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24. ルヴィア・ステラード



「私はルヴィア・ステラード。よろしくね」


 ソファに腰を下ろしたまま、彼女は私を見上げるようにして名を告げる。


 ステラード。それはアルト自由都市総裁の家名だ。私は頭をガツンと殴られたような、強い衝撃を受けてくらくらと眩暈がした。伝聞でしか知らなかった魔女という存在が、もしかしたらステラード家の人かもしれないなんて。

 それに、ステラード家の人がなぜここに?


 私が呆然としていると、彼女は私をソファに座るよう促した。リゼルが見守る中、私はおずおずと彼女の向かいに腰を下ろし対面する。


「では、手を出して」


 言われるがまま、右手を差し出した。すると彼女は両手で私の手を取り、ほっそりとした指で包み込む。



「……どう?」


 ソファの横に立っていたリゼルが、しばらくしてから様子を窺うように彼女に尋ねた。


「当たりね。本当にわずかな力だから感じ取るのに時間がかかってしまったけれど。ねぇ、あなたはアルトのどこに住んでいたの?」


 アルトの出だと確信しているように問われて、彼女には誤魔化しはきかないことを察した。


「……フジムです。フジムの町に家族と住んでいました」


 ためらいながら、ポツポツと話し始めた。あの惨状を逃れてから、一度も口にすることのなかった故郷の名前。話しだしたら、そこからは言葉を止められなくなった。この四年間抱え続けたあの日の記憶。ずっと抑えこんでいた思いが溢れだして、いつの間にか涙をボロボロと零しながらこれまでのことを語っていた。

 お父さん、お母さん、お兄ちゃん。生き別れてしまった家族への思い出が胸を締め付ける。

 無事なのかもわからない。もしかしたら捕らえられて殺されたのかもしれない。ずっと蓋をして考えないようにしてきたことが溢れだして、感情が掻き乱された。



「大変だったのね。どうぞ、これを使って」


 私が語りつくして息をついたところで、白いハンカチを差し出された。


「ありがとうございます……」


 私は鼻をすすりながら受け取り、厚意に甘えて使わせてもらう。ぐしゅぐしゅになったハンカチを手に握りしめ、最後に一つだけ、どうしても確認しなければならないことを尋ねた。


「ルヴィアさんは魔女なのですか?」


 はっきりと答えを聞きたくて、遠回りせず真っ直ぐに問いかけた。


「魔女、ね。野蛮なガルダンの連中はそう呼んでいるらしいわね。あぁ、でもこの国も同じように言っているのだったかしら?」

「それは排斥派がガルダンに倣って言っているだけだよ」


 珍しく不機嫌そうな表情をリゼルが浮かべる。それを見て、ルヴィアが面白そうに笑った。


「そうね。ここにいる人たちには本当に良くしてもらっているわ。……エマさん、とりあえず今は心配しないで大丈夫よ。フジムに住んでいたあなたなら名前でわかると思うけれど、私はアルト自由都市総裁、グレオ・ステラードの姪なの。私も四年前の戦火を逃れて、もう長い間ここに匿われているのよ」


 もう色々と聞きたいことがありすぎて、何から聞いていいのかもわからない。

 彼女は総裁の姪で、彼女もこの魔法院に匿われていた?

 そうだ、まずはアルトのことを聞かなくては。総裁はどうしているの? 残された市民たちは?

 少なくとも、アルトの中心地が無事であれば兄は助かっている可能性が高い。父と母は……わからない。


「聞きたいことが山ほどあるって感じね。あなたが疑問に思っていることに真面目に答えようとしたら、きっと長い話になるわ。そろそろ夕食の時間でしょうから、話はその後で」

「あの、では最後にもう一つだけ!」


 これまで目を瞑っていたことを、意を決して聞くことにした。それは、私が魔女なのかということ。

 彼女が私の手を握って『当たり』と言ったことの意味が知りたかった。


「私はガルダン騎国のいう『魔女』なのですか?」


 何となく話しぶりから察してはいたけれど。


「そうね。あなたの手から私と同じ力を感じ取った。あなたの中には間違いなく『闇の力』が眠っている。本当に微力だから探るのに時間がかかってしまったけれど」


 闇の力? 聞いたことのない言葉に戸惑っていると、それを理解しているように話を続けた。


「それを持つあなたも『魔女』ということになるわね。ガルダンはアルト市民をそう扱いたいようだけれど。とりあえず今はそれだけ把握してくれていればいいわ。詳しくはまた後でね」



 そこで彼女との面会を終えることになった。

 メサイムの町を出てから、なんだか随分と長い夢を見ているような気分だ。とにかくすべてが急展開すぎて、頭がついていけないところもある。

 

「では、ここまでにしようか。後は君を部屋に案内して終わろう」


 リゼルのこの言葉でお開きになり、私は彼に連れられて廊下を歩いた。


「道中にも話したが、しばらくはここで暮らしてもらうようになる。基本的には自由にしてくれていいけれど、院から指示には従うこと。それから王宮構内から出る時には許可が必要になる。それから部屋に身の回りの世話をする修女を一人を付けるから、何か用がある時は彼女に言ってくれ」


 そうして部屋に着くと、中で控えていたらしい女性に迎え入れられた。先程のルヴィアの部屋よりはこじんまりとしているけれど、全体的に綺麗に整えられている。置かれた花瓶には新鮮な花が飾られ、迎え入れられている感じが伝わってくる。


「ああ、それから食事は部屋に運ばれてくる。あとは先程行った図書室も好きに使っていい」


 そして最後に、部屋にいた女性を紹介された。


「この聖堂に仕える修女カーラだ。生活の細々としたことをしてくれたり、君が外出するときは付き人を担ってくれる」

「今日からエマ様のお世話をさせていただきます、カーラと申します」


 私よりも随分と大人であろう女性から丁寧な挨拶を受けて、私も畏まって挨拶をする。


「私はエマと言います。こちらこそよろしくお願いします」


 お互い頭を下げあっていると、リゼルが吹き出すように笑った気がした。

 もしかして、礼儀がおかしかった? 貴族のマナーなんて知らないから、こっちはドキドキしているというのに。


「いや、いいんだ。私が勝手に面白く感じただけだから気にしないでくれ。では私はこれで」


 そう言ってリゼルは部屋を後にした。

 早速部屋にカーラと二人きりになり、急に気まずくなってしまう。


「あ、あの、カーラさんは何時頃までお仕事をなさるんですか?」

「もちろんエマ様がご就寝になられるまででございます」


 ……慣れない。とにかくエマ様呼びも、寝るまで一緒の部屋で過ごすというのも。これも監視の内なのだろうか。


 ただの町娘にはありえないような待遇を受けて、とにかく落ち着かなさと気まずさにムズムズと居心地の悪さを感じていた。


 




次話は説明回です。

なるべく読みやすくなるようにと心がけているのですが、文章を書くのって難しい……!と悶えています。

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