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第43話 狂化狂乱


 なぜこの学生が俺の存在に気付くことができたのか、全くもって理解不能。

 これまで誰一人として……いや、表の第一席次クリスティアネと、元第一席次ニコラスだけは看破してきた。


 二人の共通点は超がつくほどの大魔導士であることだけであり、その他は一切の繋がりもねぇ。

 看破する手段があるのなら伝えておけと言いたくなるが、あの二人は本当に無口で面白くねぇ人間だからな。

 あー、無口って点も共通しているが……まぁ関係ねぇか。


「抵抗するなら苦しんで死ぬことになるぜェ? ……楽に逝きてェなら、抵抗せずに死を受け入れろ」

「せっかく死を回避したのに、こんなところで死ねる訳がない。俺はまだモテていないんだから、最大限の抵抗をさせてもらう」

「ちょっとエリアス! こいつは一体誰なの!?」

「くっくっ、そうかい。なら、死の間際でせいぜい後悔するんだなァ!」


 やはり先に殺るべきはこの学生。

 ローゼルとの戦闘を見た時から思っていたが、強いのは明らかにこっちの方だからなぁ。


 短剣を構え、この学生の出方を窺う。

 考えなしに攻撃をしてきたら、後方に待機させているシアーラに援護してもらい短剣をズドン。


 まずは四肢を抉って動きを止め、ローゼルを殺った後にこの学生は苦しませて殺す。

 少し実力があるだけでイキッてしまった貴族のボンボンが、誰に盾ついたのか……分からせてやらねぇとなァ。


 一定の距離を取り、互いに構えた状態なのだが……動いてこねぇな。

 それも立ち回りが、シアーラの死角になるように動いていやがる気がする。

 

「ねぇ! こいつら誰なのって! やっつけちゃっていいの!?」


 後ろでピーチクパーチク騒ぐローゼルにも気にも止めず、俺だけに恐ろしい集中力を向けているのも驚く。

 向かい合って分かるが、ローゼルとクソ生意気なこの学生。

 正直……どっちが勇者と共に偉業を成し遂げた人間なのか分かりゃしねぇ。


 ――チッ。このまま見つめ合っているんじゃ埒が明かねぇな。

 向こうからの攻撃を誘い出したかったが、俺から動くしかなさそうだァ。


 俺は後方に待機させているシアーラに合図を出し、まずは魔法を放たせることにした。

 シアーラの魔法を食らったらジエンド。対応が少しでも悪かったら短剣でズドン。


「【雷槍ライトニングスピア】」


 俺の合図に合わせ、複合魔法である【雷槍ライトニングスピア】が放たれた。

 何もない場所から放たれた高速の雷撃。


 普通なら不可避の一撃なはずなのだが――学生は人差し指を【雷槍ライトニングスピア】に向けると、何らかの魔法を放った。

 まさかの詠唱はなし。無詠唱とは驚いたがァ、指先を向けただけで【雷槍ライトニングスピア】に対抗できる魔法を放てる訳がねぇ。


 俺はそう確信していたのだが……学生の放った氷塊のような魔法は、【雷槍ライトニングスピア】と衝突し――そして一瞬で消滅させて見せた。

 …………意味が分からねぇ。本当に何者なんだこいつは。


 シアーラの魔法に合わせて飛び込む予定だったんだが、魔法で対抗するという予想外の対処法を目の当たりにして動けなかった。

 これで隠していたシアーラの存在もバレて……いや、この学生は最初からシアーラがいることを分かっていたかァ。


 久しぶりに背中に嫌な汗が流れる。

 この学生の魔法が凄まじいことはローゼルとの模擬戦を見て分かってはいたがァ、実戦でもこれだけ戦えるなんて只者ではねぇ。


「改めて聞くがァ……てめェは何者だ?」

「この学校の一生徒だ。それと、人に名を尋ねるならまず自分から名乗った方がいい」

「相変わらずクソ生意気な野郎だァ。いいぜェ、俺が相手してやるよォ」


 魔法が得意ということなのであれば、近接戦はそこまでではねぇはずだ。

 ノータイムで放つ魔法だけは相当怖いが……魔法を使う暇もなく攻め立てるのみ。


 もう完勝することにこだわるのは止め、短剣を構えて学生に斬りかかりにいった。

 地面を這うように移動し――【加速】【疾風】【速脚】。


 スキルをぶっ放し、目で追えない速度で懐に潜り込み、下から突き上げるように――【牙突】のスキルで心臓を狙って短剣を突き刺す。

 苦しませて殺せないことは残念だが、初見では絶対に対応できない不可避の一撃。


 上下での移動で視線を揺さぶり、スピードを緩めたところからのスキルを使っての超速での突撃。

 そこから繰り出される、【牙突】による突き。


 俺はどんな人間でもこれで仕留めてきた。

 魔法使いの学生ごときが対応できるはずはない。――そう思っていたのだが、例の学生は楽々剣で弾いてきた。


 まるで動きを読まれているような捌き方であり、過去に戦ったことがある相手なのではという錯覚まで起きる。

 ……本当にありえねぇ。シアーラを凌ぐ魔法を使え、俺の攻撃に楽々対応できる剣術。


「ほ、本気で……てめェは何者なんだァ!?」

「だから、ただの学生だって言ってるだろ」


 呆れたようにそう言った学生は、握っていた短剣を地面に落とすと……代わりに腰に差していた木剣を構えた。

 質は低いが真剣であった短剣から、斬れもしない木剣に変わったのだが――周りに纏う空気が明らかに変わった。


 この学生の構えは元々隙が少なかったのだがァ、木剣に切り替えてからは最早どこから攻撃してもやられる未来しか見えないぐらいの圧を感じる。

 この学生の得体の知れなさに俺がビビっているのもあるが……きっとそれだけじゃねぇ。


 今まで使っていた短剣は得意武器ではなく、片手剣がこの学生の得意武器。

 そう考えるのが妥当であり、今まで俺は不得意だった短剣で相手取られていた訳かァ。

 

 そして今は木剣を構えており、対する俺は特注のミスリルの短剣。

 これほどまでの武器差があるのに、俺は一歩も動けずにいる。


 ……クソがァ。裏の第八席次が聞いて呆れる。

 こんなところで使う羽目になるとは思っていなかったが、こうなったら本気でいくしかねぇ。


「シアーラ、あれを使うからなァ!」

「え? 禁止されているはずじゃ」

「構わねぇ……。本気でいかなきゃこのガキにやられちまう」

「なら、勝手にして。私は退避するし止めたと報告する」

「それで構わねぇ。巻き込まれねぇように離れてろよォ!」


 シアーラがこの場から離れたことを確認してから、俺はスキルを発動させる。

 このスキルは俺のとっておきであり、才能のなかった俺が裏の第八席次にまで上ることのできた理由。


「【狂化狂乱】」


 スキルの発動と共に、意識が一気にブッ飛ぶ――!

 筋肉が膨張し、全身の細胞が活性化するような感覚に襲われ、そして――それと同時に全てを壊したくなる破壊衝動に駆られる。


 もはや俺ですら俺を止めることはできねェ!!

 目は血走り、舌を垂らしながら目の前にいるクソガキを壊すためだけに俺は動く!


「オラ”オラ”オラァ”!! 避けてるだけじゃ――死んじまうぞォ!!」


 ハチャメチャな動きでありながら、的確に急所を狙う無茶苦茶さ。

 この状態の俺は誰であろうと止めることはできねェ!

 逃げ回っているがァ、捉えるのも時間の――無駄ぁ?


「――はい。まずは小手」


 ――り、理解が追い付かない。

 自分自身でも制御ができない動きの中、このガキは俺の動きを完璧に合わせ、打ち込んできやがったァ。


 【狂化狂乱】でスピードもパワーも上回ったはずなのに……なぜこのガキは俺の動きに合わせられやがる!

 その一発を食らってから、俺は更に予測不能な動きに切り替えた――はずなのだが、もはや全てが読まれているのかのように出足の部分で完璧に合わせられ、俺は成す術なく木剣相手に一方的にボコられる結果となった。


 【狂化狂乱】のスキルが解除されたのか、それとも全てを対応されて狂った中でも心が折れたのか。

 俺は膝から崩れ落ち、ミスリルの短剣を地面に落とした。


「……な、ナニがァ、ど、どうなって……やがるんだァ」

「お前の動きは規則的な不規則なんだよ。無茶苦茶に動いているのに、最後に急所を狙ったら意味がない。……だから、いくら動きが速かろうが対応が楽。本気で勝ちたいならスキルに頼らず、意識を保って自分の意思で体を動かさないと。――って、まぁもう次のチャンスはないんだけどさ」

「く、クソがああああアアああああアアア!!!!」

「挑んだ相手が悪かったな。……“泣き虫”ヴィルヘルム」


 名乗っていないのに……なんで俺の名前を知っていやがる? そして、何故その幼少期のあだ名を――。

 ……………こいつは俺の全てを最初から知っていた……?

 心の底から漏れ出た断末魔から一転、無理やり冷静な状態に引き戻されたところで、俺が落としたミスリルの短剣によって――首を斬られた。


 俺の最後の質問は言葉にならず、首のなくなった俺の胴体が見える。

 そして地面に落ちたと同時に俺は――二度と目覚めることない眠りについた。



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