アンセルが話していた、他の国で魔女が問題を起こしているという話。それと、私が捕らえらた時に何度か耳にした『魅了魔法』。それについても聞きたかった。


「では、ここから大切なことを説明するわね。魔法には、火・水・風・土の四つの力と言われているの。それについては、魔石を手に入れた国々で研究が進められて徐々にわかったこと」


 この話も何となく憶えている。たしかアンセルも、魔法と魔女の違いを話してくれた時、そんなことを言っていた。


「でも、ステラード家には秘密があって、その他にもう一つ違う魔法を持っていたのよ。それが『闇の力』というもの。四つの属性とは違う、異質な力が私たちに代々受け継がれていたの。それがいわゆ〈人の心を操る〉危険な力だった。魔法や魔石が発見される前からあったものなのよ」


 闇の力――ルヴィアに、私の中に眠っていると言われたものだ。


「一族では、この力の使用は禁止されていたわ。行使すれば死刑も厭わないとする厳しい掟も作られていた。だから幼い頃から力の制御と封じる教育をされていたし、口外も許されなかった。でも、それはやがて破綻してしまった。理由は単純で、一族の数が増え過ぎたこと」


 ルヴィアは少し俯いて、静かに話を続ける。


「しきたりは直系だけでなく、親族にも及んでいた。でも血縁が遠くなるほど、次第に緩くなっていくものよね。そのうち、家出をしたり駆け落ちをする者も現れた。そうして年月が経つうちに――そろそろ察しがついたかしら。能力を持つ者が、こちらの預かり知らぬところで家庭を持ち始めたということ。つまり見知らぬところで血縁者が増え、制御ができなくなったのね。でも最初はそれほど危機感を抱いていなかったみたい。なぜなら、血が遠くなるほど『闇の力』が衰退することを知っていたから。……つまり、今のあなたのようにね」


 ルヴィアの言いたいことが、何となくわかってきた。

 アルトで生まれ育った人たちの中に、ステラード家の血を引く者が多く存在している。そして私たち家族も、その中に含まれていたということ。

 

「ステラード家はそれでも能力のことを公表しなかった。公にして罰則を設けるよりも、悪用されることを恐れたわけね。でも、稀に自分の能力に気付いた者が時々悪さをすることがあった。それが些細な事だったならまだ流せるけれど、とある王族に魔法を仕掛けて成り上がろうとした者がいた。それが大問題となって、各国に説明せざるを得なくなってしまった」

「それは、責任を取るため……ですか?」

「その通り。闇の力を無効化できるのは、同じ力を持つ者だけ。混乱を治めるには、事情を説明して掛けられた魔法を解く必要があったのよ。そして、それが後にガルダン騎国の侵攻を誘発することに繋がった」


 つまりアルトにはステラードの血を引く者が多くいたから、その血を絶やすために魔女狩りが行われた?

 あの日の光景が目に浮かんで、悲しみなのか怒りなのか、自分でもわからない感情が胸に渦巻いた。


 

「……ルヴィアさん。私の故郷フジムやアルトの中心街がどうなったのか知っていますか? 私の兄はその中心街で働いていて、父は兄を探しに向かったのです」


 経緯と理由は、なんとか理解できた。でも、私が一番知りたいことはアルトの現状だ。私は四年の時を経て、今まで誰にも聞けなかったことをやっと口にすることができた。


「アルトは、今も頑張って持ちこたえているわ。ガルダンの襲撃で大きな被害が出たけれど、こちらだって魔法発祥の地なのよ。規模は小さくても、ガルダンにギリギリ対抗できるだけの力はあった。それに、アルトを支援してくれている国もある。今は力がせめぎ合って、どちらも引かない状況ね」


 ステラード家のルヴィアの口から「持ちこたえている」と聞いて、僅かに希望が灯るのを感じた。もしかしたら兄は生きているかもしれない。父だってもしかしたら。

 見えない先行きの中、一筋だけでも明るい未来が見えたような気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ