46話 マニオパーティ11
もはやお馴染みになったルーレット回しで止まったのは、あの人気ゲームだった。
「副将戦に選ばれたのは『マニオパーティ11』!」
僕ら世代が生まれる少し前から、世の中に爆発的なゲームブームを巻き起こした、天下のニンニン堂産のパーティゲームだ。
大ボリュームの戦略性やギャンブル性があるパーティ内容を始め、ギミックの凝った数十のステージマップ、そして簡単操作で遊べるミニゲームが大人気だ。
「師走姉妹にやって貰うモードは『ワルミ・ミッション』だ!」
主人公マニオ一派とキョッパ大統領達のライバル関係に、第三勢力として現れたのが大怪盗団の女団長ワルミ。
当初は一作品だけの登場予定だったらしいが、あまりにも人気が出て、徐々に出番が増やされ、今では女性人気キャラNo.1の座を数年間維持してる人気っぷりだ。
選択されたモード画面には、見目麗しきワルミが笑みを浮かべ、人気女性声優の声が聞こえ始めた。
《今回アタシを楽しませてくれるのは、アンタ達かい?》
「そうっす! よろしくお願いするっす!」
「ワシは師走沙希じゃ! 沙希と気軽に呼んでくれ!」
《ふーん……かわいい子ほど、いじめたくなっちゃうんだよな、アタシって》
「普段言われないこと言われると照れるっすね!」
「ワシはカワイイ! ふんす!」
進行セリフなのに会話が成立してる不思議現象は、師走姉妹のゲーム耐性が無いから成り立ってるんだ。
ゲームに触れて来てる身としては、師走姉妹の光景は面白おかしくもあって、ゲームに初めて触れた時の新鮮で斬新な世界に自分が入り込めてる気持ちを思い出させてくれる。
《そんなアンタ達は今からアタシの手下よ! 分かったなら返事しな!》
「「は、はいっす!」」
《いい返事ね。ただし手下は1人で足りてるの。だからアタシの命令で怪盗を多く成功した1人だけを迎えるわ》
「残りの手下はどうなるっすか!?」
「教えてくれ!ワルミ団長!」
《手下に相応しくない半端もんは、直々にこの鞭できつ〜いお仕置きをしてやるさ! さぁ! ごちゃごちゃ言ってないで手足を動かしな!》
「「はいいい!」」
ヒーロー戦隊モノの雑魚敵みたいに、ビシッと敬礼する師走姉妹は、すっかりワルミの手下だ。
先行の沙良先輩は慣れない環境に緊張してるのか、珍しくグッと硬い身構えで、今か今かとワルミの声待ちだ。
《プレイヤー1! 命令だ!猿になりきれ!》
「う、ウキィー!」
《怪盗予告状『見つからずダイヤを盗め』》
通常数秒で終わるミニゲームも、ワルミ・ミッションではタイムリミット30秒と長尺だ。
そんな長尺とシンプルなゲーム性もあってか、沙良先輩は見事な猿の動きでスラスラ進み、ダイヤをあっさり手に入れた。
《上出来じゃないか。褒めてやる》
「あ、あざっすっす!」
《プレイヤー2! 命令だ!突き出したお尻を振りまくれ!》
「お、お尻!? ぷ、ぷりゃりゃりゃりゃ!」
《怪盗予告状『踊りながら部族長の証を盗め』》
一切の妥協を許さない全力のお尻振りで、部族長の背後にある証を目指す沙希さんだけど、お尻がNPCに当たりに当たりまくるミスを繰り返し、ものの10秒でNPCに囲まれて捕まってた。
《失敗してんじゃないわよ! お仕置きだ!》
「いみゃん!? お、お尻を叩かれた?! ふぇ?!」
VRAの衝撃再現に飛び跳ねてしまった沙希さんは、小ぶりなお尻をさすさすと撫でて労ってた。
《プレイヤー1! 命令だ!胸を張って陽気にステップしやがれ!》
「こ、こうっすかね!」
《怪盗予告状『パーティーで怪しまれず、金銀財宝を盗め』》
数十いるNPCから金銀財宝を沢山盗めばいい、割と簡単なミニゲームの分類だ。
ただそれもワルミ・ミッションがなければの話だ。不慣れな体勢とアクションの両立に、どんどん表情がぎこちなくなり、挙げ句の果てには変顔でクリアしていた。
《見込みがあるじゃないかい。その調子よ》
「は、恥ずかしいっす!」
「好機だ! 恥ずかしがってる沙良姉は、中々に本調子に戻らない!」
実妹の沙希さんなだけあって、沙良先輩の本調子は本当に終盤まで戻らず、怪盗クリア数も大差がついてしまってた。
《プレイヤー2! ラスト命令だ! 魚のようにうねりやがれ!》
「余裕のうねり! とくと見よ! マニオパーティ11うねねねねい!」
《ラスト怪盗予告状『トラップを突破して、秘宝を盗め』》
水を得た魚のように次々とトラップを抜け、一度でも触れればアウトな赤外線トラップも、難なく突破するかに思えた時、突然沙希さんの動きがピタリと止まった。
「何してんだ! 沙希!」
「い、イヴ! あ、脚が攣っちゃった!?」
「調子こいてたからだろうが! あ!」
「へ? あ!?」
いくらプレイヤーが何かしらの理由で止まっても、ゲームを一時中断しない限り進むのは、どのゲームにも言える事。
攣った沙希さんは向かってくる赤外線レーザーに呆気なく当たり、過剰な警備装置によって蜂の巣にされた。
「あたたたたたた!? しっかり目に痛い!?」
《よくもワルミ怪盗団名前に泥を塗ってくれたね……》
「わ、ワルミ団長!? こ、これは仕方がないと言うか!」
《言い訳なんて聞きたくないね! 鞭100連発のお仕置きに、今までの成功数を減らしてやる!》
「あだだだだだだだ!?」
ラストミニゲームなのもあっってゴリゴリに成功数が減り、大差も僅差まで縮む、またとない大逆転チャンスだ。
沙良先輩も千載一遇のラストミニゲームに、気合い注入の頬叩きでやる気を取り戻した。
《プレイヤー1! ラスト命令だ! 猛獣のように吠えやがれ!》
「や、やってやるっすよ! ギャォオオオオン!」
《ラスト怪盗予告状『静かに城の秘宝を盗め』》
VRAは感覚での操作に特化してるだけで、音声認識までは未実装だ。
つまり吠えるだけの命令は、ミニゲームのデメリットが無いも同然なんだ。
現実で吠えまくり、VRAでは静かに進む、なんとも矛盾な光景を見守り、いよいよ秘宝がある大扉へと侵入。
巨大なドラゴンが寝息を立ててる奥に、眩いばかりの秘宝が見えた。
時間もまだまだ余裕だから、ドラゴンに触れず迂回すれば絶対に盗める状態だ。
そんな勝ち確を誰もが信じて止まない中、沙良先輩の動きが止まってた。
「ん? どうした! 沙良!」
「どらごん」
「あ?」
「これが伝説で最強と呼ばれてる生き物! ドラゴンなんっすね!」
眼をキラッキラに輝かせ、今にも飛び掛かりそうな雰囲気が、何よりも沙良先輩の好奇心が爆発してる証拠だった。
沙良先輩のあからさまなウソ(あ!UFO!系のヤツ)に100%騙される天然性格が、ここに来て足を引っ張るなんて全くの想定外だ。
「さぁ! ドラゴン! 私と勝負っす!」
「「「「待っ!?」」」」
《グル! ギャオオオオオ!》
「ふみゃ?!」
案の定、僕らの止める声が届かず、ドラゴンに潰されて倒れる沙良先輩は、ワルミの足下で見下ろされていた。
《ここまでガッカリしたのは初めてだよ》
「す、すまないっす……つい、ドラゴンに夢中で……」
《問答無用! 鞭100連発のお仕置きに、今までの成功数を減らしてやる!》
「びゃひぃいいい!?」
僅差が覆る訳もなく、鞭しばきを受ける沙良先輩は敗北し、勝敗は2勝2敗に。
残す略奪戦の命運が掛かった、しゅーちゃんとイヴさんの大将戦が今始まる。




