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積木君は詰んでいる3  作者: とある農村の村人
9章 VRA5番勝負
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44話 フィットエクササイズX・極

 次鋒戦のゲームルーレットが回り、イヴさんのストップで次鋒戦のVRAが決まった。


「次鋒戦は『フィットエクササイズX・極』だ!」


 10年前にゲームで運動しながら痩せられるとの口コミで、爆発的大ヒットを飛ばしたスポーツ&エクササイズソフトの最新作だ。

 泣けるストーリーのアドベンチャーモードを始め、本格的エクササイズモードやミニゲームなどなどが充実し、1人でも複数人でも楽しく遊べて、幅広い世代に愛され続けてる。


「数あるモードの中で、お前らにやって貰うのは『デスマッチモード』だ!」


 相手プレイヤーがリタイアするまで続くエクササイズバトルの『デスマッチモード』は、正直かなりストイック系な人向けだ。


 例えば時間内に腹筋5回達成すれば、相手の負荷(回数や難易度)をプラスに出来たり、自分の負荷を減らしたり出来る、簡単な駆け引きが最初は続くんだ。

 ただそれが長引く度に、心身共に疲弊が蓄積され、最終的に気まずい空気と、明日への筋肉痛、虚無だけが残り、一般的に一度やれば充分なモードなんだ。

 遊ばれるにしても多人数プレイやおふざけ程度で、今回みたいな体育会系ガチ勢の真剣勝負ともなれば、かなりの実物になる。


「この火ヶ島は人生の先輩だ。遠慮なく先制ぐらい譲ってやるぜ、樫扇」

「随分な余裕ね、前言撤回は無しよ」

「あぁ」


 各プレイヤーはランダムで7枚配られる、エクササイズと回数の書かれたカードを、相手プレイヤーに宣言するんだ。


「行くわよ!バーピージャンプ5回よ!」

「カッカッカ!ぬるいぬるい!」

 《制限時間30秒……スタート!》


 豪快且つ綺麗で素早いフォームで、ものの10秒でバーピージャンプをクリアした火ヶ島さんは、僕らにグッドポーズを決めてくれた。


 《クリア! プレイヤーに負荷の宣言を》

「樫扇の負荷をプラスだ!」

「フン!この程度で、有沙がへばるとでも?」

「なんでも塵積もだ!サイドプランク(どちらでも)30秒!」

 《負荷プラス、制限時間30秒追加、計1分……スタート!》


 微塵もブレない体幹でプランクを軽々しくクリアし、持ち前の柔軟性を見せつけるように、180°開脚のまま頬杖ついてリラックスしていた。


「プランクなんて毎日の基本メニューでやり飽きてるわよ。火ヶ島さんの負荷プラスよ!」


 お互いペースを譲らないまま30分経過後、火ヶ島先輩の様子が目に見えて変わってた。


「有沙の負荷マイナスよ。さぁ!ヒンズースクワット15回を食らいなさい!」

 《負荷プラス20回、計35回、制限時間90秒……スタート!》

「クソ……通気性が追いついてねぇ……中が蒸れて来やがった……」


 肌身がヒリヒリする蒸気を悶々と放出する火ヶ島先輩は、きっと中はサウナ状態だ。

 いくら一つ一つのエクササイズ難易度が軽くても、休みなしに異なるエクササイズを続ければ、身体の燃焼は止まらないんだ。


「あらあらあら?もうへばり始めてるの?」

「かもな!んしゃ!」

 《クリア! プレイヤー負荷の宣言を》

「火ヶ島の負荷マイナス!腕立て20回!」


 一方の樫扇さんは、気持ちの良い汗を薄ら掻くだけで、まだまだ余裕綽々だ。


「はい、おしまい」

 《クリア!プレイヤーに負荷宣言を》

「あら……いいカード引いちゃった。『お助けカード』のカードブレイク発動よ!」

「な!?」


 自ターンに1枚補充されるカードの中には、低確率で『お助けカード』があるんだ。

 カードブレイクは名前の通り、他プレイヤーはカードを3枚捨てられてしまうもの。

 火ヶ島先輩の残りカードは2枚になり、ブレイクされたカードが悪かったのか、表情を曇らせてた。


「当たりだったみたいね。さぁー!『お助けカード』を使用したから、火ヶ島さんの番よ?」

「か、片足バランス60秒だ!」

「大大大得意なエクササイズをありがとう!あははあはは!」

 《負荷プラス20秒、計80秒……スタート!》


『究極軟体美少女』と呼ばれる樫扇さんの前では、バランス系エクササイズは無意味だ。

 自ら美しいY字バランスからのI字バランスを決め、笑い声を上げてる。


「あははははは!有沙は次のターン、負荷プラスのバーピージャンプを宣言するわ。それで貴方は終わりよ!」


 望み薄い火ヶ島先輩へと勝利宣言した樫扇さんに、僕ら以外が素直に頷いてる、まさにその時。

 樫扇さんの並外れた軟体運動の負荷が想定外だったのか、タイトスーツは負荷に耐えきれず、股関節部分から首元まで一気に裂けてしまってた。

 大きな裂け目から覗く、健康的な肌色が真っ先に映るが、注目の的はすぐに別の場所へと移った。


「く、くまさんパンツ……」


 火ヶ島先輩の呟き通り、注目の的は可愛らしいくまさんパンツに向き、樫扇さんは一瞬で全身が真っ赤になった。


「み、見ないでぇええええええええ!?」


 片足バランスを強制中断し、パンツを両手で隠しながら場外へと走り去った樫扇さん。

 そしてクリアまで残り1秒、つまりリタイアとみなされた。


「獅子美先輩の勝ち……だよな?」

「みたいっすね!獅子美先輩! ナイスファイトっす!」

「いや……この火ヶ島の負けだ」


 大画面にはイヴさんチームに王冠が現れ、1勝1敗の結果がしっかりくっきりと映ってる。


「ど、どうなってるんだ?!」

「樫扇が場外リタイアする直前に、火ヶ島のスーツが先に逝っちまった……すまん、みんな」


 火ヶ島先輩に連動する筈のゲーム画面のキャラが、一切反応が無いのは事実だ。

 身体を伝い滴った熱気の汗で、台座に薄い水溜りが出来るぐらい、火ヶ島先輩とタイトスーツとの相性が悪かったんだ。

 未知の環境下での勝負がどうなるか誰にも分からないが、今回の結果としては一番悔しかったのは火ヶ島先輩なんだ。


 それでも僕らは火ヶ島先輩の健闘を称え、前向きに気持ちを切り替えて貰い、中堅戦の僕と御琴葉さんの戦いへと、バトンを受け継いだ。


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