第49話 心境の変化
クラウディアとの一件から二週間が経過した。
俺の二度目の人生の目標である“モテる”が達成され、全てに満足してしまうのではという懸念もあったのだが……。
この二週間過ごしてみた限りでは決してそんなことはなく、今後の明るい未来のために絶対に死ねないという気持ちがより強くなり、これまで以上に鍛錬に身が入った。
恐らくではあるが、エリアス・オールカルソンという人間は死ぬことが運命として定められている。
『インドラファンタジー』での死因であったティファニーの刺殺を回避したと思えば、次はバームモアの森でメラルベに襲われた。
仮に俺の前のエリアスが、ティファニーを含む使用人たちと仲良くなっていたとしても、きっとメラルベに殺されていただろう。
俺はゲームの知識と努力で強くなっていたお陰でメラルベとも戦うことができたが、そのまたすぐ後に貴族学校で暗殺されかけた。
それもグルーダ法国の裏の第八席次と、第七席次という化け物に近い二人。
正直ここは殺されていてもおかしくなかったし、流石に色々なことが起こり過ぎている。
このまま何もしなかったら確実に何者かに殺されしまうし、殺されてしまったら今の幸せな生活が終わってしまう。
そうならないためにも……俺はこの定められた“死”に抗うために強くなる。
幸いにもゲームの知識はあり、どう強くなればいいのか分かっているからな。
もちろん自分磨きも忘れるつもりはなく、ギーゼラやティファニーからも好かれたい。
ということで気合いの入った俺は、この二週間は鍛錬に集中した。
ちなみにだが……クラウディアとは特に変な感じになることはなく、前までと特に何も変わっていない。
みんなの前でイチャイチャとかもしてこなければ、変なアピールとかもしてこないため、日本人の感覚でいうとかなり不思議な感じ。
まぁ貴族は普通に第何夫人とかもいる上に妾とかもいる世界だし、これが普通の対応なのかもしれない。
ただ……夜は三日に一度ほど、クラウディアが俺の部屋に訪れるようになり、部屋ではめちゃめちゃに甘えてくるため自然な流れで性行為に及んでいる。
甘えてくるクラウディアはまるで天使のようであり、可愛くて可愛くて仕方がないのだが……何でこうなったのかは未だにさっぱり分からない。
つい数ヶ月前までは死ぬほど嫌われており、婚約解消を提案したことで仲良くなることができた。
最近は婚約解消について話すことはなくなったものの、婚約解消の方法については一人で色々と考えていたからなぁ……。
もしかしたらエリアスと結婚するメリットを見つけただけなのかもしれないし、あまり浮かれすぎないようにしようと思う。
そんなことを考えながら、俺は中庭で弓の練習をしているクラウディアの下に向かった。
早朝はクラウディアに弓の稽古をつけるのが日課となっており、今日もこうしてクラウディアは朝から弓を射ている。
「クラウディア、おはよう」
「あっ、エリアス様っ! おはようございます!」
恐ろしいほどに集中していたのだが、俺が声を掛けた瞬間に満面の笑みを浮かべて振り返った。
クラウディアの笑顔は前よりも、更にもう一段華やかになった。
こんな満面の笑みを俺に向けてくれていることに、思わずニヤけそうになるが必死に堪える。
「最近の上達ぶりは凄いな。もう三十メートルの距離からなら、ほぼ当てられるようになったか?」
「はい! エリアス様から頂いた精霊樹の弓のお陰で、この距離からなら外すことはないぐらいにまで精度が上がりました。それに、命の指輪のお陰で手の傷もすぐに癒えますし……練習し放題です!」
「俺のプレゼントが役に立ったのなら良かった。そろそろ動く標的を狙ってもいいかもしれないな。街の近くにバームモアの森があるし、そこで獣や魔物での実戦を行おうか」
「いよいよ実戦ですね。緊張はしますが、着実に成長しているのが分かるので楽しみな気持ちの方が大きいです!」
ここまで早く弓の精度を上げられるとは思っていなかったため、こんなにも早く上達したのは本当に努力の賜物だと思う。
この調子なら、あっという間に動く標的も捉えられるようになるだろうな。
「それじゃ明日からはバームモアの森に行こうか。朝から狩りをして、昼頃に戻るって感じにしよう」
「分かりました! ふふっ、エリアス様と二人でバームモアの森……楽しみです! 明日からもよろしくお願いしますね」
それからクラウディアの弓を見ながら俺は剣を振り、気になった箇所があったらアドバイスを送る。
なんてことのない鍛錬だが、このなんてことのない鍛錬が本当に楽しい。
そしてクラウディアとの鍛錬が終わった後は、ギーゼラと共にティファニーから剣の指導を受ける。
この二週間でギーゼラも完全にティファニー色に染められており、俺と同じような状態になっている。
「二人共来たな」
「「はい!」」
「ふふ、良い返事だ。ギーゼラはこれまで教えた通り、型通りに素振りの練習」
「はい!」
「エリアスは私と模擬戦だ。学校に通い出してからは随分と情けないからな。この二週間での勝率は一割くらいか?」
「はい! ギリ二割です!」
「勝率が五割近かったのに、ここまで落としているってことは腑抜けている証拠だ。私はエリアスの背中を守るために死ぬ気で強くなる。だからエリアスも――私を失望させないでくれよ?」
“失望させないでくれ”。ティファニーのその言葉が俺をやる気にさせる。
ある種脅しの言葉なのだが、俺のために死ぬ気で努力してくれていることが伝わるため、俺もティファニーを失望させたくないという気持ちが強くなっている。
ちなみにだが……俺が腑抜けているのではなく、ティファニーの成長速度が半端ないだけ。
得意武器が片手剣ではなく、両手剣だったのではと思うほどの成長速度であり、俺も必死にゲームの知識も駆使して戦っているのだが、勝率が二割にまで落ちている。
木剣を使っている模擬戦でこの強さということは、聖剣クラウソラスを使った時にどれだけ強くなるのか想像するだけで恐ろしい。
そしてティファニーとの模擬戦を終えた後は、離れにあるコルネリアの部屋で回復魔法の練習が待っている。
この二週間で一番上達したのは回復魔法であり、色々と舐めていたが流石は人間国宝。
指導法も色々と知っており、ローゼルの説明下手な部分はコルネリアが補足してくれるため、完璧な回復魔法の指導を受けることができている。
これから二人に魔法を教えてもらうのを楽しみにしつつ、喉の渇きを潤すために井戸にやってきたのだが……井戸を先に使用していたのはギーゼラ。
井戸の水を頭からかぶっており、俺はなんてことのない感じで後ろから声を掛けた。
「ギーゼラ、お疲——」
「――ひゃっ! ……え、エリアスか。きゅ、急に声を掛けないでくれ。あ、あと今は水を浴びていて肌着の状態だから……あっちを向いていてくれ」
服装を見てみると、確かに薄着のインナー姿。
ただ、これぐらいの恰好ならば前から見ていたはずなんだけど……最近、ギーゼラの反応が少しおかしい気がするんだよな。
「すまん。……もう大丈夫か?」
「あ、ああ、もう大丈夫だ」
そう言われたため振り返ったのだが、濡れて透けた白のTシャツという……余計にエロい恰好に変わっていた。
インナーは変わらず身に着けているのだが、透けているせいでTシャツがエロいこと以外何の意味も成していない。
そもそもギーゼラが変な反応をしなければ、こんなに意識することはなかったんだが……。
俺はあまり視線を向けないようにし、最近態度がおかしい理由を尋ねることにした。
「なぁ、最近なんか俺を避けているか? ギーゼラの態度が変な気がするんだが」
「さ、避けてはいないぞ。決してな!」
「……なんか怪しいな。何かあったのなら言ってくれ。言わないと何も分から――」
「あ、あんなこと……い、言える訳がないだろ!」
ギーゼラは急に顔が真っ赤にさせると、俺を突き飛ばしてどこかへ行ってしまった。
……本気で意味が分からない。
俺はモヤモヤした気持ちを抱え、首を捻りながらコルネリアの部屋へと向かったのだった。
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