49話 略奪戦の有力情報
昼食を心ゆくまで堪能し、お腹も心も満たされた僕らは、5番勝負の緊張とVRA環境もあって、疲れ一気に来ていた。
師走姉妹に至っては、お互いに身体を預けて仲睦まじくうたた寝してる。
「さて皆。長居はここまでにして、そろそろお開きにようじゃないか」
「だな! ご馳走になったぜ! 美味かったわ!」
「忘れ物しな……イヴさん?」
手を掴んで見上げるイヴさんは、何か覚悟を決めた真剣な眼差しで、僕らに静かに呟いた。
「……洋、愛実。アリアの奴、エゲツないもんで略奪戦を勝つつもりだ」
「え? い、イヴさん! それってどんなの?」
「ち、近ぃ……ふひ。あ、あびるが前にボソッと言ってたのを聞いただけだから、詳しい事は分からん」
イヴさんの事だ、略奪戦防衛後にわざわざ嘘を付くなんて真似は絶対しない。
それにアリアさんの略奪戦は七人女神で最難関だ。
少しでも勝機に近付けるなら、何としてでも有力情報が欲しい所だ。
「一か八か、あびるさんに連絡して聞いてみる」
「言い出しっぺはオレだ。オレがやる」
最新機種のスマホを操作し、あびるさんに掛けるとワンコールで出た。
《なんや》
「略奪戦の報告と聞きたい事がある!」
《あー今日やったか。負けると思って気にせんかったわ》
「ぐっ! お前って奴は!」
《うっさいな。で、聞きたい事って?》
スピーカーに切り替えつつ、手短にあびるさんが知ってるアリアさん情報について聞いてくれた。
ちゃんと心当たりがあるのか、多少呆れ混じりの声が返って来た。
《あー確かに言ってたわ》
「なら、教え」
《なんで負けたアンタに教えるんや? 勝った洋クンになら、なんぼでも教えたる》
「このぉ……今代わる」
苛立ちを抑えながらバトンタッチされ、まずはいつもと変わらない空気を保ったまま、あびるさんの名前を呼んだ。
「あびるさん」
《洋クン! イヴを負かすなんて、めちゃめんこいな! ギューってチューって今すぐしてあげたいわ!》
「私が鯖折りしてやろうか?」
《あ? ぺったんこぺったんこは邪魔や。口開かんで聞く耳だけ立てておけや》
「ぺったんこじゃねぇんうぐうう?!」
しゅーちゃん達に引き離され、よしよし慰められてる愛実さんを任せ、今度こそ本題を切り出した。
あびるさんの事だ、そう簡単に口を割らなさそうだ。
「あびるさん。話してくれるかな」
《お願いあびる、って言われたらコロっと言うんだけどなー? チラチラ》
「あ、えーっと……じゃあ……こ、コホン……お願い、あびるさん」
《さん無しやないとイヤや》
ときたま見せるあびるさんの強情さには、あのアリアさん達でさえも根負けした事があるんだ。
愛実さん達に見守られながら、冷静に落ち着いてご要望通り口にした。
「……お願い、あびる」
《むふぅー♪ 約束は約束や♪ 直接会った時に教えたげるわ♪》
「あびる! てめぇ! 図に乗り過ぎんな!」
《負け犬の遠吠え程虚しいもんはないな、イヴ》
「今すぐ締め上げっ!? 離せ! お前ら!」
折鯊さん達4人が掛かりでスマホから離されるイヴさんは、本気であびるさんを締め上げそうな勢いで大声を上げ続けてる。
あとでフォローに回って、今は早急に情報を手に入れる。
「直接って事なら、次はあびるさんが相手なのかな」
《いや、くららが先や。今連絡行ったやろ?》
あびるさんの言葉通り、丁度くららさんからの連絡通知が来た。
『イヴちゃんに勝ったって聞いたよぉ。
まずはおめでとうだねぇ。
次の相手はわたしだからよろしくねぇ。
略奪戦の内容は1週間後に、また連絡するねぇ』
猶予は1週間以上だと分かったんだ。
束の間の休息で、略奪戦の予測、可能な限りの準備をして、有意義に過ごさせて貰うだけだ。
「確かにくららさんが次の相手みたいだね」
《やろ? ウチは洋くんにだけは素直で良い子ちゃんだもん♪》
あび猫様しか知らない人からすれば、今の素直で謙虚なあびるさんの姿は、ギャップがあり過ぎるもんだ。
《なんや、もうこんな時間か。ごめんやけど、これから面倒な案件があるんや》
「そっか、忙しいのにありがとうね。頑張ってね」
《ありがと♪ ほな、またな♪ 洋くん♪ チュ♪》
あびるさんを始めに、七人女神全員が多忙極まりない中で、こうして時間を割いてまで略奪戦をやって来てるんだ。
残りの4人も一筋縄じゃ行かないから、心強い仲間と一緒に結託して突破するしかない。
あびるさんの電話も切れて、愛実さんとイヴさんも大人しくなり、小さな沈黙を破るように愛実さんが口開いた。
「そういや、いつも略奪戦終わりに来るアリアの連絡が無くね?」
『私が恋しかったのかな、愛実ちゃん』
「ぴゃ!? あ、アリア!? ど、どっから聞こえてんだ!?」
『こっちだ』
声のする方へ視線を向けると、テレビに真っ暗な空間でスポットライトに照らされたアリアさんが、椅子で足を組んでる姿があった。
『私の略奪戦情報のヒントを与えるなんて、酷いじゃないか、イヴ』
「オレは負けたんだ。どうとでも言え」
『なら遠慮なく言わせて貰う。君なら略奪戦に勝て筈だ。のに絶対的な強さ故の、弱さに対する甘えによって敗北した』
実戦なら勝ち目は確かになかったのに、イヴさんはVRAをわざわざ選んでくれた。
僕らに僅かな勝ち筋を与える為の、弱さへの甘え。
それがVRAを選んだ答えだったんだ。
『洋君を我慢ならない程に欲したいのであったら、己が優位な中身にすべきだったんだ』
「だろうな」
『自覚があるなら尚更つまらない終わりを迎えたものだ。君の嫉妬も愛も何もかも中途半端だ。だからイヴ、君は洋君には相応しくない』
「貴方こそ人のことが言えるんですが、乙夜街道アリアさん」
「しゅーちゃん……」
「秋子……」
『市瀬秋子ちゃん。君が洋君から身を引いた今、君の言葉程無害なものはない』
「だとしたら無視すればいいのに、名指しで返事しちゃいましたね」
しゅーちゃんの言葉に、珍しくアリアさんの目元が一瞬ピクついた。
『ふっ……秋子ちゃんは強いな』
「弱いですよ私は。でも、洋さん達は必ず貴方に勝ちます。貴方と違って強いから」
『そうか。私の略奪戦内容を口外出来ないのは残念だが、その日が来ることを楽しみに待ってる』
薄ら笑みを浮かべるアリアさんがスポットライトの照明一緒に消え、ニュース番組にパッと切り替わった。
「……秋子。気使わせちまってすまん」
「ううん。友達の為だもん」
小さくても絆が確かに生まれた2人は、握手からのハグをし合い、イヴさんとの略奪戦がこうして終わった。




