第62話 不機嫌なギーゼラ
あれだけ固い意思を持っていたのにも関わらず、押し掛けてきたクラウディアの入室をあっさりと許してしまった。
そこからはなるようになり、お陰で今日は酷い寝不足。
馬車での移動にしたことを心の底から良かったと思いつつ、昨日に引き続き帝都を目指して馬車に揺られた。
ギーゼラがなぜか不機嫌なのが気になったが、それ以外は特に問題もないまま、俺達は無事に帝都に着いた。
「おわー! やはり帝都は大きいですね!」
「グレンダールも大きな街だけど、ドラグヴィア帝国で一番大きな街なだけはあるな。城壁の大きさから桁違いだ」
「帝城が見えているのもいいですね! 一度来てみたいと思っていたので、エリアス様と一緒に来られて良かったです!」
「……別に普通の街と変わらないと思うがな」
「「………………」」
やはりギーゼラはどこか不機嫌。
普段はこんなちゃちな否定をするようなタイプじゃないからな。
「朝からずっと気になっておりましたが、ギーゼラはなんで不機嫌なのでしょうか? 私とエリアス様が何かしましたか?」
「別に何もしていないし、私は不機嫌ではない」
「いや、不機嫌だろ。何かしたなら謝るし、気になることがあるなら言ってくれ。俺にできることなら何でもやる」
「何でもっ!? …………い、いや、何でもない」
一瞬めちゃくちゃに反応したのだが、すぐに我に返ったようで、そっぽを向いて座り直した。
気になるが……言ってくれないと分からない。
そこからギーゼラが口を開くことはなく、俺とクラウディアの二人だけで、帝都の中に入るまで他愛もない話を行った。
そして入門検査を無事に突破し、俺達は帝都の街に降り立った。
「到着しましたね! ほら、ギーゼラ。着きましたよ」
「ああ。うお……人が凄いな」
「神龍祭があるからか分からないけど、本当に凄い賑わいだな。二人は帝都でどこか行きたいところはあるのか? 馬車で来たから開催日まで時間があるし、神龍祭までゆっくりと観光しよう」
「私は色々ありますよ! 帝都に行くってなってからは事前に調べて来ましたので!」
「わ、私も……! い、いや、やっぱり……」
「ギーゼラも遠慮なく言ってくれ。せっかく帝都に来たんだし、行きたい場所は全部回ろう」
口籠ったギーゼラにそう声をかけると、小さく頷いた。
今日のギーゼラのテンションは分からないが、行きたい場所に行ったら少しは機嫌も良くなるはず。
「それでは……まずはギーゼラの行きたい場所に行きますか? 先はお譲り致しますよ」
「ギーゼラはどこに行きたいんだ?」
「……う、うん。……武器屋」
モジモジしながら言うにしては、あまりにも可愛くない場所。
ただ、あまりにもギーゼラっぽいため、俺とクラウディアは思わず顔を見合わせて笑った。
「ふふふ、機嫌が悪くてもギーゼラはギーゼラですね」
「だな。行きたいお店とかは決まっているのか?」
「『スペイス』ってお店がいいらしい。有名なドワーフの鍛冶職人が営んでいるお店なんだ」
「それじゃ『スペイス』に行ってみようか。俺も何かいい武器があったら買いたい」
「私はエリアス様から頂いた弓がありますので何もいりませんが……ドワーフの職人さんは気になりますね!」
『スペイス』に行けると分かり、ついテンションが上がってしまったギーゼラ。
必死にテンションが上がっていないフリをしているのも非常に可愛らしく、小さな子どもを見ている感覚。
俺は少し後ろからルンルンのギーゼラを見ながら、『スペイス』という武器屋に向かって進む。
それにしても……『スペイス』って名前の武器屋は知らないな。
ドワーフという特徴があるなら、知らないはずがないと思うんだけど……。
ギーゼラが民家に住んでいなかったように、『インドラファンタジー』では既になくなった後とかの可能性もある。
知らないお店に行けることにワクワクしていると、どうやら『スペイス』が見えたようだ。
「エリアス! あれが『スペイス』だ! 凄い、本物の『スペイス』だぞ!」
「意外とこじんまりしている店なんだな。それに……なんか少し汚い」
「それが味なんじゃないか! 早く中に入ろう!」
ギーゼラは完全に舞い上がっており、俺の手を引いて『スペイス』の中に入った。
店の中はかなり蒸し暑く、店に入った瞬間から様々な武器が目に飛び込んできた。
「うわー……凄い……。手前にあるのは全部店主が打った剣らしい!」
「いや、本当に凄いですね。武器についてはよく分からないのですが、ここにある武器が凄いことは私にも分かります」
「これは本当に凄いな。全てにルーンが彫られている」
ルーンというのは古代文字のようなもので、ルーンを刻むことで武器に様々な効果を付与することができ、『インドラファンタジー』では古の技法とされていたもの。
ルーン武器はお店とかでは購入できず、ダンジョンでのみ入手できるエンドコンテンツ的な要素だった。
その効果は武器一つ一つによって代わり、同じ鋼の剣でも全く別の性能が付与される。
滅多に入手できないレアな武器に、強力な効果が付与されたルーン武器を探すため、何千時間とダンジョン周回をしていたプレイヤーもいたぐらい。
そんなルーン武器がこんなに売られているとは……正直想像もしていなかった。
ここのドワーフの店主は、ルーンが彫れたりするのだろうか。
だとしたら――『スペイス』はかなり重要な店になる。
「んおっ? こんな時間から客か?」
「は、初めまして……! 『スペイス』の店主のスペイスさんですか?」
「ああ、おらがスペイスだが……お前さんは誰だ?」
まさかの店名は自分の名前だったか。
スペイス。スペイス。スペイス……。
やっぱり聞き覚えのない名前だ。
「ギーゼラと言います! スペイスさんの武器を見てから、一度来てみたいと思っていました!」
「おおっ! そりゃ嬉しい! こんなべっぴんさんがおらのファンだなんてな!」
「一つ聞いてもいいか? この剣に彫られているルーン文字は店主自ら彫ったものなのか?」
「ん……? そうだが……ルーンが分かるのか?」
「ああ。昔に少しだけ習ったことがあった」
やはりルーン武器であり、それも店主であるスペイス自ら彫ったもの。
帝都に来て、まだ数十分しか経っていないが……相当な重要人物と出会うことができた。
「べっぴんさん二人に、ルーン文字が分かる坊主。何だか凄い客が来たな!」
「色々と聞きたいことがあるんだが……まずは店内を見せてもらってもいいか?」
「もちろん構わねぇぞ! 好きなだけ見てってくれ!」
「ありがとうございます! じっくりと見させて頂く!」
スペイスはにっこりと笑ってから、工房へと姿を消した。
店内に残った俺は、ギーゼラとあーだこーだ言い合いながら売られている武器を物色し、互いに良いと思った剣を一本ずつ選ぶことに決めた。
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