47話 エキサイト・ファイト6
両チームが見守る中、最後のルーレットが回り、ゆっくりと針が止まり大将戦のゲームが決まった。
「大将戦は『エキサイト・ファイト6』。オレ達に相応しいチョイスじゃねぇか」
初代エキサイト・ファイト通称エキファイが生まれて早30年。
ゲームと無縁な人ですら一度は聞いた事がある、認知度No.1の大乱闘ゲームだ。
特に有名なのが他社ゲームキャラのゲスト参戦だ。
そんなゲスト参戦動画を、外国人が面白おかしくリアクションする配信・動画がメチャクチャにウケて、より多くの人にエキファイを知って貰えるキッカケにもなり、今ではエキファイの風物詩になってる。
そしてエキファイ6の最新トレーラー映像の大まかな概要だと、総キャラ数が100体と前代未聞の情報が大々的にニュースに取り上げられる程、前作から更にボリュームアップしてるそうだ。
勿論しゅーちゃんとのゲーム合宿でも、エキファイは叩き込んで来たんだ。
しゅーちゃんはどんなキャラでも2、3回操作すれば使いこなせるぐらいエキファイとの相性抜群なんだ。
「1試合の一本勝負だ。逃げ出すなら今の内だぜ」
「背中を見るのは貴方の方よ。『アイナ』で貫き通す」
「お前ならそう言うと思ったぜ! 『カイ』で圧勝してやるよ!」
初心者にも優しいバランス型のヒーローOL『アイナ』。
パワー型で扱いが上級者向けのアマゾネス『カイ』。
過去エキファイ世界大会で優勝したキャラ同士だ。
ゲームキャラと現実とで眼光を飛ばし火花を散らす中、ゲームアナウンスが響き渡る。
《3・2・1……fight!》
最初に動き出したのはカイことイヴさん。
動作が遅めのパワー型も、イヴさんの運動神経能力がVRAに反映され、デメリットを帳消しにしてる。
隙のない弱攻撃の連撃で、アイナの体力ゲージがじわじわと減るも、ガードを全て成功させて威力を半減。
「見た目だけじゃねぇみたいだな!」
「減らず口、そろそろ閉じなよ」
1フレームしか猶予がない、相手の攻撃を弾き仰け反らせるジャストアクションが炸裂。
屈強なカイの身体が大きく反り、イヴさんのキレッキレな腹筋で素早く戻るも、同時に強攻撃の蹴りが鳩尾にクリティカルヒット。
一気に1/3体力ゲージを削られ、画面端まで吹き飛んだ。
「一気に叩く」
立て直す時間を与えず、猛スピードで距離詰めするアイナが、渾身の強攻撃を振り翳そうとした時。
カイとイヴさんが不気味な笑みを浮かべ、こう叫んだ。
「超技『轟弓連』!」
超技はキャラ一体一体にある必殺技で、時間経過やダメージ蓄積などなどでゲージをマックスまで貯めないといけず、基本1試合に一度しか使えない。
そんな超技『轟弓連』は、直線上にいる相手に向け、NPC達が矢撃の嵐を浴びせ、体力ゲージを半分削るんだ。
真っ正面にいるアイナが『轟弓連』を避けられる筈もなく、矢撃の嵐をモロに食らい、ステージ上に高々と飛ばされた。
「反撃じゃ生温い! 蹂躙だ!」
頭上のアイナまで飛び、踵落としで地上へ落とし、ありとあらゆる攻撃で一方的に攻め続ける。
ジャストアクションは勿論、ガードも猛攻に追い付けず、体力ゲージがデンジャーラインからデッドラインにまでみるみる減り続けてる。
「これでオレの勝ちだっ」
「超技『ヒーロー覚醒』!」
超技は攻撃系と自己強化系の2種類に分かれ、『ヒーロー覚醒』は体力ゲージがデッドライン状態にしか使えない。
その代わり超技発動から10秒間、相手攻撃を一切無力化する、最後の形勢逆転になるんだ。
弱攻撃の一撃でも食らえば終わっていた場面で、勝利への確信を得たイヴさんの、一瞬の余裕を見逃さなかったしゅーちゃんには脱帽だ。
「ありがとうイヴさん。これで思い残す事はなくなった」
「く、くちょおおおおおおお!」
『闘技の女帝』という確固たる地位もあって、大衆の面前で逃げる選択を捨て去ったイヴさんは、アイナの光り輝く拳を数発食い、華々しくKOと共に散った。
《winner! アイナ!》
《定時に帰れる! やったね!》
大画面の僕らのチームに王冠が増え、3勝2敗で略奪戦の防衛に成功した。
「しゅーちゃん! ありがとう! 勝てるって信じてた!」
「すげぇよ! しゅーぴっぴ! ほんとヤベェよ!」
「いいもん見せて貰ったぜ! かっはっはっは!」
「感激したっす! えきふぁい?をやってみたくなったっす!」
「わっわ!?」
囲まれて赤面するしゅーちゃんは、どこか吹っ切れた様な笑みを浮かべ、僕と愛実さんの手を取り、優しく重ねてくれた。
「洋さん、愛実さん。2人なら大丈夫」
「うん……ありがとうしゅーちゃん」
「あんがと! しゅーぴっぴ大好きだ!」
心強いしゅーちゃんの言葉から、優しさや想いを大事に受け取った僕らは、残りの略奪戦を必ず乗り越えると、目を合わせあった。
勝利の余韻もあってか、ふと気が抜けた空気の中、激しく床を叩き付ける音が響いてきた。
「くちょぉおおおおおお! 洋を諦めるなんてイヤダァあああああああ!」
「と、取り乱すなイヴ!」
「ありさがよしよししてあげるから暴れないで!」
「い、イヴ様をよしよしするのはボクだ!」
「あーあ、しっちゃかめっちゃ」
ドタバタ暴れに暴れまくるイヴさんを抑えようと、折鯊さん達が必死に動くも、いとも簡単に吹き飛ばされ、僕らも大慌てで協力し、抑えるのに尽力した。




