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第61話 出発


 バームモアの森にて、デミコフ研究所の魔物と戦った日から一週間が経過した。

 あの後も色々と調べたのだが、結局何も分からず終いであり、メラルベを襲った男については何の情報も得られないままだった。


 モヤモヤはしているものの、メラルベは例の洞窟を気に入ってくれたようだし、あの洞窟の奥にいる限りは襲われることはない。

 この間は相手が相手だっただけにやられてしまったが、メラルベ自身も相当強いため大抵の魔物や人間ならば追い返せるからな。


 俺達が留守の間は、唯一街に残るコルネリアが様子を見てくれるとのこと。

 とりあえず一切の心配なく、帝都へと向かうことができる。

 


「いよいよ初めての遠出ですね! 冒険者になってからは、街の近くでふらふらしていただけでしたし……帝都に行くのは非常に楽しみです!」

「私も楽しみだな。冒険者になったが、ここまで一切冒険者らしいことをしていなかった。神龍祭が目的ではあるが、帝都に行ったら依頼を受けてみたい!」


 ギーゼラは拳を強く握りしめ、力強くそう宣言した。

 ちなみにだが……ギーゼラとはバームモアの森以降、何の進展もない。


 そもそも二人きりになる時間が一切なく、ちらちらとお互いに意識してはいるのだが、その先には進めていない状態だ。

 メラルベを傷つけたことも許せないが、ギーゼラとの良い雰囲気をぶち壊してくれたことも本当に許せない。


 あの時強引にでもキスするべきだったと、この一週間常に後悔しているが、こればかりは仕方ないからな。

 デミコフ研究所の連中は一生恨むとして、今は気持ちを切り替えて帝都に向かうことに集中する。


「帝都へは意外と遠いんだよな? せっかくだし、向こうの依頼も受けてみよう」

「歩きですと三日ほどかかる距離ですね。帝都に着いてから、四日後に神龍祭が始まるってスケジュールです」

「おお! 期日的には色々とバッチリじゃないか? やはり冒険者になったからには――徒歩で向かうよな?」

「いや、馬車で行く予定だぞ? 歩くのって大変じゃないか?」

「そうなのですか? 私もてっきり歩いて向かうのかと思っておりました」

「私もだ! 歩きで行くのが冒険者というものだろう!」


 ギーゼラの冒険者論はよく分からないが、帝都で戦うなら無駄な疲労なんてない方がいい。

 それに、ティファニーと街を回ったときに移動の大変さを痛感したからな。


 道を切り開いて進むならまだしも、舗装された道をただ歩くのは絶対に無駄だし、家の裕福さを使って楽できるところは楽した方が絶対にいい。

 それでどうしても歩きたいってなったら、帰りは歩いて帰ればいいだけだしな。


「いいや、行きは絶対に馬車で行く。外の景色が見えるような馬車にしてもらったから、退屈はしないはずだ」

「むむむ……。エリアスがどうしてもと言うなら従うが、私は今でも徒歩派だぞ!」

「私はどちらでも構いませんでしたし、エリアス様の言うことは正しいと分かっていますので賛成です!」


 ギーゼラだけは最後まで納得はしていない様子だったが、俺のごり押しで馬車で行くことに決定。

 荷物をまとめてから、すぐに出発することとなった。



 朝一で出発し、馬車に揺られること約十時間。

 ようやく経由地であるラグラールの街が見えてきた。


「やっと今日宿泊する予定の街が見えてきた」

「ふふふ、長いこと揺られていましたが……楽しかったです。やっぱりエリアス様とお喋りするのは楽しいですね!」

「私も楽しかった。話が一生尽きないのは凄いと思う。それと……馬車で正解だと言うことが、この道中を見て切実に思った。平坦な道が続くだけで、風景はあまりにも退屈だったからな」

「そうだろ? 森とか山とか川とかがあるなら、歩いて向かうのもいいと思うが、帝都まで続くのは平坦な道。馬車なら会話だけに集中できるし、荷物の量も気にならないからな」


 ギーゼラが分かってくれたようで良かった。

 『インドラファンタジー』のように、無限にアイテムが待てるならまだしも、現実世界となると持てる荷物も限られてくる。


 長距離移動するとなると、荷物を最低限に留めながら、道中で寄った街で必要なものを随時買わないといけない。

 そういうやりくりも楽しさの一つではあるんだろうけどね。


「エリアス様に従っておけばいいのですよ! ギーゼラはまだまだですね」

「むむむ……。そういえば宿についてはどうするんだ? みんなで一部屋か?」

「いや、さすがに一人一部屋を取るつもりだぞ。依頼はこなしてきたし、お金についても特に困っていないしな」

「えー! 私はエリアス様と一緒のお部屋が良かったです!」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが……一人一部屋だ! 空いていなかったら仕方がないけどな」


 “隣で埋まっていてください!”と呟き続けていたクラウディアの願いも空しく、一人一部屋取ることができた。

 いつもと違った場所でのエッチもしてみたい気持ちもあるが、神龍祭が終わるまでは避けた方がいいはず。

 俺は強い気持ちで禁欲することを決意した。




※     ※     ※     ※




 簡素な部屋に質素なベッド。

 天井を見上げながら、私は自分の気持ちを押さえ込むように布団を強く抱く。


 エリアスとバームモアの森に行ってから、自分の気持ちがよりおかしくなってしまった。

 エリアスのことは自然と好きになっていたが、あの時から明確に愛しているという感情に変わった気がする。


 あの時、抱きつくことができていたら。

 あの時、キスすることができていたら。


 もしかしたら、私はエリアスと一線を越えることができていたかもしれない。

 そう考えるだけで息が荒くなり、布団を抱き締める力が強くなる。


 今すぐにでも、エリアスの部屋に押し掛けたい。

 ただ私は第二夫人であり、それも冒険者になるために形式的に婚約しただけの関係。


「……はぁー」


 ため息が漏れてしまい、つい涙が溢れてしまうほどに恋しい。

 ただ優しく抱き締めてくれるだけで構わない。


 私はエリアスのことを考えながらベッドの上で悶えていると――隣のエリアスの部屋から喘ぎ声が聞こえてきた。

 ここはエリアスの家ではないため、壁がそこまで厚くない。


 そのため二人の情事が丸聞こえとなっている。

 私はベッドから飛び起き、布団を抱いたまま壁に耳を当てた。


 クラウディアの心の底から気持ちの良さそうな声が聞こえ、更に心臓が苦しくなる。

 少し前までなら興味が勝り、二人の情事を見ることもできたが……今はクラウディアに対する羨ましさが勝り、見に行くことすらできない。


 気遣うエリアスの優しい声。そんな声にクラウディアは甘えた声で答える。

 そして音が止んだ後、リップ音が聞こえてきた。


 全てを想像で補ってしまうため、直接見ているときよりも激しく興奮してしまう。

 羨ましい。羨ましい。羨ましい。


「……はぁ……はぁ」


 ドロドロとした感情が渦巻き、そして私は自らを宥めるべく、下腹部に手を伸ばした。

 ……もうそろそろ限界かもしれない。

 まだ何とか耐えられてはいるが、私がエリアスを襲ってしまったとしても――クラウディアは許してくれるだろうか。



ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!

『ブックマーク』と、広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです<(_ _)>ペコ

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