8話 異変
アリアさん宅訪問の翌日、通学の道すがらで自分自身の異変に気付いた。
詰み体質予防として、多少気にしていた面識のない異性に、異様なまで恐れる様になってると。
常にビクビクとオドオドと、生きた心地のしない感覚こそ、詰み体質の悪化を意味していた。
生徒でひしめく校内も気が気でなく、教室へと一目散に向かうしかなかった。
そして、教室に入って早々、もう一つの異変にも気付かされた。
「やぁ、おはよう洋君」
アリアさんのいつもと変わらない挨拶1つで、稲妻が頭の天辺から足先に走る衝撃。
誰よりも美しく輝いて見え、胸は高鳴り、顔は熱帯び、安心感を覚え、心が浮き足立ってた。
「あ、アリアさん、お、おはよう」
「また今日から君と、学生生活を送れるのを嬉しく思うよ」
「あ、あい……」
アリアさんの些細な綻びを、もっとさせたい。
今までに感じたことの無い、使命感に駆られながら、七人女神がぞろぞろ集い、いつもの変わらぬ日常が始まった。
詰み体質の悪化こそするも、面識のある異性の前では前と変わらず、特に悪さもせず、一ヶ月が過ぎた。
それからアリアさんは早退が続き、年が明けた頃に再び長期休学。
次に再会したのは、3年の前期終業式だった。
♢♢♢♢
「え、海外の高校に通うの!?」
「日本と違って、あっちは9月が入学式なんでな。伝えるのが今更で申し訳ない」
元々飛び級可能な学力のアリアさんは、日本での卒業を前倒し、海外生活の準備諸々の為、早退や休学せざるを得なかったそうだ。
「女優業もプライベートも、より多忙になるだろうから、しばらく会えなくなる」
「皆には言ってあるの?」
「あぁ。きっと落ち着くのは1年後の今頃か、少し先になるだろうな」
心の大事な一欠片がなくなってしまう。
そんな寂しい気持ちが込み上げ、今にも泣きそうになった。
何かしてあげることはないか。
限られた時間の中、考えついた答えは、前にもやった事だった。
その場でTシャツを脱ぎ、アリアさんに差し向けてた。
「てぃ、Tシャツ! 前みたいに、今着てるのをあげるから……その……」
「洋君……日本に帰って来たら、真っ先に会いに行くと約束する。だから今は、笑顔で送り出して欲しい」
「うん……」
1年後かそのまた少し先か。
アリアさんが日本に帰って来た時、また皆で集まろう。
そう約束した指切りを交わし、アリアさんと別れを告げた。
♢♢♢♢
アリアさんのいない七人女神と、残りの中学生活を過ごし、進路は別々になった。
そして来るべき約束の日まで、お互い連絡を一切しないと誓い合い、卒業式を迎えた。
「オレの事1日でも忘れたら、責任取って貰うからな! ぐすん!」
「わ、忘れる訳ないよ。だから安心して」
「沢山食べて大きくなってねぇ。そしたらまた、いっぱいグルメ巡りしようねぇ」
「お手柔らかにね」
「洋クンを困らせる連中がいたら、遠慮せず言ってや。二度と顔を拝ません様にしてやるから」
「絶対にやらないでね?!」
「ワタシが教え込んだ勉学を怠らないで下さい。もし怠れば、何が何でも無茶苦茶にします」
「き、気を付けます」
「次会った時に、一緒に沢山ラブラブ発散しちゃおうね♪」
「し、しないからね?」
「ゲームも連絡も出来ないなんて面倒臭い……あ、洋の家に居候すれば解決じゃん……どうかな?」
「い、居候?」
「ええええ越子の馬鹿タレ!? ひひひとつ屋根の下で暮らすっつうのはな! けけけけ結婚するって事なんだよ!」
「知識が相変わらずお子ちゃまやな。気持ちは分からなくもないけど」
「あー♪ バレなきゃいいんだもんね♪ ねぇねぇ洋ちゃん♪ 梨紅と密会しちゃう?」
「なりません。許す筈がありません。言語道断です。罰として鬼マックス勉強漬けをやります」
「ねぇみんなぁ、とっておきの食べ放題のお店見つけたよぉ」
「どれどれ……あぁ……行列出来る系のヤツか……待ち時間面倒くさい……」
一緒に過ごしてきた教室で、時間の許す限り別れを惜しみ合い、僕らは中学を卒業した。