第37話 伝説の剣
馬車へと戻った後はすぐにエアシャイトの街を出発し、ハーゲンブルクの街にやってきた。
今日の目的地はこのハーゲンブルクであり、かなり大きな街なだけあり目当てのアイテムがいくつもある。
「エリアス、随分とご機嫌だな」
「ずっと来たかった街だし、エアシャイトと比べても賑やかだからテンションが上がっている」
「ふーん、意外と子供っぽいところもあるんだな。それで……この街でもまた別行動なのか?」
「ああ。途中からは別行動させてほしいんだが、まずは一緒にご飯を食べに行こう。朝から何も食べていないしお腹空いているだろ?」
「いや? さっきの街で適当なものを買って食ったからな」
「えっ、食っちゃったのか? じゃあもう食べられないとか?」
「食べられはするが、お腹は減ってない」
なんとも微妙な回答。
ハーゲンブルクには有名なステーキ屋があり、そこのステーキをティファニーと食べたかったのだが……自由行動する前に食べないように伝えておくべきだったな。
「ステーキが食べたいんだけど……食べられないか? ティファニーが食べれないなら、俺一人で行ってくるんだけど」
「確かに腹が減っていないと言ったが――ステーキなら食べる。肉は流石に別腹だ」
「肉が別腹なんて聞いたことないけどな」
そんな会話をしつつ、俺はティファニーと一緒にステーキを食べに行くことにした。
着いたのは、ハーゲンブルクの外れにある小さな店で、その店名は『竜肉牧場』。
名前から分かる通り、ドラゴンの肉を扱っているステーキ店。
『インドラファンタジー』でも実際にあった店だったが、食事というシステムがなかったから店内に入れもしなかった。
それでも人気店だということは描かれていたため、ハーゲンブルクに来たら絶対に行きたいと思っていた店。
「ドラゴン肉の専門店か。ドラゴンの肉は食べたことがないな」
「ティファニーも食べたことがないのか。意外だな」
「ったく、エリアスは私を何だと思っているんだ。ドラゴンなんて普通に生きてたら早々食べないだろう。それで、この店ではどんなドラゴンが食べられるんだ?」
「いわゆる伝説のドラゴンじゃなくて、バトルリザードとかレッサードラゴン、ベビーワイバーンとかの比較的倒しやすいドラゴンの肉らしい」
これは事前にグレンダールの街で調べた情報。
上記のドラゴンはダンジョンとかにも普通に出てくる魔物のため、入手もしやすいのだと思う。
「へー。意外とちゃんとしたドラゴンじゃないか。……食べたばかりなのにお腹が減ってきた」
「凄い胃袋だな」
「あまり女性にそういうことを言うな」
ティファニーに軽く叱られた後、一緒に店内へと入る。
店の中はカウンターだけであり、席の真ん前に鉄板が置かれている――高級ステーキ店のような造りになっていた。
俺達はワクワクしながら席に着き、一番値段の高かったベビーワイバーンのステーキを注文。
店主はすぐに俺達の前で肉を焼いてくれ、目の前で焼かれていくステーキに釘付けとなる。
「――や、やばいな。本気で美味そうだ」
「俺は食べなくても分かった。このステーキは絶対に美味い」
そんな感想を言い合っていると、ようやくステーキが焼き終わったようで皿に盛りつけられて提供された。
ソースもお洒落にかけられていて、A5ランクの国産和牛と遜色ない――いや、それ以上にサシが入っていて美味そうな見た目。
俺とティファニーは一度見合い、頷いてから同じタイミングでステーキを口に入れた。
…………美味すぎる。確実に今まで食べたステーキの中で一番美味い。
「口の中が幸せだ。こんなに美味しい肉は初めてだぞ」
「俺もだ。こんなに美味しいステーキ……いや、美味しいものは初めて食べた」
流石は『インドラファンタジー』でも、有名だった店。
これは今度、クラウディアにも教えてあげたい店だ。
かなりの量があったステーキだったが、俺とティファニーはあっという間に完食。
料金は金貨五枚とそこそこしたが、オールカルソン家の感覚でいったら安い方。
「はぁー……。本当に至福の時間だった。エリアス、この店を紹介してくれてありがとう」
「付き合ってもらったのは俺の方だし、俺が礼を言う立場だ。ティファニー、ありがとう」
互いに固い握手を交わしてから、俺とティファニーは再び別行動を取ることとなった。
エアシャイトの街の時と同じように、俺はメモした場所を巡ってアイテムを回収していき、無事に全てのアイテムの回収に成功。
ハーゲンブルクの街で手に入れたアイテムは三つであり、一つはエアシャイトでも回収した旧王国の金貨。
二つ目はマジックイヤリングという装備品であり、魔法を使う際の魔力消費を抑えるアクセサリー。
魔法の扱いに苦戦しているギーゼラが装備すれば、必然的に試行回数を増やせるようになる。
ギーゼラに魔法を習得させると決めた日から、このアクセサリーを入手することは決めていた。
そして最後のアイテムが精霊樹の弓。
これは拾うアイテムではなく、ハーゲンブルクの裏カジノで入手できるアイテム。
カジノも攻略法があるのだが……時間がないのと、イカサマを疑われて揉め事になったら面倒くさいという理由から、オールカルソン家の私財を使ってチップを購入し、精霊樹の弓と取り替えてきた。
もちろんクラウディアにあげる弓であり、扱いやすい精霊樹の弓を使えば、すぐに次のステップへと移行できるようになるはず。
移動やら何やらで大変だったが、それに見合うだけのアイテムは手に入れることができた。
俺のためのアイテムは入手できていないが、美人二人の喜ぶ姿が見られれば俺はそれでいい。
そして最後は……キールの街でティファニーへのプレゼントを手に入れる。
これはエンゼルチャームと同じく、簡単に拾えるものではないのだが、入手方法は分かっているからな。
今からティファニーが喜ぶ顔を想像しながら、俺は早足で馬車へと戻った。
ハーゲンブルクブルクの街を出発し、少し迂回しながら戻る道中にあるのがキールの街。
このキールの街には伝説の剣が眠っている。
「今回は一緒に行くって話だが……一体どこに行くんだ? というか、今日は色々とどこに行っていたんだ?」
「それは内緒。着いてからのお楽しみということで」
俺はティファニーを連れ、キールの街の裏手にある使われていない井戸へとやってきた。
「この井戸の下に行く。ティファニーは誰か来ないか見張っててもらおうと思ったんだが……どうせなら一緒に来るか?」
「服が汚れそうだし行きたくはないが……ついていく。井戸の下に何があるか気になるしな」
「分かった。それじゃ俺が先に降りるから、合図を送ったら降りてきてくれ」
そう伝えてから、俺は一人先に垂れているロープを使って下へと降りる。
――おおっ! ゲームと変わらず井戸の底は乾いており、開けた場所となっていた。
俺はすぐにティファニーに合図を出し、降りてきてから一緒に井戸の奥に向かう。
「一体ここはなんなんだ? エリアスは初めて来た街と言っていたよな? なんでこんなところを知っているんだ?」
「色々と情報を集めたからだ。キールの街の使われていない井戸の下は進めるようになっていて、その奥には――伝説の剣があるって話だ」
俺が言葉を発し終えたタイミングで目の前に如何にもな台座と、その台座に刺さっている剣が見えた。
日の光がちょうど差し込んでいて、どこか神々しさすら感じる。
「……ほ、本当に剣が……さ、刺さっている!」
「引き抜けたら貰っていいらしい。ティファニー、試してみるか?」
「エリアスが見つけたのに、先に私からでいいのか?」
「もちろん。俺が引き抜いたとしても、ティファニーにあげるつもりだったし」
「そういうことなら――先に試させてもらう」
ティファニーは好戦的な笑みを浮かべながら腕捲りをし、気合い十分な様子で台座の剣の下に歩いていった。
それから数回深呼吸をした後、本気で剣を引き抜きにかかったが――台座に刺さった剣はびくともしていない。
「う、ぐ、ぐ……! な、んだこの……剣! 固すぎるだろ……ッ!」
それから何度か挑戦したが、怪力の持ち主であるティファニーでも力では引き抜くことができなかった。
「だ、駄目だ……! 引き抜ける気がしない。きっと剣の柄を模しただけで、剣じゃないんだと思うぞ」
「俺も試していいか?」
「ああ、エリアスもやってみろ」
ティファニーと場所を変わり、今度は俺が引き抜く番となった。
ちなみにこの台座は、古代魔方陣によって封印がされている。
力業ではどうやっても引き抜くことはできず、この剣を引き抜くためには――魔法を唱える必要があるのだ。
それも四属性の魔法を唱えるという、普通にゲームをプレイしているだけでは気づかない不親切仕様。
ただ仕様さえ知っていれば、簡単に入手できる剣となっている。
俺は四属性複合魔法を唱えると、台座が光り輝いて反応し、その瞬間に剣を引き抜くことで――簡単に剣を入手することができた。
この剣は聖剣クラウソラスという剣であり、全武器の中でも五本の指に入るほどの高い攻撃力を誇る剣。
ただしデメリットとして非常に重く、さらに両手剣ということで俺ことエリアスにはいらない剣。
俺は片手剣にフリーの手で魔法を使うスタイル。
両手剣は使わないし、機動力が必要な中で重い剣は邪魔なだけだからな。
「うおおお! ほ、本当に引き抜いた……! エリアス、一体どうやったんだ!?」
「普通に抜いただけだ。それより、この剣はティファニーにプレゼントする」
「はへ? ほ、本当にいいのか? 見れば分かるが……普通の剣じゃないぞ? その剣からは圧倒的な力を感じる」
「だから、ティファニーに使ってもらいたい。受け取ってくれないか?」
「い、いや……でも、流石に……」
珍しく遠慮し、しおらしい態度を見せているティファニー。
性格的にすぐに受け取ると思ったんだが、聖剣の凄さが分かる分遠慮してしまっているのかもしれない。
「本当に受け取ってほしい。ティファニーは俺の師匠であり、これからも俺の先を歩いて指導してくれないと困るからな」
「エリアスの先を歩く……か。そういうことなら――遠慮なく受け取らせてもらう。この剣でエリアスに危険が生じた時には命を張って守ると誓う。私はエリアスの師匠であり騎士だ」
心臓に拳を当て、最敬礼してきたティファニー。
その姿は様になっており、つい見惚れてしまうほどに格好良い。
「ティファニーが俺の騎士となってくれるなら、一生安全だな。俺の背中を守ってくれ」
「ああ。命に変えても必ず守る。――エリアス、本当にありがとう。今まで受け取ったものの中で……ふふ、一番嬉しい」
そう言って破顔したティファニーの表情は、心臓が大きく跳ねるほど非常に可愛く……俺はニヤけてしまうのを誤魔化すため、背を向けて井戸の外を目指して歩きだした。
背中を刺されて殺されるはずだった相手から、命を懸けて背中を守ると言われた嬉しさ。
それからティファニーとの仲がグッと近づいた喜びにうち震えながら……俺はグレンダールの街へと戻ったのだった。
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第37話 伝説の剣 にて第二章が終了致しました。
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