因縁
2時間後PM16:32 サンクトゥス洞窟付近のとある村に到着したレシスト達特待科一行。
空からは光が薄れ紅色の空が広がっている。
「よし今夜はこの村の一部を借りそこにテントを設営する」
林の中でムドウ教官の覇気のある声が響くと、生徒達は足踏みを止めいそいそと、自らのリュックからテントを取り出し、それを組み立てはじめた。
そんな最中、質素な恰好をした農夫と思しき男性2人が、俺達の元に近寄ってきた。生徒達が、そちらを見ていると教官が後ろから人だかりをかき分け出てきた。
「あんのーあんたがたですかいねぇ?ご連絡くださったすんげぇ兵隊さんらの候補兵の方々ですかね」
「はい、この付近に害を及ぼしている害虫の駆除の依頼を承りはせ参じました!学園カスケード特待科の者です」
「あぁ!えがったぁ じゃ皆さんテント張りり終わったらぜひ村まで来てくだせぇ」
そう言うと会釈をし、農夫達は木々の間からわずかに漏れる光の方へ草をかき分け行ってしまった。
「聞いた通りだ。私は先に村民の方々とモンスターによる被害を聞いてくる。お前たちは、各自テント設営が終わった者から村へ来なさい。」
「了!」
「それとミーレスを名乗り隣国であるテネブレクトルへ誘拐するという事件も多発しているから必ず集団で行動すること 分かったな」
そういうとムドウ教官は、農夫達が歩いて行った方へ進むと、木の陰に隠れ姿が見えなくなった。
「俺達もさっさと組み立てて村の方に行こう。…っておいウルトル」
「虫…ムカデ…」
「ダメだ…フェルム手伝ってくれ」
「おうちょっと待っててくれよ?」
テントを組み立て終えた生徒から続々と、教官を追いかけて木々の間をかき分けていく、するとそこには民家が六軒ほどだけ立ち並んでおり、中央の石碑のような物を囲って、村人数十人が長机のような台の上に料理を配膳していた。
「おい!お前たち!ぼさっとしてないで手伝え!お前たちのためにと村の方々がこうして…」
「いんやぁ~いいんですよぉ~今から大仕事の生徒さん方に余計な労力を使わせるわけにはいきませんから」
「しかし…」
「まぁまぁ教官殿もたまにはくつろいでくだせぇよ。生徒さん方もそちらに座ってお待ちくださいや。もうすぐ終わりますんでね」
そういうとその農夫は民家の中へと入って行った。
数分後、長机の上には村で採れた作物で作った、料理で埋め尽くされており、生徒たちはそれにむさぼりついた。
「おいフェルム…さっき食ったろ それおれのだ」
「俺消化早いからよ分かってんだろ? おーいおば…おねぇさぁーんお代わり」
「こらー!静かに食わんか!」
「こいつはいつどこでも変わらないな…」
ふと周りを見渡すと放心状態から我に返ったウルトルが一人中央の石碑のようなものの前で一人立っていた。
「どうしたウルトル」
「この石碑の文字アミキティアと近い時代に彫られたものだ」
「そうなのか?何故分かる?」
「アミキティアの原文と同じ種類の古代文字が使われているからだ。これはとある時代の僅かな期間でしか用いられていない」
「ふーん…んで?なんて書いてあるんだ?」
「英雄は星獣とともに悪神を打ち払った のち宝具は砕け散り再び星獣へ還った 続きもあるが…文字が欠けてて読めんな…最後に 聖なる獣たちは眠りについたと 書かれてるな」
「おれが昔読んでもらった本にもそんなことが書いてたような」
「…すいません ちょっといいですか?」
ウルトルは、食べ物を配膳する農夫に話しかけた。
石碑のことが聞きたいと伝えると、農夫は「あんたは領主様のご子息の…ちょっと待ってて」と、言って食べ物を机に置くと石碑の前にやってきた。
「あーこれねぇわしらの曽爺ちゃんのそのまた曽爺ちゃんのそのもっと昔からこの村にあったらしいんよ、これをワシらはずっと守っとるんやが正直もう守る意味も分かっとらんのね?言い伝えだといつか来る災いを払う人のためにここに残しているとか聞いとるが…」
「そうですか…」
「そんなことよりはよ食わんとぜーんぶお仲間さんらがたいらげてしまいますで?」
「あぁ、今行きます足を止めさせて申し訳ありませんでした」
「ええんよぉ領主様によろしゅうな!」と、言うと農夫は再び食材の配膳をするため自宅に戻って行った。
「どう思う?」
「これを見ただけじゃなんともな…」
「似た話が書かれた書物を見た気がする。あれはたしか…」
急に頭を抱え苦しむウルトル、石碑にもたれかかるとすぐ元にもどった
「くっ!」
「お、おいどうしたんだウルトル」
「ただの立ちくらみだ…大丈夫だ」
「…そうか」
俺がウルトルに肩を貸そうとした瞬間、後ろから一際大きな声が響いてきた。
その声に反応してウルトルは、いつもの澄ました顔になった。
「おーい!二人して何してんだ?」
「ちっ…お前には関係ない話だ」
「仲間外れにしなでくれよぉ!なぁ!ウルちゃん!れっしー!」
「暑苦しい!!」
その後食後の休憩中にも、俺のテントにまで来てしつこく聞いてきたので、鬱陶しく感じたおれは、友人のファルを連れてきたフェルムに、さっきのウルトルの話を教えてやった。
だが、内容を話しても興味がなさそうに、フェルム本人は鼻をほじりながら聞いていやがるが、代わりにファルが本のことを深堀してくれた。
「それってあれよね 星の英雄 って童話だよな?よく母さんに読み聞かされてたわ」
「お前もそう思うかやはり」
「おーそれならよ、俺の故郷にそういう似たような伝説がある武具があったらしいけど今はどこにあるか分からんけどな」
「フェルムの故郷にそんな話が?お前どこだっけ」
「ジパングだよ!まぁもうあそこに帰ることはねぇだろうがな」
「何かあったのか?」
「ん〜帰れないってか…」
意味ありげに含みを持たせたが触れてはいけないとこに触れてしまったとおれは思い口を閉じたが逆効果になってしまった。
気まずくなった空気をファルがすぐに話題を変えた
「でも似た時代にその二つの話が書かれてたとしてさ何が問題なんだろな?」
「おれも思ったんだけど聞こうとしたらあいつ急に頭抑えて話聞けなくてさ」
おれとファルが夕方のウルトルのことを話していると、横からいつもの調子でフェルムが茶々を入れてきた。
「元カノのことでも思い出したんじゃねぇの?同じ本が好きでそれを思い出してとか?」
「アイツに限ってそんなことあるか?」
「かっかっか」と独特な笑いをするフェルム。その声に反応したのか、それともアミキティアをバカにしようとした雰囲気を察したのか、隣のテントからパキパキと何が凍り付く様な音が聞こえる。
「さ、俺は少し散策してくるかな」
「お、おれも…」
「え、ちょっと?レシストくんファル?」
おれとファルがテントを出た瞬間、タイミングを図ったかのように、後ろからフェルムの断末魔がこだました。
「ふむ…だがあの石碑どこか別の場所でも同じものを見たことがあるような…」
「お前たち!静粛にしろ!」
ムドウ教官の喝が入り、その後自分のテントに戻った俺は、どうにか石碑について思い出そうとしていたが、自分の過去の記憶がそこだけ霞がったようで、そのまま思い出せぬままいつの間にか眠りについていた。
―――
その日俺は夢を見た
腕が六本ある女性らしい人型のそれは、恨めかしい顔でじっと、ウルトルのことを見ている。嫌な予感がした俺は、声を出そうとしたがうまく出せない
「ぐっ! ん! ん!」
すると次の瞬間、それはゆっくりウルトルの背後から抱き着き、徐々にウルトルが弱ってくと粉塵になってしまった。そいつの顔が半分ほどこちらに向いた瞬間目が覚めた
「うわ!!」
目を覚ますとまだ日が昇っておらず、タブレットフォンの時刻は、午前4時を指していた。
既に、クラスメイトの数人はキャンプ地の中央で、今日の戦闘に使う武具などの準備をしていた。その中には意外にもフェルムも混ざっており、愛刀を正座した膝の上に置き瞑想していた。
その姿は、いつもの間の抜けた様子は一切なく、一人の武人が静かに心を落ち着かせていた。
「さて…おれも」
フェルムの姿に影響されたおれも、父から譲り受けた大剣イニティウムの手入れや、アイテムの管理情報を気にしていると、いつの間にか瞑想を終えたフェルムが目の前に立っていた。
「お、どうした?瞑想は終わったのか?」
「あぁもうばっちり。お前は?」
「この薬草の調合が終われば準備完了だ」
「ちょっと散歩しないか?」
「いいけど どうした?」
「裏にいるから終わったら来てくれ」
フェルムが珍しく神妙な面持ちで語りかけてきた。
二人で話したいらしく、村とは反対方向にある林の中へ入ってすぐ、他の生徒に自らの声が届かないことを確認して立ち止まった。
「どうしたんだ」
「…お前の親父ってどんな人だった?」
「父か…偉大な人かな…フォルトゥーナ帝国の大将という地位に胡座をかくのではなく、死ぬまでずっと民のことを考えていたな」
「偉大…ねぇ」
「あぁ、確かに今はもう体は星の一部となったかもしれない。だけど、父の存在は俺はもちろん多くの人の中で尊敬する人間として生き続けているよ。」
「そうか」
「なんだよ」
「いや俺のオヤジは…母さんに暴力振るうわ、俺のこと犯すようなクソだったからさ 父親の温かみっての知らなくてさ」
「…」
「わりぃさっきの童話の話で昔のこと思い出してさ。お前にだけはなんか話しててもいいかなと思って」
「そういうことか。でも母親はお前のことを色々考えて育ててくれたんだろ?」
「まぁな」
「一人でも思ってくれる人がいるのはいいことだ 俺も1人だったから分かる」
「そっか…」
2人が雑談している周りを薄い煙が漂い始める。
「そういやお前とウルトルって中等部より前からの付き合いなんだろ?どこ出身だっけ?」
「ノーラ村だ」
「あ〜あのなーんもないとこか」
「は?なんもなくないわ自然とか聖杯装置とか」
その時、ふと違和感を覚えた俺は足を止めた。同じくフェルムも、何かを感じ取ったようだ。
「あの木…」
「さっき見たよな」
「あぁ…これは」
「なかなか勘がいい女又らだ…間違えた 奴らだ」
森の中から、少年らしき声が聞こえてきた瞬間、そいつはいつの間にか目の前に存在していた。見た目は7,8歳ほどの少年だが佇み方に隙が感じられない。
一番目を引いたのは、その身を包む緑の機械的な鎧だ。体にピタリと装着された鎧は、その胸元に五芒星が描かれ、その中心に気味の悪い目が刻印されており、節々にあるつぶて程の大きさの、魔法石から周囲の魔素を少しずつ吸っているように見える。
「あー?なんだ坊ちゃんこんなとこになんの用だ?」
「油断するなフェルムこの少年かなりできるぞ」
「流れ石ミーレス候補…間違えた流石はミーレス候補だねぇ〜イゴウは…間違えた僕は…」
少年の独特な話し方に呆然とする2人。
「お前…会話するの苦手なのか?」
「は?ごがつハエいなお前…間違えた 五月蝿いよお前」
「…なぁ…ほんとに強いのか?こいつ」
「あの胸元の刻印は軍事国家テネブレクトルに数人しかいない幹部のモノだ。一人一人が一騎当千の傑物と聞いてる」
「ウソだろ…あれが?」
「おしゃぶり…間違えた。おしゃべりはそこまでにして、とりあえず僕に着いてきてもらうよ」
「断れば?」
「殺すよ?」
「へっ…脅しても無駄だぜ近くにミーレス候補が何人も居るんだぞ それに教官もな」
「お前IQ低いでそ」
「なんだと!?」
「…何らかの方法でこのエリアに閉じ込められたということだな。さっきから同じとこ回ってたのはこいつのせいだな。」
「そゆこと。ギャクラウなら…間違えた。逆らうなら大人しくしててもらうよ」
「構えろフェルム!」
俺はいつも背にかかえてる、テュテインソードを構えようとしたが、すぐにテントに帰るつもりだったことを忘れており、今現在相手と渡り合える武器が、腰に差した護身用ロングソードしかないことに気が付く。
「しまった…支給用のロングソードしかない…」
「それでも…もうやるしかねぇだろ…」
「あ、そう?イゴウとやる?…間違えた僕とやるんだ?」
俺は何とか逃げる隙を作るため、右手にロングソードを構えると、刀身の棟の部分に触れ、雷の魔力を込めるとロングソードは雷を纏いだした。
「にゃあ…間違えた。じゃあ上のやつらには「抵抗されたので大人しくさせるためにやむなく攻撃しました」って伝えとかないとなぁ」
少年は突然目の前から消えたかと思うと、側面にある木陰からダガ―ナイフを逆手に持って襲撃してきた。
俺らは、ギリギリのところで躱すことができたが、少年はまだまだ余裕そうに口元が緩んでいた。
「へぇやるにゃん…間違えた…やるじゃん?にゃあもう少し遊べるかな?」
「にゃあにゃあ うっせぇ!返り討ちだ!このガキ!」
そう言って、木々を飛び回る少年は徐々に加速すると、まるでコガラシのような凄まじい速さになった。
だが俺とフェルムは、木々のしなる音や風の流れで、少年の居場所を感覚的に掴めることができていた。
そうやって何度も攻撃をいなしていると、突然攻撃が止んだ。
「さすが候補フェイ…間違えた…候補兵の中でも特別な存在だね。二割くらいじゃ見切られちゃうか」
「強がんなよキッズ君」
「へへっ にゃあ見せてあげるよ」
突然、突風があたりに吹き荒れたかと思うと、かまいたちが起き次の瞬間には、レシストとフェルムともに全身切り傷を負った。
二人は、その場に膝をつくことしかできなくなり、2人は危機を迎えた。
「ぐあっ…こなくそ…負けてやれん…絶対に生きて帰る…ガハッ!」
「だ、大丈夫かレシスト」
「毒付きのダガーはどうじゃい?痛い?痛い?ねぇねぇ アヒヒヒ」
少年は更にスピードを上げ、もはや感覚だけで捉えることは不可能となった。
2人は、少年のダガーから滴る毒によって、体の自由を更に奪われると、その場に倒れて起き上がることができなくなった。
「わかったぞ…お前…その特殊合金製の強化外骨格に…風を纏った技の数々…テネブレクトルのディアボリッカー…か…」
「やっとわかった?これでも有名なんだよ?それにしても敵国の少年兵にも知られててイゴウ…間違えた…僕嬉しいよ」
「ぐっ…ふざけやがってこの野郎…がぁぁ!」
「フェルム!」
少年はフェルムの背中を踏みながら、話をしだした。
「タヒぬ前に…間違えた…死ぬ前に知れて良かったね。そうだよディアボリックイーター・ソロナ・セルゲイド!色々呼び名はあるけどこれがキミらを吹き飛ばす暴風の名前だ」
「なんで…こんな奴がここに…」
「ひょんなことはキミが知る必要ないよ最強の候補兵くん」
再び、少年は二人の眼前から消えたかと思うと、森の奥から楽しげなソロナの声が響いてくる。
俺達は、背後からわずかな魔素の流れを感じ取り避けようとしたが、その大砲のような突風の塊は俺を目掛けて吹き荒んだ。
「うわぁぁぁ!」
「レシストォ!」
一瞬で、10メートル程空へ吹き飛ばされた俺は、何が起こったかも分からず、気が付いたときには地面に叩きつけられていた。
「ぐっ…」
「レシストッ!…おい死ぬな!」
「もうムチの息か。ミーレス候補の特待生って言ってもこんなもんかぁ…」
「クッソォォ!」
「さってトドメ…は、刺しちゃいけないのか めんどくさいなぁ。じゃあ…」
地に伏したまま、体を動かすことができない俺たち二人に近づいてくるソロナ。
彼が、自分の腕に取り付けられた装置を、起動した瞬間周りの風景が歪み始めた。
「な、なにしやがった…」
「別になんでもいいでそ。知った所でキミらは連れてかれるだけだし」
「…俺達を連れ去ってどうする」
「イ業は…間違えた…僕はただキミらを連れてくのが仕事なんでねぇ…そこまでは知らないよん」
ソロナは耳に手を当てどこかに連絡を始めた。
「一応捕獲はちた…うん二匹…はいよ…その何とか計画の失ぱ…一度通信を切るわ。思ったより早く残りのが来た」
「はぁ!!」
林を切り開き、ウルトルがソロナに切りかかった。
「ぐっ…!」
「逃がさんぞ族め」
「へぇ…へへっ…たくさん来ちゃね〜」
「アンジュエル!凩!無事か!」
ウルトルがソロナの不意を突き、腹部にあるこぶし大程の大きさの、翡翠のような石に傷をつけたのと同時に、ムドウ教官の声で俺達を呼ぶ声が聞こえた。
「ははっ 血濡れの無道に天才ミーレス候補か…やり合うのはラクしそう…間違えた…楽しそうだけど今回は様子見だけだし…こんなもんで帰ることにすりゅわ」
「この数を相手に逃げられると思っているのか?」
ムドウ教官は、腰に装着していた三節根を取り出すと、瞬く間に槍に変化し穂先をソロナに向けた。
「おいお前たちフェルムとレシストの治療をしてやれ」
「委員長として任せてください!レシストさんは私に任せてあなたたちはフェルム君を」
「お、おう!」
「ヒール!ヒーーーーールです!」
続々とクラスメイトが現れたことで、態勢が不利になったことを感じたソロナは、腕に取り付けてある装置を操作すると、空に飛びあがり浮遊した。
「また遊びに行きゅからしっかり準備して待っててね!」
ソロナがそう言うと、凄まじい突風が吹いた後そこに少年の姿は無くなっていた。
「待て!」
「ラプソディア!深追いするな」
「だが」
「孤立したところをあのレベルの敵将に複数から叩かれたらお前と言えど対処は不可能だ」
「ちっ…」
「焦るな。己の力だけを過信するのはお前の悪い癖だ 仲間のことも考えろ」
「…キャンプに戻る」
キャンプ地では、農夫達の手伝いもありレシストとフェルムの、傷の具合はそこまで深刻なものにはならずに済んだ。
だがテントの中で二人は己の無力さを実感していた。
「なぁレシスト…」
「どうした」
「まだまだだな」
「そうだな…」
「もっと強くなりてぇよ…俺…」
「おれだって守りたいものを守れるくらい強くなりたいさ」
「だよな…修行パート行っとくか?」
少し笑いながら俺に顔を向けたフェルムの頬は少し光っていた。
「…ウルトルにも勝ち越したいしな」
「一発かまして鼻っ柱へし折ってやんねぇとな」
二人が笑いながら談笑していると、クラスメイトの医療生の女子と農夫が二人入ってきた。
「二人とも無事でよかったよ!」
「んだぁ〜あげな怪我で済んだんは奇跡じゃ神様に感謝せなねぇ」
「そうですね…皆さんありがとうございます…」
「えぇんじゃぁ〜お互い助け合いじゃけぇの 気にすっことねーべ それにお友達さんらのおかげじゃ。ワシらは何もしとらんよ」
「そんな…」
『たくさんの仲間達に囲まれているのにそれを守れる力がない自分が…情けない…』
その日の戦力検査は延期になり俺達特待科は村にもう一泊することになった。
一人を除いて…
レシストとフェルムがテントで養生している頃
ウルトルは教官と別れ、一人近くの川辺で考え事にふけていた。
「…」
「考え事か青年」
ウルトルの背後に、いつの間にか中肉中背で赤い髪を逆立たせた、中性的で美しい顔立ちをした20代くらいの男が立っており、もの悲しそうな顔で空を眺めていた。
その男が放つ異様な雰囲気に武器を構えるウルトル。
「誰だ」
ウルトルが一瞬で剣を抜くが、男は不気味な笑みを浮かべたまま動こうとはしない。
「武器を仕舞え。貴様にまだ俺は討てん」
「試してみるか?」
3メートルほどの距離を一瞬で詰めたウルトルが、勝利を確信した瞬間彼の胸部に激痛が走り、川まで吹き飛ばされた。
「ぐっ…あ…なん…だ…今のは…」
「力量の差が分かったか?」
足首程までの川から立ち上がろうとしたが、呼吸をすることが難しく水辺の上に膝をついたままのウルトルに向かってゆっくり進みながら話す男。
「ぐっ…軍の関係者か」
「お前たちの顔を見に来ただけだ…災いの因子を持つ者達がどのように成長したのかをな」
「災いの因子だと?」
「今知ったところで貴様には何も出来まい…」
「なんだと!?」
「ただ…貴様に一つ問う」
ゆっくり川の方へ足を進める男は、その気配が全く感じられない。それどころか、砂利の上を歩いているのにも関わらず、足音が聞こえてこない。男は水際で足を止めて話を続けた。
「自分が特別なのは自らの才覚のおかげだと思っていないか?」
「なに?」
「もし…貴様の運命…周りのすべての現象を一人の人間が決めていたとしたら…お前はどうする?」
「そんな都市伝説みたいな話しを信じろと?」
「仮定の話だ」
「…オレはオレだ例えそうだったとしても生き方を変えることはしない アイツが…レシストを英雄にしてそれに並び立つまでは」
「ふむ…」
ウルトルの自信のある発言を聞いた男は彼に背を向けてから話始めた。
「いい目だな…若さと無知故の気迫か…ふっそれもまたいい…友を大事に奢り高ぶり過ぎないことだ…」
そう言って男は、川沿いを上流に向かって歩いて行く。月明かりに一瞬照らされた、男の横顔を見ると、彼の右目が真っ黒に変色したように見えた。
「お前は一体…」
その瞬間、20メートル程ある断崖を飛び上がって男は消えてしまった。
「なんだったんだあの変態は…災いの因子だと?…」
川から上がったウルトルはしばらく思案していると、突然ポッケからタブレット型の小型通信機を取り出し、どこかに連絡を取り始めた。
「…調べたい物がある」
to be continued…