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写真、パシャリ

作者: WAIai

「ーパパ、電車を撮りに行こう!!」

「はい?」

日曜日の朝。よく晴れた爽やかな時に、龍太はパパに興奮気味に話しかけました。手にはデジカメを持っています。しかし、パパのほうはビックリしたような顔でいます。

「何だっけ?」

「もう、パパったら」

龍太は頬を膨らませて、怒ります。小学4年生の龍太は電車好きで、誕生日プレゼントに買ってもらったデジカメで写真を撮りに行こうとパパと約束していたのです。

「約束、忘れたの?」

「ごめん、ごめん」

「ほら、行こう」

龍太はパパの腕を引っぱり、家を出ました。



「ーここならいいかな」

着いたのは、近所の踏み切りでした。夏の日差しを浴びた外は誰もいません。龍太の家は田舎にあるので、電車を撮ろうとする人は稀でした。良いタイミングで踏み切りがカンカンと鳴り始めます。

「よし、撮るぞ。ねぇ、パパ」

「おう、頑張れ」

龍太はデジカメを構えます。心臓は緊張でバクバクいっていました。

やがて、電車がやってきました。色は黄緑で、2両編成です。たまに家族で乗ります。龍太はボタンを押します。2・3回は押したでしょうか。通り過ぎていく電車を見送り、画面を確認します。しかし、残念ながら、撮れたのはボケた写真でした。

「えー!!」

龍太は上手く撮れず、がっかりしました。ちゃんと押したのに、ぶれているのです。

「パパ、上手に撮れなかったよ」

泣き声で言うと、パパは腕を組んでいます。

「もう一度、自分で撮るんだ」

「えー!! パパ、撮ってくれないの?」

「うん。自分のことは自分でしなさい。大人になってから困るから」

「そんな…!! えーん」

龍太はわがままにも大泣きし始めました。パパが困ったように、おろおろし始めます。その時、

ー次はゆっくり走るから。

声がふってきました。龍太の泣き声が電車に届いたようでした。

「パパ、今の声…!!」

「ゆっくり走るって聞こえたな」

「うん!! 頑張ってみる」

またカンカンと踏み切りが鳴り始めます。龍太は深呼吸をすると、デジカメをさっきよりもしっかりと構えます。パパも後ろに回り、手助けしようとします。

「あ、来た!!」

黄緑色の電車が、先ほどよりもかなり遅く走っています。そのゆったりさは穏やかで、龍太のことを知っているかのようでした。

ーよし、撮るぞ。

龍太は何度もシャッターを押します。パパも言います。

「今だ!! 撮れ!!」

その声が届いたのか、運転手さんが手を振ってくれます。龍太は嬉しくなり、手を振り返します。電車はのんびりと走っていきました。

「どうだ? 撮れたか?」

パパの質問に、龍太は画面を確認して言います。

「うん!! バッチリ!!」

今度は良い写真が撮れました。嬉しくて、パパとハイタッチします。龍太は飛び跳ねたりしました。

「行ってらっしゃい」

ゆっくり走っていく電車に向かい、龍太は手を振りました。



それから後日。

何と龍太が撮った電車の写真が、子ども部門で賞をとり、新聞に載りました。

「おい、龍太」

「パパ、やったー」

嬉しくて嬉しくて仕方がありません。龍太は早速、電車にお礼を言いに出かけます。ちょうど良いタイミングで電車が走ってきたので、手を振って、言います。

「ありがとう」

電車がニコリと笑ったように思えました。



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