第51話 これからのこと
実家に戻り鍛錬を始めてから、あっという間に二ヶ月が経った。
身が入ったことでかなりの成長をすることができており、魔法については中級魔法を完璧に扱えるようになり、剣術の方ではティファニーとある程度やり合えるようになった。
やり合えるといっても勝率は四割ほどで、ティファニーに置いていかれないように食らいついているような状態であるが。
ゲームの知識があっても本当に勝てず、大剣使いなのに大剣使いの動きをしていないんだよな。
これに関してはティファニーがとにかく凄すぎるだけであり、そんな相手によく食らいつけていると自分でも思う。
そして何と言っても一番は――回復魔法だろう。
コルネリアとローゼルのタッグでの指導は素晴らしく、この二ヵ月で一番伸びたのは間違いなく回復魔法。
今までは直接触れていないと回復できなかったのだが、この二ヵ月で飛ばす【ヒール】を習得することができた。
これで後方支援という形で、前衛で戦うティファニーやギーゼラの回復を行うことができる。
…………で、ギーゼラという言葉で思い出してしまったが、ここ一週間で性事情にも大きな変化があった。
その大きな変化というのは、何故かギーゼラが俺とクラウディアの性行為を見てくると言ったもの。
これに関してはさっぱり意味が分からず、最初にクラウディアが誰かに尾行されていることに気がついた。
そしてその尾行していた正体がギーゼラだと分かった途端、俺の部屋に招き入れたのだ。
部屋に入ってきたギーゼラも様子がおかしく、息を荒立てながら俺とクラウディアを見ており、そしてそんなギーゼルに見せつけるように行為を行うようになった。
ちなみに俺はギーゼラに触れてはおらず、たまにクラウディアがギーゼラに耳打ちするだけ。
もう訳が分からないが、単純に行為を他人に見せつけたいというクラウディアの性癖な気がしてきた。
……まぁ俺も、ギーゼラに見られているという状況だけで激しく興奮してしまったため、何も文句を言うことができない。
本当に男というものは……あまりにも性欲に弱いと痛感する。
そして――来週から学校が開校するということで、今日は俺とクラウディアとギーゼラで話し合いを行うことになった。
集まっているのは俺の部屋であり、俺はどうしてもエロいことが頭を過ってしまうのだが……クラウディアとギーゼラはいつも通りの態度。
というか、ギーゼラはずっと俺に対しての態度がおかしかったのに、性行為を見た日から何もなかったかのような態度に戻っている。
普通は性行為を直接で見た後の方がおかしくなりそうなのだが……本当に理解ができない。
「それでエリアス様。貴族学校の方はいかがなさいますか?」
「いかがなさいますか――というと?」
「また通うかどうかです。私はもう通う必要がないと思っております」
「……ん? 学校に通わないという選択肢があるのか?」
「私自身、エリアス様と結婚しなかった時のことを考え、貴族学校には通っておりましたので。エリアス様と結婚するとなれば、もう学校には行かなくていいのかなと」
よく分からないが……そういうものなのか?
確かに、もう貴族学校で学べることはない。
学校の設備は驚くほどしっかりしていたが、実際に通ってみて分かったことは、ティファニー、デイゼン、コルネリアから教えてもらった方が遥かに上達するということ。
座学に関しても、知っていることを教えられるだけで時間の無駄。
クラウディアの言うことにも一理あるどころか……辞めるのが正解なのかもしれない。
「私もクラウディアと同じ考えだ。そもそも私は通いたくない学校に、親がうるさいからという理由で仕方なく通っていた。私はティファニーさんとデイゼンさんに指導してもらったことで、家を飛び出してでも冒険者の道を進むことを決めた。そして……私は二人と一緒に冒険者になりたいと思っているのだが、二人はどうだろうか?」
「私達三人で冒険者ですか? それは……楽しそうですね!」
「確かに楽しそうではあるが……家を飛び出してでも? もう二度と家には戻らないつもりってことか?」
「ああ。両親とはずっと馬が合わなかったから特に何とも思わない。妹だけが唯一の気掛かりだが、私が有名になればきっと妹の方から来てくれる」
今のギーゼラの言葉。そして『インドラファンタジー』のギーゼラと比べることで色々分かった気がする。
まず『インドラファンタジー』のギーゼラに貴族なんて設定がなく、簡素な家に一人で住んで冒険者をやっていたのは、家を飛び出した後だったから。
そして『インドラファンタジー』内でも、ちょくちょく妹だけは心配する描写があったのだが……ギーゼラが妹さんと再会することはない。
その理由については分からないが、ギーゼラがここで家出をしてしまったら、もう二度と妹さんと会えなくなってしまう可能性が高いということ。
そのことを加味すると――家出は推奨できない。
「学校を辞めるにしても、家出だけは賛成できない。ちゃんとギーゼラの両親を説得しよう」
「無理だ。何度言っても理解してくれなかった。唯一出してくれた条件も、あの学校を卒業することだったし――きっとあの学校を卒業したところで認めてはくれない」
どうやら相当強く反対されているようだ。
説得が難しいというなら、せめて言われた通り学校を卒業した方がいいと思うのだが……。
「ギーゼラのご両親はなんで反対なされているのですか?」
「冒険者は野蛮だから――だそうだ。貴族の娘がなるものではないと」
「なるほど。私の両親も似たような思考ですのでよく分かります」
「やはり貴族はどこもそういう考えなんだな。……なら、クラウディアも家を飛び出して冒険者になるのか?」
「いえ。私はエリアス様の第一夫人であり……オールカルソン家に嫁ぐという立派な大義名分がありますので。何をしようが干渉してくることはありません」
「そ、そうか。え、エリアスのお嫁さんになれば……」
目を見開き口をぽかんと開け、そう呟いたギーゼラ。
何だか嫌な予感が――。
「エリアス。私をエリアスの第二夫人にしてくれ! そうすれば……私は家を出ることなく、冒険者になることができる!」
「そ、そんな簡単に結婚なんかできないだろ。そもそも結婚って好きな人同士でするものじゃないのか?」
クラウディアと政略結婚しておいて、今さら言うのもおかしいが……クラウディアと政略結婚をしたのは俺の前のエリアスだからな。
「……わ、私はエリアスのことは好きだぞ。……エリアスは私のこと嫌いなのか?」
顔を赤く染めながら、急に甘えるような猫撫で声を出したギーゼラ。
普段のハスキーな声とのギャップもあり――死ぬほど可愛い。
「い、いや俺もギーゼラのことは好き――じゃなくて、クラウディアも反対だろ?」
「私一人だけをエリアス様のお嫁さんにして頂けたのなら、もちろん幸せです。……ただ、奥様を複数人作ることも、いつか妾を作ることも覚悟できております。エリアス様は魅力的なお方ですし、そんなお方の第一夫人として愛されていれば――私は満足ですので」
そう言って笑ったクラウディア。
実質の一夫多妻の了承に、愛人もOKという言葉。
正直、こんな天使のようなクラウディアがいて、他に目移りしないと断言したいのだが……。
ギーゼラや、あわよくばティファニーともエッチがしたいと思ってしまうのが男の性。
くっそ。男はなんでこんなにも性欲に弱いんだろうか。
「く、クラウディアがいいと言うのであれば、俺も別に構わないが……ギーゼラも本当にいいのか?」
「ああ。私の方こそ、私なんかを妻にしてしまっていいのか?」
「そりゃもちろん! ギーゼラはめちゃくちゃ可愛いか――」
そこまで言いかけ、俺はちらりとクラウディアを見てみると笑顔のまま表情が固まっていた。
「……すみません。やっぱり今すぐには嫌です! 状況が状況ですので今すぐの婚約は認めますが、しばらくはエッチも禁止で見るだけです!」
「じゃあ、しばらくは形だけの結婚ということになる感じなのか」
「そうか。ちょっと……残念だけど……私はその条件を呑もう。そして――三人で冒険者になろう」
こうして、訳も分からずギーゼラに性行為を見せた約一週間後。
俺はギーゼラと婚約することになった。
色々とぶっ飛び過ぎていて、まだ気持ちの整理もついていないが……単純にあのギーゼラと結婚というのは嬉しすぎる。
主人公視点では、【聖女】であったソニアとしか恋愛には発展しなかったからな。
18禁のゲームではないし、当たり前といえば当たり前なのだが……好きであったキャラ。
それも感情があって生きているギーゼラと結婚なんて、俺にとっては夢の一つ。
もちろん第一はクラウディアを大事にしなくてはいけない訳で、その前に俺が死なないことが最優先。
これまで以上に気合いを入れ、これからの死という俺の運命に抗うことを強く誓った。
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