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積木君は詰んでいる3  作者: とある農村の村人
10章 女優との日
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53話 デートプランと不意な話題

 オリヴィアさんの話によれば、映画試写会でアリアさんの方から接触して来たそうだ。

 ディナーやショッピングを楽しみ、別れ際に『次は日本で会いましょう。今年中に』と、言われ別れたと。


「それがキッカケで、パパとママに相談したら、昔お世話になった宮内道場の話をしてくれたんです♪」

「つまり、アリアちゃんとの接触が無ければ、日本滞在はなかったのかしら」

「んー行けても来年再来年のつもりでした! でも、今年中に会う約束だったので、来ちゃいました♪」


 オリヴィアさんの日本滞在までも、アリアさんが関係してるなんて斜め上だった。

 今年中にと、約束したのが何かしらの誘導なのは、それは少し考え過ぎかもしれない。


「そういえば、ワタシの所属事務所に少し興味有り気でしたね」

「事務所に? 具体的には何を?」


 興味を示したのは所属役者で、オリヴィアさんの大手芸能事務所ともなると数は膨大。

 年齢幅も幅広く、ホームページの役者検索を勧めたそうだ。


「移籍……は、あり得ないわね。もしくは誰かをスカウト?」

「アリアさんの事務所も、数も知名度も年齢幅も同じぐらいだよ。わざわざスカウトする必要はないんじゃないかな」


 仮にアリアさんの考えで、スカウトした役者で何かしようとしても、相手は海外役者の人だ。

 略奪戦に向けてのトラップだとしても、僕が今年出会った海外の人は、今目の前にいるオリヴィアさんだけだ。


 何でもかんでも略奪戦に関連付けず、単なる偶然と考えるのが妥当なのかもしれない。


「んー自分の事務所じゃダメな理由があるんですかね?」

「何も分からない……ちなみに目星付けてた役者が誰か分かりますか?」

「すみましぇん! 流石にそこまでは知らないです!」


 有力情報とまでは行かずとも、オリヴィアさんと接触した事実に意味はある筈だ。


「でも、時間を見つけて調べてみます!」

「心強いです。お願いします、オリヴィアさん」

「お待たせしました。オリジナル特盛カツカレーになります」

「ぴゃああ♪ ありがとうございますです♪ ようくんと凪景さんは、何を頼んだのですか?」

「「あ」」


 席に着いて早々にオリヴィアさんと話し込んで、すっかり自分達のお昼ご飯を頼み忘れてた。

 手元のメニュー表を渚さんに手渡そうと、一瞬視線を逸らした隙に、オリヴィアさんがカツカレーをアーンしてた。


「カツカレー……超お勧めですよ♪ ようくんにも♪ えい♪」

「まぁぷっ!?」

「どうです?是非是非カツカレーを頼んで下さい♪ あーむ♪ んー♪」


 布教お裾分けあーんには抗えず、僕らも同じカツカレーを頼み、普段聞けない話を交えつつ、美味しく頂いた。


 ♢♢♢♢


 イノリでオリヴィアさんと別れ、再び車を走らせる渚さんは、ことごとく上手く行かないデートプランに、同じ独り言を呟きつ続けてた。


「次こそは大丈夫よ。絶対に」


 次はどこなんてもっての外、何も聞けない空気のまま着いたのは、目新しい高層マンション街だった。

 デートにしては斬新なチョイスだと、関心してる合間に、マンションのオートロック番号を入力し終えて、モニターインターフォンを鳴らしてた。


『はい!』

「時間通り来ましたよ」

『も、もうそんな時間だったの?! と、とりま入って入って!』


 慌ただしそうな女性の声に、どこか聞き覚えがありながら、エレベーターで最上階へ移動。

 渚さんもよっぽどの自信なのか、渾身のドヤ美顔を移動中に見せつけ、玄関インターフォンを押した。


 中からバタバタと接近する音に、若干後退しつつ、勢い良く開かれた玄関扉から、眼鏡のズレたジャージ美人さんが現れた。


「いらっしゃいませ!」

「眼鏡ズレてますよ」

「え? 通りで視界が変だと! 再装着っと……ん?」

「紹介するわね。今をときめく若き美人漫画家の新星!み」

「緑子先生! サバブラのオフ会振りですね!」

「お客さんって、マイエンジェル空たそのお兄ちゃん、洋くんだったの!? よ、良かったー!」

「え、ぇ?」


 まさか大人気漫画家と面識があるなんて思わず、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる渚さん。

 ただ渚さん自身も然り、詰み体質があればどんな異性とも出会えてしまうんだと、声にならない呻き声を上げ、少しの間反省していた。


 気持ちを切り替え、歓迎された綺麗なオフィスは、漫画関連のもので溢れ、大御所漫画家のサイン達や限定グッズなどが展示されて、漫画好きには堪らない空間で感無量だった。


「洋くんにはカルピソ! 凪景ちゃんにはお紅茶を! あ、お菓子も遠慮せずどうぞ!」

「あの緑子先生。2人はどういった経緯での交流で?」


 新キャラ悩んでた時、作業中に流してる映画がたまたま渚さんの主演作で、ビビッと採用が決まり、色んなコネを使い、直接会い交流を深めたそう。

 連絡は頻繁にしてるも、直接会うのは今回で二度目らしい。


「んで、コチラが凪景ちゃんを採用した、新キャラだよ! 初公開の巻き!」

「おぉ!」


 昨今珍しい完全アナログの生原稿に、圧倒的オーラを放つ美麗なキャラは、渚さんと面影が重なって、人気が出るのは一目瞭然だった。

 ただ唯一異なるのは、特定の部位が大変に盛られてる点だ。


「作中一デカいので! って、絶対要望には苦労したよ? 折角のアイデンティティが無くむっぷ!?」

「せ、制作秘話も程々に!」


 もはやお馴染み光景の物理口封じは、さぞかし聞かせたくなかった思いが強かったようで、緑子先生の口周りが手の平の形に赤くなってた。


 それからは裏話や生作業風景と、漫画好きには堪らない経験ばかりで胸が一杯だ。


「ふぅー! いやー新鮮な読者の生リアクションは、漫画活力になるね!」

「こちらこそありがとうございます! 空にも見せて上げたかったなー……」

「空たそならいつでもウェルカムだよ! 来たらペロペロ撫で撫でしまくっちゃうけどね!」


 絶対空と2人きりにしちゃ駄目だって、緑子先生の気持ち悪い動きが教えてくれてる。


「あ、そだそだ! 漫画大好きな洋くんに朗報!漫画家対談ってのが、近々動画公開されるみたいだから、乞うご期待を!」

「おぉー!」

「対談? 真中さんらしくないですよね」

「だって気になる漫画家さんたっての強い要望だったし、思わず一言オッケーしちゃった!」


 最近大手動画サイトで急上昇に乗りまくってる、対談系動画に緑子先生が出るなんて思わなかった。

 それでもファンの一人としては、濃密な漫画対談は嬉しい限りだ。


「ねぇ、誰だったか聞きたくない?ない?」

「言いたいって素直に言えばいいのに。で、誰なんです?」

「聞いて驚く勿れ! なんと! あの! めのうくらら先生です! 現役女子高生で月刊連載だから凄いよ! しかもね……めちゃ可愛!」

「くららさんと……」

「あり? お、思ってたリアクションと違う!」


 対談の中身こそ漫画関連話で、最後のプライベートな話題な時に、とある事をくららさんは言ってたそうだ。


「なんか今週の日曜に、大事な人とグルメ巡り? するとかなんとかって、話してくれたよ」


 くららさんの略奪戦はグルメ巡りだと考えた方が良さそうだ。

 詳細の連絡はまだでも、得意分野で仕掛けて来るなら、それなりの準備をしておいて損はない筈だ。


 ♢♢♢♢


 緑子先生にお土産を沢山貰い、次の目的地まで車を走らせる中、渚さんは不意な話題を振ってきた。


「ねぇ洋君。夏ドラマの撮影覚えてるわよね」

「え? そ、そりゃ北高が撮影舞台だったから」

「そのロケ地ね、元々別の高校だったのよ。今年に入って急遽、北春高校に変更になったの」

「そ、そうなの?」


「それだけじゃないわ。表沙汰では報道されてないけど、出演者が次々に降板、不祥事、活動休止で何人も変わってるの」

「ふ、普通ならドラマ自体白紙になるんじゃ」

「私もそう思ったわ。けど、撮影は何事もなく進んだわ。不気味な程にね」


 表沙汰になる前に揉み消されてるんだ。

 そもそも、この夏ドラマのキャスト発表が撮影1ヶ月前だったのを、空が当時ソファーでぴょんぴょん飛び跳ねてて喜んでたから覚えてる。

 だから関係者や当事者じゃない限り、世間が知りようも無いんだ。


「洋君と出会った日の撮影日、私は休憩時間に逃げ出してきたわ」

「確かにそんな風に言ってた気が」

「あの時、自分自身と凪景に嫌気がさして、衝動的なのもあったけど、現場の空気が不気味だったの」


 現場関係者や出演者を含めた人達が、渚さんのご機嫌を常に伺い、仮面を貼り付けたような笑顔を見せ、一切のトラブルも起こさない操り人形みたいな動き、全てが居心地悪さと不気味さに包まれてたと。


「それに今思い返せば、私を探しに追って来た現場関係者の声が、至る先々で聞こえて来たの。まるで私の行く先をコントロールするようにね」

「ま、まさか、それじゃあ僕らが会ったのも」

「詰み体質じゃない、意図的に出会わされたもの、と考えられるわ」


 もしもそうだとしても、小粋なデートの話題に相応しくないのは、鈍感な僕にだって分かる。


「でも、どうして今話してくれたの?」

「洋君とアリアちゃん達の決着がない限り、デートが出来ないって分かったからよ。だからデートの予定を変更して、今から直接会いに行くわ」

「だ、誰に?」


「撮影の直接注意喚起っていう握手会があったでしょ。私ともう1人とで」

「もう1人……あ、会うってあ、あの人の事?」

「えぇ。主人公役の佐々坂(ささざか)(しょう)も変更になった出演者の1人で、アリアちゃんの事務所所属なの」


 ここに来て佐々坂さんの名前と、アリアさんが関係している点と点が繋がり、時間差でようやく線になる気がした。

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