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積木君は詰んでいる3  作者: とある農村の村人
10章 女優との日
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50話 神社と女優

 イヴさんの略奪戦から数日後、高校生活は平和そのものだった。

 ただ次回相手のくららさんが、どんな略奪戦を目論んでるか未知数なんだ。

 僕らに平和ボケする暇はない。


 昼休み、いつメンでお昼を食べ、略奪戦に備えての話し合いを交わしてる。


「ライラ、梨紅、イヴの略奪戦傾向ってさ、私達に不利な内容じゃないよな?」

「ふむ……強者故の余裕ってところ、なのかもしれないな」


 それでも七人女神の想いは本物だ。

 嘘は一つもない。


「ケッ! 敵に勝算持たせんなんて律儀な奴らだよな。私なら絶対やんねぇ」

「ロ六華のいいとこでてるー肉団子貰いー」

「あ!? メインディッシュ取るなよ! カスミン!」

「愛実さん、僕の肉巻きあげるから」


 今は具体的な糸口が見えなくても、ふとした瞬間に見える時もあるんだ。

 残された時間に向き合ってると、スマホの連絡通知音が耳に入った。

 お昼時の連絡は大体、姉さんの買い物お手伝いのお知らせぐらいだ。

 パッと返事を返すのに相手を見たら、姉さんじゃなく(なぎさ)さんだった。


『放課後ここに来なさい』


 短文と添付の位置情報だと、北高近くの小さな神社だ。

 僕らが出会った日、2人で話した場所を指定されたんだ。

 よっぽどの緊急か重要な話かもしれない。


「肉巻きうまー! ん? なした洋?」


 渚さんとの関係を教えられない以上、愛実さんを連れてく訳にも行かないんだ。

 心苦しいけれども、今日だけは嘘を付くしかない。


「く、呉橋さんの放課後呼び出しだよ。一緒に帰えれないから、今日だけはごめんね」

「まぁーあの人だし、しゃーないか。カスミンとラブラブして帰るわ!」

「今日だけあーしの女ーいえいー」


 わざとイチャイチャを見せつけるあたり、ウソはバレてないみたいだ。

 そんな2人の百合情景を、六華さんはお昼ご飯そっちのけで書き殴ってました。


 ♢♢♢♢


 放課後、愛実さん達を見送り、ひっそりと神社へと移動してきた。

 前に来た青々しい春景色と違って、秋の物寂しさに包まれてる。


「な、渚さん?」

「こっちよ」


 すぐ裏手に行くと、私服姿の不機嫌オーラ全開の渚さんがいた。

 長い御御足を組み座る姿は、いつも以上に圧を感じる。

 無言圧の隣に座れ指差しに、素直に従うしかない。


「……アンタ、あびるちゃんとどんな関係なの」

「あ、あびるさん?」


 どうして渚さんが、僕らの事を知ってるんだ。

 でも、関係性をわざわざ聞いてくる、この状況が分からない。


「あ、あの……僕らの話はどこで?」

「あびるちゃんのメン限配信のアーカイブよ。アンタに言っても分からないか……」

「あ、何となくは」


 確かサブスクみたいな感じだって、中学の時あびるさんが教えてくれたんだ。


「そのアーカイブはいつ頃ので?」

「先週土曜お昼に突発。仕事も重なってて、今日のお昼にアーカイブを見てたのよ」


 先週土曜のお昼は、イヴさんの略奪戦当日。

 あびるさんからアリアさん情報を聞き出すのに、電話を繋いだんだ。

 まさか、その時のやり取りをメン限配信でやってたのか。

 突発なのも納得が行く。


「そしたらイヴちゃんと一緒に、毎配信話題に上がる、謎の有名知人『ヨウ君』本人の登場よ」

「よ、『ヨウ君』?」

「知らないのも無理ないわ。『ヨウ君』本人には配信内容は秘密だって、あびるちゃんが言ってたもの」


 動画撮影の手伝いとか、SNSや流行りモノの知識こそ、あびるさんが教えてくれたんだ。

 ただ配信については何も言われなかったのは、メン限配信での『ヨウ君』を僕に知られたくなかったからなんだ。


「今まで話題だけの存在だった『ヨウ君』が、いきなり音声登場よ? しかも聞き馴染みあるアンタの声。10回は聞き直したわよ」


 知人友人なら尚更、聞き間違えはしない。

 10回も聞き直されたなら、言い訳も通用しない。


「そして過去のアーカイブ話で、同じ中学であびるちゃんと交流のある、『ヨウ君』と呼ばれてる知人。少し調べれば積木洋って、1人の男の子にすぐ行き着いたわ」


 七人女神に囲まれた唯一の男なんだ。

 情報自体はすぐ知れて、アイツが積木洋だってのも、絶対各方面へと広まってた筈だ。

 のに、誰も彼も僕に接触しようとせず、今に至るんだ。

 きっとそれを見据え、七人女神の力に守られてたんだ。


『もしも積木洋に何かあれば、七人女神が黙ってない』暗黙の了解によって。


「アーカイブの中身と言ったら、あの気まぐれ屋なあびるちゃんが、アンタにラブラブ態度……ただならぬ関係以外あり得ないじゃない!」

「ち、近いです」


 凄まじい圧と一緒に、距離間がどんどん詰められてる。

 横に避けようにも手で塞がれて、仰け反るしか出来ない。


「それに略奪戦って何よ! 私も巻き込みなさいよ!」

「ふ、深い訳が!」


 綺麗な顔ならではの怖さが際立って、目を逸らそうにも逸らせられない。


「あれも何よ! 呼び捨てのお願いって! 私も呼び捨てで呼ばれたいわよ!」

「え。お、恐れ多くて無理です」

「はぁ!? 呼びなさいよ!」


 問題はそこじゃない筈なのに、目が本気だ。

 押し倒されてるこの光景を、誰かに見られるのはマズい。

 どうにか冷静さを取り戻させたいのに、目の前の状況が上回ってそれどころじゃない。


「知らないとこで、アンタが遠くなってくのがイヤなの! どうして分からないのよ!」

「な、渚さ」


 ここまで感情的になる渚さんを、僕はどう受け止めればいいのか。

 頭の中に色んな感情が巡るあまり、近付く人の気配と足音に、気付いた時にはもう遅かった。


「よ、洋? な、凪景しゃん……?」


 唖然と立ち尽くす彼女こそ、他の誰でもない愛実さんだった。


「め、愛実さん!?」

「愛実ちゃん……」

「おー?修羅場かー?」


 霞さんにも見られ、跡も付けられた。

 完全に僕の落ち度だ。


 憧れで大ファンの女優が、自分の彼氏を押し倒す光景を目撃したんだ。

 頭がパニックになってる今じゃ、僕の言葉はきっと届かない。


「ご、ごめんなさい愛実ちゃん! 洋君は友達なの!黙っててごめんなさい!」

「へ、へ?」

「ほんとなのかー洋さんよぉー」

「う、うん」


 愛実さんの前で正座し、渚さんと出会った経緯、今までの事を全部話した。

 合点が行ったのか、安堵を浮かべ座り込み、深く息を吐いて落ち着いてくれた。


「嘘みたいな話だけど、目の前に本人がいたら……うん……普通にびっくりだわ……」

「やっぱ生女優は地が段違だなーほぉーほぉー」

「えっと、渚さん?って呼んだ方がいいですか?」

「愛実ちゃんさえ良かったら」

「や、やった!」


 戸惑いすら上回る、渚さんパワーは流石としか言いようがない。

 渚さんの出会いこそ、詰み体質の引き合わせみたいなものだ。

 だから渚さんは今の今まで何も悪くはないんだ。


「あ、あの! こっちこそごめんなさい!なんか連絡貰った時から洋が変だったから、つい跡を付けちゃって……」

「探偵みたいだって楽しんでたけどなー」

「か、カスミン!」


 このまま詰み体質に巻き込んでる事実を、渚さんには黙ってはいられない。

 今こそ霞さんにも打ち明ける時だ。


「渚さん、霞さん。少し僕のとある話を聞いてくれますか」


 現実味に欠ける話に、最初は小首を傾げられるも、僕の周りの関係性、思い当たる節にハッとさせられ、最後まで聞いてくれた。


「つ、詰み体質……」

「あーしも含まれてんのかーあんま実感無いけどなー」

「でも一緒に居るとさ、滅茶苦茶居心地良くねぇ?」

「「すごい分かる」」


 こうも目の前で激しく共感されたら、イヤでも恥ずかしさと照れが込み上げてくる。


「つまり……洋く……積木君の特殊な詰み体質で、私とも出会ったって事?」

「でないと、あんな風な出会いはありませんよ」


 通学中に塀の向こうから、いきなり渚さんが飛び降りてきたんだ。

 一生で一度も無い出会いだ、絶対に。


「で、あびるちゃん達も例外じゃないと」

「はい」


 同じ学校の同じクラスでも、関わりをあまり持たずに卒業する、なんて普通にあり得る話だ。

 七人女神ともなれば、卒業までに一目見られれば御の字レベルだ。

 だからこそ、七人女神相手だろうと異性を引き寄せ、好意的にさせてしまう詰み体質は異常なんだ。


「ふーん……詰み体質の影響あるなしにせよ、アンタはモテすぎなのよ!」

「そうだ! そうだ!」

「そーだーそーだー」

「え、えぇ!?」


 直球の指摘にも、モテの自覚が全くないから、反応にも困るんだ。


「略奪戦も一体なんなのか教えなさい!」

「こ、こっちの渚ちゃんも良い♪」

「やったれーやったれー」


 逃れようのない3対1に、若干の緊張を覚えながら、略奪戦に至るまでの事の発端を話した。

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