45話 リズムパラダイス123・真打
本日3度目のルーレットが回り、中堅戦のゲームタイトルが決まった。
「中堅戦は『リズムパラダイス123・真打』だ!」
数年前ニンニン堂から発売された、有名作曲家が楽曲提供・監修しているリズムアクションゲーム『リズムパラダイス』シリーズの最新作だ。
基本簡単なリズムアクションで遊べる初心者にも優しい使用で、一家に1ソフトあると言われてたぐらい認知度がエグい作品だ。
「洋達にやって貰うバトルは『シャッフルバトル・山盛りポイント獲得大作戦!』だ!」
150種類のリズムアクションがシャッフルされ、アクション判定のBADからPERFECTの5段階判定でポイントが得られ、より多くのポイントを最終的に取れば勝ちのシンプルバトルだ。
難易度も判定が甘くアクションも少ないeasy、標準なnormal、やや体を動かしたい人向けのhard、そして本格的に動きたい人向けのmasterの4つがある。
難易度が上がればポイントもその分多く獲得でき、comboを繋げば繋ぐほど更にポイント増し増しになる仕様だ。
《トレーナーは難易度を選択してね》
「難易度はnormalで!」
「masterで行かせて貰うよ」
perfect comboで高ポイントを狙える安パイのnormalは、きっとmasterの高comboですぐ追いつかれる。
勝敗の天秤を考えるなら難易度を一つ上げるべきだ。
「hardに変更します!」
《難易度変更を完了しました》
「見栄だけで終わらないでくれよ、積木くん」
「お互い様です」
実際ゲーム上での試合じゃなければ、御琴葉さんの足元にも及ばないのが現実だ。
だからこそVRAのゲーム性を強みに、勝利を捥ぎ取るんだ。
「……生意気な君に一つ忠告しておく」
「な、なんです?」
「基本誰とも行動したがらないボクが、唯一心許しているのが完全最強無欠なイヴ様なんだ」
「え」
「そんなイヴ様が君にお熱だなんて……甚だしいにも程がある!」
嶋さんの梨紅さんガチ勢と同じく、御琴葉さんもイヴさんのガチ勢だ。
青筋立てて声を張り上げながら、イヴさん愛を饒舌に語り続けてるのが何よりもの証だ。
「いいから始めろ! 先制はお前からだろ! 寧斗!」
「ひゃい! 指を咥えて刮目するがいい! 積木洋!」
《シャッフルスタート! ……チアダンス!》
ゲームキャラの両手にポンポンが現れ、軽快なミュージックがゲームがスタート。
『魅惑の魔術師』の呼び名通り、微細で鮮麗なリズム動作はチアダンスを通り越し、本番のチアリーディングに近いものだった。
《finish! perfect combo達成!》
「ぴゃ! perfect combo! 見てくれたかい! イヴ様!」
「見てたっての! いちいち報告すんな!」
「はぁん! げ、激励! し、沁みるぅ……!」
どんな言葉もプラスに受け取れる精神こそ、いかなる場面でも強みになれるのだから見習うべきなんだろうけど、対戦相手ともなれば厄介そのもの。
最高難易度でperfect comboを初っ端か叩き出された以上、難易度が低い僕が同じ結果でも、1回だけじゃポイント差は埋められない。
第一前提はミスを無くしperfect comboを狙う、だ。
「行きます!」
《シャッフルスタート! ……カントリー&ロカビリー!》
軽快なビートに乗せて、ジャズとロックの要素が混じったリズムで、様々な派生ジャンルの元になった、古くから愛されてるリズムジャンルだ。
どれだけ聞き馴染みがなくても、身体が自然とリズムに合わせて動いてくれる。
《finish! high scoreおめでとう!》
「ま、マズい……」
「洋ぉおお! いい動きだったぞぉおお!」
「い、イヴさん? 気持ちはありがたいけど、今は敵だか……はっ」
正面先で威圧的な眼光を飛ばしてくる御琴葉さんから、今この場で制裁を下してやると訴えられてる。
ゲーム終わりにあれやこれや問い詰められそうで、今から内心穏やかじゃない。
「ま、またしてもイヴ様を……ゆ、許さん! 積木洋!」
《シャッフルスタート! ……マリアッチ!》
苛立ちを発散すべく、歌と踊りに特化したメキシコ舞踊音楽に合わせ動く御琴葉さん。
よっぽどイヴさんの声掛けが効いてるのか、集中を削がれてcomboを繋げられず、ノルマ達成ギリギリのポイントでクリアしていた。
《finish! ノルマ達成! おめでとう!》
「ふ、不甲斐ない……ぐぬぬぬ……」
御琴葉さんが調子を取り戻す前に、いい流れに乗りに乗ってポイント差を縮めるしかない。
「い、行きます!」
《シャッフルスタート! ……ハワイアン!》
スローテンポと癒しのハワイアンミュージックは、難易度こそ低いがシビアな判定だ。
確実に正確に一体感を生み出し、ギリギリのところでperfect comboをどうにか達成した。
《finish! perfectコンボ達成!》
「よし!」
「癒されたぜぇええええ! 洋ぉおおおお!」
「ま、またしてもイヴ様をぉおおおお!」
イヴさんという味方に足元を掬われ、どんどん動きがグダグダになり、ポイント差が縮みに縮む度にイヴさんのお叱りを受け、承認欲求が満たされる御琴葉さんは、もはやゲームなんて二の次になってた。
「い、イヴ様の隣はボクが相応しいんだぁあああ!」
《シャッフルスタート! ……ロボット!》
機械的に制限される動きが特徴のロボットダンスも、今の状態ではただのふにゃふにゃダンス。
結果は言わずもがな、序盤の大差あったポイントも、恐らく数ポイント差まで迫ってる。
《finish! ノルマ未達成……頑張ろうね! ゲーム終了! 結果発表だよ!》
終盤になるとプレイヤーのポイントが隠されるから、ポイント差が実際どうなってるのかは分からない。
ゲーム内のドラムロールとライトがぐるぐる回り、結果発表アナウンスが会場内に響いた。
《プレイヤー1! 5963ポイント! プレイヤー2! 5962ポイント! プレイヤー1の勝ち! おめでとう!》
「い、1ポイント差……勝てて良かった……」
「洋! やったな! 勝ったな!」
愛実さん達に囲まれ、勝利の祝福ハグサークルで2勝1敗の戦績を噛み締める一方、ゲーム終わりに真っ先に問い詰めて来そうだった御琴葉さんの姿が見えなかった。
「あれ? 御琴葉さんがいない?」
「木林森に連れられて出てったぞ」
火ヶ島先輩のお言葉通り、会場外から御琴葉さんの満たされた声が可愛らしく聞こえ、師走姉妹による副将戦が始まろうとしていた。




