第66話 神龍祭
帝都に着いてから、あっという間に六日が経過した。
この六日間は午前は鍛練を行いながら、午後は帝都観光を楽しんでいた。
冒険者の依頼をこなすっていう案もあったのだが、依頼内容を見た限りではグレンダールの街と大差がなかったため、依頼を受けるのを止めた。
やはり『冒険者』っぽいことをやるなら、ダンジョン都市に向かうしかない。
『インドラファンタジー』でも、通常依頼は基本的にお使いゲーだったし、緊急依頼以外は不人気だったからな。
ルーン武器の件もあるし、近い内にダンジョン都市には行ってみてもいいかもしれない。
とまぁ、この六日間で変わったことは特にな……いや、一つだけ大きく変わったことがあった。
それは何かというと――ギーゼラとも夜の関係になったこと。
これに関してもクラウディアと同様に意味が分からず、帝都に着いた初日……つまり不機嫌だった日にギーゼラが部屋にやってきて、そのまま誘われるがまま肌を重ねた。
前触れがなかったどころか、嫌われたのかと思っていたぐらいだったため、俺は本当に鈍感な男なのだと痛感させられた。
それからはクラウディアとギーゼラを毎日交互に抱いており、帝都遠征前に決めた禁欲とは何だったのか状態。
今日は目的である神龍祭の開会式に加え、予選も行われるというのにギーゼラと明け方くらいまで激しい夜を共にした。
「ふぁーあ……」
「エリアス様、随分と眠そうですね。……昨日はそんなにお楽しみになられたのですか?」
「い、いや……そ、そんなことはないぞ?」
ジト目で睨んできたクラウディアにそう返答したが、これは完全にバレている。
最高に居心地が悪い中、ギーゼラが来るのを待っていると……。
「ふぁーあ。二人共、待たせて悪かった」
俺と全く同じように、大きくあくびをしながら宿屋から出てきたギーゼラ。
その姿を見たクラウディアは俺を一度睨んだ後、同じ質問をギーゼラに投げ掛けた。
「ギーゼラ、随分と眠そうですね。昨日はそんなにお楽しみになられたのですか?」
「ああ。そうだが?」
ケロッとした顔であっさりと肯定したギーゼラ。
……何でそんなに堂々と肯定できるんだ。
「神龍祭の前だから早く寝ると約束していたのに! エリアス様とギーゼラはやる気がないのですか!?」
「いやいや、やる気は満々だぞ。じゃなければ、朝まであんなに激しく――」
「わーわー! 聞きたくありません! ……ギーゼラもあっという間に大人びてしまって」
「ふふっ、クラウディアのお陰でもある。神龍祭が終わってグレンダールに戻ったら、例のをやろう」
「…………いいですね。どちらが良いかを直接決めてもらいましょう!」
「い、一体何の話をしているんだ?」
「「秘密!」」
そうハモらせた後、二人は顔を見合わせて悪い顔で笑った。
仲が良いんだか悪いんだか、さっぱり分からない。
困惑しつつも、俺達は開会式が行われるコロシアムへと向かう。
帝都は元々賑わっていたが、開会式が近づくに連れて人の数は増えており、今は大量の人が押し寄せていた。
そんな人混みを抜けてコロシアムの中に入った俺達は、エントリーを済ませて開会式が終わるのを静かに待つ。
誰か知っている人物がいないか、一通り確認をしてみたものの……これだけ人が多いと誰が誰だか分からないな。
「こんなに盛り上がるのですね。もう少し小さな大会だと思っていました」
「まぁ四年に一度の大会だからな。今回は優勝賞品も豪華だから例年より人が多いって言っていた」
ちなみに参加するのにも金がかかり、銀貨五枚のエントリー料が取られる。
招待選手は無料かつ、いきなりトーナメントからの参戦らしいから、待遇の差はかなり激しい。
「強い人が集まっているのは燃える。そういえば、ティファニーさんとデイゼンさんはもう来ているのか?」
「さぁどうだろな。これだけ人が多いと見つけられない。予選を突破してトーナメントに上がれば、見つけられると思うぞ」
あの二人なら余裕で予選を突破するはず。
今はティファニーとデイゼンのことは考えず、自分達のことだけを考えるべき。
「開会式が終わりましたね! もうすぐに予選が開始されるみたいですよ」
「それじゃ俺達も別れて移動しよう。試合が終わり次第集合する感じで」
「分かった。サクッと終わらせて合流する」
「私もスピード重視で決めに行きます。予選で手間取っていられませんからね」
「誰が一番早く試合を終わらせるか勝負だな」
俺のそんな言葉に二人は頷いてから、各々の試合場所へと向かって行った。
予選の試合はこのコロシアムの他、コロシアム内の訓練場。
それから帝国騎士の修練場、帝城前広場の四会場にて行われる。
俺とクラウディアはこのコロシアム内、ギーゼラはこのコロシアム内の訓練場で戦うらしい。
コロシアム内ということで俺はすぐに移動が終わり、もう対戦相手が前にいる。
審判も準備ができているようで、運営の手際の良さが光っている。
「エリアスとフロイトだな」
「ああ」
「そうだ。俺がフロイト様だ!」
俺の対戦相手は初老の冒険者っぽい男。
白髪の長髪で体はだらしない体型。
雰囲気も感じないし、まず負けないだろう。
「準備ができたのならすぐに始める。完了次第位置につけ」
俺はすぐに定位置につき、対戦相手であるフロイトを位置についた。
フロイトの武器は鉄の斧で、無駄にデカい特別仕様の斧。
動きが鈍そうな上に、デカい斧ということで負けるビジョンが見えない。
サクッと終わらせて、二人の戦いが見たいな。
「げっへっへ。予選の相手がガキで助かったぜ。一瞬で終わらせてやるからよ!」
「二人共、準備はいいな。それじゃ予選第一戦始め!」
審判の開始の合図と共に、巨体を揺らして突っ込んできたフロイト。
動きは鈍いが、スキルが使えるようで何かしらのスキルを発動させた。
……動きの速度は変わらず、筋力の増強も見た目から得られたのはゼロ。
そうなってくると、耐久力か体力を上昇させるスキルだと思うため、特に警戒する必要はなさそうだな。
「ぶっ殺してやんよォ!!」
フロイトはそう言いながら斧を大きく振り被ったのだが、あまりにも隙だらけ。
攻撃してもいいのか一瞬躊躇うほどだったが、予選の相手だしこんなものなのだろう。
俺はフロイトが斧を振り下ろす前に、みぞおちに思い切り拳を叩き込む。
回復魔法が使えるから思いっきりぶった斬ってもいいのだが、こんな相手をわざわざ斬る必要がない。
「――うぐァッ!」
わざとらしく呻き声を上げたフロイト相手に俺は手を止めることはせず、ふくらはぎを思い切り蹴り上げ、体が崩れ落ちたところに左のフックを顎に放つ。
顎を掠め取ったことで脳が激しく揺れたようで、フロイトはそのまま地面に顔から倒れた。
「そこまでッ! 勝者——エリアス!」
ティファニーから叩き込まれたことだけあって、無手でもそこそこ戦えるな。
無手同士の戦いだと、ティファニー相手では一勝もしたことがなかったのだが、やはりティファニーがおかしいだけだということが分かった。
今の戦いでの収穫はそれぐらいだが、予選の第一戦なんてこんなもの。
このレベルということを考えると、二人も既に終わっているだろうが……様子を見に行こう。
俺が二人の下へ向かおうとしたタイミングで、向こうからクラウディアがやってきたのが見えた。
同じコロシアムでの試合だったから、ほとんど同タイミングで決着がついたらしい。
「エリアス様! 結果はどうでしたか?」
「余裕勝ち。クラウディアは?」
「私も余裕で勝てました。正直、期待外れもいいところでしたね」
「俺も同じ感想だな。ギーゼラももう終わっているだろうが、一応行ってみようか」
「ですね! ギーゼラだけ中の訓練場でしたっけ?」
「そうだ。近いからまだいいが、この先は別の会場での試合になるかもしれないな」
そうなると色々と面倒くさいため、できる限り同じ会場がいいな。
そんなことを考えながら訓練場の方を目指して進んで行ったのだが……進むにつれて異様な熱気に包まれていることが分かった。
明らかに予選の盛り上がりではなく、あちらこちらから歓声が上がっている。
俺とクラウディアは顔を見合わせて首を傾げた後、盛り上がっている中心を見に行くと――そこで激しい戦闘を繰り広げていたのはまさかのギーゼラだった。
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