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積木君は詰んでいる3  作者: とある農村の村人
10章 女優との日
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54話 女優の役割

 俳優佐々坂翔さんと直接会う為やって来たのは、お洒落なカフェ。

 奥の窓際テーブルで佐々坂さんは、爽やかな笑顔で僕らを向かい席へと迎えてくれた。


「急な連絡に驚いたよ、凪景さん。積木洋君も久し振りだね」

「洋君、握手会で名乗ったの?」

「い、いや」

「あはは、重要人の最低限情報は知らされてるんだよ」


 このぐらいの情報は筒抜けじゃない方が、おかしな話だ。

 佐々坂さんからの情報は、償いを含めて渚さんが聞き出してくれる手筈だ。


「手短に聞きます。現場で翔さん達は、アリアちゃんの指示で動いてたんですか」

「大本を辿ればそうなのかもしれないね。ただ現場をコントロールしてたのは、僕らじゃないよ」


 考えられるのは現場を取り仕切る、監督か助監督だ。

 でも、渚さんの事前情報通りなら、この2人は唯一最初から代わってない人達で、ほぼ確実に白らしい。


「流石に誰かまでは口止めされてますか」

「いや、昨日付けで凪景さんは役割を果たしたって判断されたから、話しても大丈夫だよ」

「やっぱり知らない内に、何もかもやられてたのね」


 渚さんの役割は恐らく、僕と意図的に出会わせられ、アリアさんの情報に行き着く事。


 どうして渚さんを巻き込んでまで、こんな回りくどい事をしているのか、アリアさんが一体何をしたいのかが未だに見えない。


「それで、その人は誰なんです」

「凪景さんのマネージャー林胡桃(くるみ)さん」

「……冗談じゃなさそうですね」

「うん。林さんって前はコッチの事務所にいたから、僕らも動き易かったよ」


 真っ先に該当者から外れるか、そもそも無関係だと考えれる自分のマネージャーが、相手側で動いてたんだ。

 冗談で済めばいいものの、状況的にも本当としか言いようがない。

 そもそもマネージャーという立場なら、あらゆる情報が簡単に堰き止められて、渚さんを思う様に動かせるんだ。


「僕らは林さんの指示通り動いてただけで、本当の目的は知らないんだ」

「何故知らずに協力を?」

「恩返しかな。数年前まで泣かず飛ばずな僕に、手を差し伸べてくれたからね」


 前にドキュメンタリー番組で佐々坂さんが取り上げられた時、物凄い苦労エピソードだったのを覚えてる。

 俳優を目指し上京したのにどこも門前払い、バイトやモデルを掛け持ちながら、1日数百円食べられるかの貧しい生活が数年続いたそうだ。

 気付けば20代半ばで、現実を見て俳優を諦めかけた時に今の事務所に声を掛けられ、それからどんどん俳優として開花したんだ。

 恩返しの理由も納得が行く。


「肝心の指示はね、僕らは手分けして、北春高校を中心に数キロ範囲内にコレを設置したんだ」


 見せてくれたのは超小型カメラ。

 アリアさんが調達した監視用カメラに違いない。


「撮影の合間に校舎のあらゆる場所にも設置しててね。特に1-Bの教室、つまり君の教室には倍の数設置されてるんだ」

「ば、倍ですか」

「矢印の向きが極端ね」


 アリアさんに高校生活までも常に把握されてるなんて規格外な行動だ。

 佐々坂さん達も指示されての行動だ、僕らが今更どう問い詰めても、それ以上の答えはないんだ。


「……おっと、もう戻らないと」

「休憩時間にすみません、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

「あとは本人に聞いてみるといいよ。話してくれる筈だから」


 お会計を済ませ去った佐々坂さんは、あくまで恩返しで行動してただけ。

 もっと核心に迫る情報を得るには、現場で指示を出してた林マネージャーさんに話を聞くしかない。


「渚さん、林さんに連絡」

「今電話掛けたわ」

「早っ!」

『もしもし!林です!』

「要件は分かってますね」

『あぁー!ついに辿り着いちゃいましたか!』


 溌剌な声色で緊張感が薄まってても、ペースだけは飲まれないようにしないと。


『まず何から話しましょうか?やっぱり夏ドラマの現場についてですか?』

「お願いします」

『了解です!お察しのいい景さんは、佐々坂さんを始めとしたキャスト陣による、現場の異様な空気と居心地悪さで、休憩時間に逃げ出しましたよね』

「えぇ」

『あれは凪景さんを規定時間内に、とある場所と人物まで誘導するのが目的でした! 積木洋さん、貴方の事です!』


 僕の場合、駅から高校までの登校時間と登校ルートなんてものは、軽く調べれば誰にだって割り出せる。

 それでも確実さを求めるのなら、事前に僕の登校ルートに詰み要素である異性を配置すれば、僕の行動は簡単に制限出来る。

 実際当時も前方後方を女子生徒達に塞がれていたんだ。


 結果、まんまと誘導された渚さんと出会ったという訳だ。


「出会わせた理由は?」

『申し訳ないです! 知らされてないです!』

「では次を」

『はい! お忍び校内見学を提案したの覚えてます?』


 握手会後に、渚さんが呉橋会長や先生方から直々に許可を得たのを、当時鉢合わせた渚さんから聞いてる。

 生徒がいる平日でのお忍び見学には、当時から違和感はあった。


『教えた見学ルートは積木洋さんが普段使うルートでして、提案したのも積木洋さんと会わせる為だったんです!』

「だから生徒のいる平日だったんですか」

『ですです!元々人目の付かないルートなのもあって、外部の力も必要なく会ってくれたので、とても助かりました!』


 入学から1か月ぐらいは、詰み体質にまだまだ怯えっぱなしで、そんなルートでしか進めなかったんだ。

 まさかこうして知らず知らずに利用されていたなんて思いもしなかった。


『どんどん言っちゃいますよ? 積木洋さんのご自宅へ遊びに行く際、あっさり許可したのも積木洋さんと会うからで、普通なら絶対許可が下りませんでした!』


 あの時は何も知らない愛実さん達も一緒で、従姉として変装して貰ったんだ。

 一般人に身バレする危険性がありながらお許しが出た事に、正直大丈夫なのか心配だったのが、こんな裏があったとは。


『数ヶ月前の生放送番組も本番当日なのをわざと伏せて、景さんの休日にギリギリでお知らせしました! マイカー移動を推奨した甲斐あって、間に合ってくれましたよね!』

「思えば不完全燃焼なデートばかりですよ」

『コチラも仕事なので!』


 いくら抜けてる林さんでも、生放送番組を当日まで伝え忘れていた、なんて都合の良い話が実際成り立ってしまってるんだ。

 大勢の人を巻き込んでまで根回しをし続けている、この目的と一体アリアさんがどう紐づくのかが、まだ見えずにいる。


『次で最後になりますね! 出雲(いずも)此方(こなた)さんとの映画撮影で、積木さんの故郷がロケ地だったのは、勿論偶然じゃないです! 全て指示通りだったのです!』

「……此方さんもそっちなんですか」

『残念ながら違います!此方さんにはごく普通の映画撮影だと伝わってます!ちゃんと映画は公開されるので、そこはご心配なく!』


 尊敬し憧れの女優出雲此方さんとのダブル主演映画なのもあって、全てが仕組まていたのではないんだと、渚さんはどこか安堵していた。


『以上がネタ晴らしです!ご清聴ありがとうございます!そして、私が上層部から指示されたのは『積木洋さんと凪景さんと、会う機会を意図的に増やす』ただ、それだけです!』

「翔さんの話だと、私は昨日で役割を果たしたそうですが」

『判断理由は不明ですが、こうしてお答え出来るのが、そうなのかと!』


 判断基準がアリアさんにあるのなら、昨日渚さんと会ったあの神社も、仕掛けられたカメラの件も含めて全て見られていた可能性がある。

 高校周辺でやり取りするのは、今後控えた方がいいのかもしれない。


『これからは包み隠さず真面目にマネージャーを務めますので、改めてよろしくお願いします!それでは失礼します!』


 一方的に通話を切られ、なんとも言えない空気に包まれてる。

 かこれこれ数十か月、二人三脚でやって来たマネージャーが裏で自分を利用していたんだ。

 これから先も今まで通りにやっていけるのか、渚さんの顔を見たら、どこか晴れ晴れとした雰囲気になっていた。


「林さんとやっていけそうなの?」

「捉え方次第じゃ、それだけ仕事が出来る人って事よ。これだけの事で、そう簡単に手放さないわ」


 人を許せる強さ、人を見る目、この渚さんの人間としての強さこそ、僕が見習わないくちゃいけないものだ。


「ねぇ洋君。全部決着が着いたら、デートの続きしてくれる?」

「勿論」

「愛実ちゃんがいるってのに、即決ね……ま、そんなとこが洋君の良さなのよね」


 微笑みを浮かべる渚さんはそのままパフェを頼み、しばらくたわいもない話に花咲かせ、僕を自宅へと送り帰っていった。

 今日一日思い通りに行かず、不完全燃焼な渚さんに次こそ納得して貰うには、くららさんとの略奪戦をまず突破するんだ。

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