第36話 休日の過ごし方
復学してから初めての休日。
クラウディアやギーゼラから指導をしてくれと頼まれたのだが、他にやることがあったため断ってしまった。
ギーゼラは酷く残念そうな顔をし、クラウディアは怖いぐらい何の予定があるのかを詰めてきた。
しっかり説明したのだが疑っているようで、軽く睨まれはしたものの理解はしてくれた……はず。
指導を行うと決めた日からのクラウディアは何か様子がおかしく、馬車内でも基本的には楽しい空気感なのだが、婚約解消の話をすると一気に不機嫌になるようになった。
何が何だかよく分からないのだが、馬車での話は俺の作った朝食の話か弓の話。
まぁ変わらず楽しいからいいんだけど。
そんな最近のことを振り返りながら準備をしていると、部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、そこにいたのはティファニー師匠。
「おはようございます。今日は一日空けて頂きありがとうございます!」
「おい、指導以外では敬語を使うなと言ったろ。それに……声がデカい!」
そう言いながら、ティファニーは俺の頭を思い切り叩いてきた。
色々と気を抜いていた俺が悪いのだが、叩くにしても威力が強すぎる。
「す、すみません。あー、今日は時間を空けてくれてありがとう」
「エリアスに言われたら時間を空けるのが普通だ。私の雇い主なのだからな」
「ありがたいけど……雇い主は俺の父親だから、何か予定あったら俺の誘いは断ってもいいんだぞ?」
「ふっ、私の中ではエリアスが雇い主だ。それより今日は何をするんだ? よそ行きの服装をしてくれとのことだったが、指導をしてくれってことではないんだろ?」
そう、ティファニーの服装はいつもの鎧や動きやすい服装ではなく、ちゃんとしたお洒落な服装。
綺麗な赤髪に似合う服装をしてくれており、いつもは押さえつけられているであろう胸も強調されている素晴らしい恰好。
最近は戦闘指導でしか顔を合わせないということもあって、ティファニーの容姿には気を取られていなかったが……。
こうしてまともな服装をすると、改めてティファニーが美人であることを思い知らされる。
「ああ。今日は街の外に出かけたいと思っていて、付き合ってくれると助かる」
「ふっ、なんだ。デートの誘いか。周りくどい言い回しをしないで、『俺とデートしてくれ』とお願いすればいいのに」
「いや、デートではないからなぁ……。決して楽しいものじゃないし、基本的には俺一人で動くから本当に付き添いの形だ」
ティファニーは理解できていないようで小首を傾げた。
先に言ってしまうが、今日は色々な街を巡ってエンゼルチャームのようにアイテム回収を行う予定。
本当なら一人で動き回りたかったのだが、何かと制限が厳しいからな。
付き添いとしてデイゼン、コルネリア、ティファニーの内の一人を連れて行けば大丈夫なため、今回はティファニーにお願いしたという流れ。
実際は第一候補がデイゼンだったが、ギーゼラに行うための魔法指導のコツを聞いたら気合いを入れてしまい、今も書斎に籠もって指導法について考えてくれている。
第二候補のコルネリアは何やら重要な用事があるようで断られてしまい、最後にティファニーにお願いしたという流れ。
ちなみにティファニーが第三候補なのは嫌いだからとかではなく、アイテムを回収している間は必然的に待たせてしまうため、その待ち時間に文句を言われそうだから。
美味しいご飯とかで機嫌を取りながら……そこまで考えたところで、一ついい案が思いついた。
「ティファニーにも良いものを渡せるから、今日だけは何も聞かずに黙ってついてきてほしい」
「相変わらずよく分からないが……付き添えばいいのだろう? その良いものとやらは期待するぞ」
「ああ。期待してくれ」
こうしてティファニーと共に、馬車に乗って近くの街に向かうこととなった。
それにしても……この世界の移動は本当に大変だ。
日本では便利な交通手段が腐るほどあったからな。
『インドラファンタジー』でも街と街との移動の大変さというのはほぼ感じなかったし、終盤では一瞬で移動できる古代魔法を習得できた。
リアルに移動するとなるとかなり大変で、隣の街に着くまでに1〜2時間くらいかかる。
歩きなら更にしんどいだろうし、転生したのが馬車を自由に使えるエリアスでまだ良かった。
馬車内ではティファニーに剣についてを色々と尋ねながら時間を過ごし、立ち回り等を教えてもらっているとあっという間に目的地に着いた。
今着いた街は学校のあるバーリボスではなく、グレンダールから北に向かった先にある『エアシャイトの街』。
正直この街には目当ての道具が一つしかないのだが、この先にある『ハーゲンブルクの街』との間に位置するため寄った。
今日のルートとしては、エアシャイトの街からハーゲンブルクの街まで行き、帰りは『キールの街』に寄ってからグレンダールに帰る予定。
基本的に移動が中心であり、街についても別行動のためティファニーからしたらつまらないだろうが……キールの街にはティファニーにバッチリな良い装備品がある。
付き合ってもらったお礼も兼ねて、その装備品をプレゼントするつもり。
「馬車に揺られていただけだから、あっという間に着いたな。それで……ここから私は何をしていればいいんだ?」
「何でも好きなことをしてくれて構わないぞ。一時間後にまた馬車で集合でお願いしたい」
「一時間か。こんなことなら剣でも持ってくるんだったな」
「流石に街中で剣を振るのは止めてくれ。それじゃまた一時間後に」
俺はティファニーと別れ、急いで街にあるアイテムの回収に向かう。
目当てのアイテムは一つだが、そこそこ必要なアイテムは結構あるからな。
特に旧王国の金貨は集めておきたい。
もう存在しない国のお金だから、価値としては金そのものの価値しかないのだが、この旧王国の金貨を集めている変わり者がいる。
世の中の珍品を集めているコレクターであり、旧王国の金貨の枚数に応じて珍しいアイテムをくれる人。
使えるアイテムや装備品とも交換できるため、初めての街に来た時は積極的に回収していくつもり。
俺は昨日の内に書き出しておいたメモを見ながら街を周り、目ぼしいアイテムの回収を早足で行っていった。
最後は――この街で一番のアイテムである、『命の指輪』がある教会にやってきた。
命の指輪は、装備すれば自然治癒力を上昇する効果を持っているため、ギーゼラにも弓を使っているクラウディアにも使えるアクセサリー。
教会に入り、祈りを捧げている人達の横をコソコソと通り抜けた俺は、左端に置かれた女神像の指についている命の指輪を外してポケットに忍ばせる。
もはや完全に泥棒だと思うが、ゲームで出来たことだし……多分大丈夫なはずだ。
というか既に色々と盗っている時点で今更だし、気づかれていない内にささっと馬車に戻るとしよう。
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