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積木君は詰んでいる3  作者: とある農村の村人
9章 VRA5番勝負
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48話 お疲れ様会と木林森イヴ

 略奪戦後、一全高校の最寄り食堂で、お昼とお疲れ様会を兼ねて、イヴさん達と座敷部屋で過ごしてる。


「VRAじゃなきゃ勝ててた、絶対!」

「だろうけど、イヴから提案してきたんだろ?」

「ぐぬぬ……越子とアリアの口車に乗せられんければ、今頃洋はオレの旦那になってたのに!」

「まぁまぁ、これでも飲んで、な?」


 やけ酒ならぬ、やけプロテインで略奪戦の愚痴を溢すイヴさんに付き合ってあげてる愛実さん。

 百戦錬磨で負け知らずだったのだから、たとえVRA敗北でも悔しいんだ。


「ボクのイヴ様コレクションを見に行きたいだって?!」

「ま、まぁ良かったらなんだけ」

「秋子くん……ボクは同担拒否しない人間だ!時間はあるかい? きっと一昼夜じゃ語り足りないから!」

「あ、圧が!」


 食い気味で圧の凄い御琴葉さんと、今にも押し倒されそうなしゅーちゃんも楽しそうにしている。

 昨日の敵は今日の友、と言わんばかりの仲睦まじい景色が繰り広げられ、沙良先輩も樫扇さんと語らってる。


「なんと! 有沙後輩のお姉ちゃんが北高に通ってるっすか!」

「古典教師としてですけどね。ありさと違って真面目の堅物ですよね」

「みもざ先生っすよね? むしろ有沙後輩みたいに、お茶目で陽気でダンス部の顧問っすよ?」

「え、何それ!? はっちゃけすぎでしょ?!」


 古典教師の樫扇みもざ先生は、2年生から授業で僕ら1年生と会う機会がそもそも少ないから、正直あまりパッと顔が出てこない。


「いやー!あんなちびっ子だった彌生子が、火ヶ島と同じぐらいになってるなんてな!」

「獅子美お姉ちゃんはそのまま大きくなったね……」

「カッハッハッハ!どうだ?昔みたいに抱きついて来るか?」

「いいのぉ!じゃ、じゃあ……ギュッ……」


 5番勝負の小休憩中、火ヶ島先輩が折鯊さんと同じ小学校でよく面倒を見ていた子だと教えて貰ってる。

 折鯊さんのペースを乱されると幼児退行するアレも、火ヶ島先輩と過ごした影響が大きいと、勝手ながら思ってる。


「ほぉ……ふむぅ……沙良姉の話通り、均整の取れた身体だな、キミって」

「あ、ありがとう沙希さん。くすぐったいけど……」

「触れなきゃ分からないもんだってある! にしても是非一度、手合わせしたいもんだ! あ、相撲なんてどうだ?」

「や、やらないよ?!」


 にぎにぎと手を握られ、接触を止めない沙希さんに対し、愛実さんイヴさんしゅーちゃんから、離れた方が身の為だぞオーラが向けられてる。


 ♢♢♢♢


 自分の身は自分で守れ。

 生まれた時からそう育てられたオレは、恵まれた環境、伸び続ける運動能力もあって、物心つく頃には敵無しだった。


 尊敬、憧れ、惹かれて、近付きたくて。

 気付けばオレの周りは、そんな奴らで固まっていた。


 なに不自由なく順風満帆な人生を送り続けてる中で、中学入学に洋と出会った。

 第一印象こそ、無性に守ってあげたくなる可愛い男の子で、目を離したらダメなんじゃないかって思う程、姉みたいな気分になってた。


 そんなある日、男女混合の体育授業の時。

 珍しく体調が優れんかったオレは、たまたま脚がもつれてコケたんだ。


 あのイヴならすぐ持ち直す、誰しもがそう思ってる中、洋は真っ先に駆け付けて、手を差し伸べてくれたんだ。


「大丈夫!?」

「洋……」


 誰の手も借りず、1人でどうにか出来る、それが木林森イヴ。

 だからどんな相手だろうと、弱い所を見せたらダメなんだって、洋の善意をオレのプライドが邪魔した。


「はっ! なんともねぇよ! 戻った戻っ」

「ごめんイヴさん。保健室行こう」

「お、おい!」


 肩を貸してくれた洋は、オレより小さいのにしっかりと支えてくれて、嫌な顔をせず真剣にオレを運んでくれた。


「は、話聞けって!洋!」

「イヴさんの事だから、周りに頼らないかもだけど、僕やアリアさん達には遠慮せず頼っていいんだよ」

「だ、だけどよ! こんな情けない姿を周りに見せちまったんだ! 周りのヤツらは絶対残念がるだろ!」

「それって理想の姿でしかないよ」


 オレはこうあるべきなんだって、オレ自身が気付けないぐらい、周りに縛られ続けていたんだって、ハッとさせられた。


「な、なんか勝手言ってごめん」

「……んな事ねぇよ……もう少し身体預けていいか」

「うん」


 あとで話を聞けば、オレが登校した時から、いつもと様子が違うって気付いてたらしい。

 アリア達も薄々感じてたみたいだが、洋はずっと気に掛けてくれてたそうだ。


 洋は初めから理想で縛らないで、1人の女の子としてオレと向き合ってくれてるんだって、そう気付いた瞬間、洋はオレにとっていつまでも隣にいて欲しい理想の人になった。

 

 ただ、今までに経験してこなかった気持ちはとめどなく、洋に近付く連中に物凄く嫉妬するようになった。

 例え親友のアリア達でさえもだ。

 同時に妬けに妬ける度、オレの活力へと変換されるんだって気付いた。

 だからオレは妬け尽きる前に、洋をパートナーにするしかないと決めたんだ。


 オレの理想を叶える為に。


 でも、略奪戦に負けちまった以上、オレは理想を諦めるしかない。

 だから今度は洋達を応援するんだ。


 それでも、もう少しだけ妬けた人生を送りたかったな。

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