43話 神々すごろく
愛実さんと折鯊さんの先鋒戦、肝心のゲームはイブさんのランダムルーレットに託された。
「先鋒戦! 神々すごろくだ!」
20年前に初代が発売してから、シリーズ5まで続いてる家庭用据置ファミリーゲームソフトの代表作だ。
ルールはすごろくと同じ、自分のコマを先にゴールさせた方が勝利。
唯一異なるのは、相手のサイコロをバトルで奪い、自分のモノにできる点だ。
つまり、プレイヤーの腕次第で、ずっと自分のターンを続けられる理不尽ゲーであり、リアルファイト発展ゲーで、有名な友情崩壊ゲームの一つだ。
そして今回のVRA導入の神々すごろくは、ゲームプレイスキルよりも身体能力が試される。
「折鯊さんのキャラは『鬼神』だね」
「愛実後輩のはムチムチのバインバインっすね!」
「『祝福神』ってヤツか! 似てねぇな!」
「み、皆さんシーですよ、シー」
軽く赤面して僕らに何か言いたそうな愛実さんに対し、イヴさんが小馬鹿にした笑い声を上げてた。
「なははははは! 瓦子テメェ! リアルがぺったんこ貧相だからって、どんだけ高望みしてんだよ!」
「う、うるしぇい! げ、ゲームん中ぐらい夢見たって良いじゃねぇか!」
愛実さんの怒り動作に連動して、祝福神の身体が皮肉にも豊かに揺れている。
スタート前から冷静さを欠けさせる作戦、とは微塵も思ってないイヴさんの煽りの中、神々すごろくが本格的に始まろうとしてた。
《神々すごろく、スタート!》
ゲームアナウンスの合図に、頭上へと高々と打ち上がるサイコロ目掛け、一斉にジャンプするのが王道の流れだ。
しかし折鯊さんは、先にジャンプした愛実さんだけを狙い、渾身の蹴りを放ってた。
「……吹き飛べ」
「おま?! ズルんにゃ!?」
VRA越しの衝撃はきっと緩和されて軽く押された程度だ。
それでも無防備なジャンプ中の衝撃は、愛実さんを装置外へと飛ばすには十分だった。
意図も容易く先制を取られ、2振り3振りと容赦なく進む折鯊さんは、アイテムマスに止まった。
「アイテム使用……『神の雷』」
「アヒヒヒ!? じ、じびれて動けなび!?」
3秒間動きを封じる『神の雷』で、愛実さんの動きを封じ、余裕の笑みを見せながらサイコロを軽く転がす折鯊さん。
プレイング的には、サイコロに一度も触れさせないまま完封するつもりだ。
アイテムや妨害マスで満身創痍姿の愛実さんを横目に、折鯊さんの優位な数ターンが続くも、強制足止めマス『天獄の門』に止まった。
画面表示される出目が出ないと進めないイライライベントに、サイコロを振るのも段々と粗が見えて始めた。
「この……早く出ろ!」
「! ここだ!」
神々すごろくが普通のすごろくと違う大きな点。
振られたサイコロが床に触れるまでに、他プレイヤーがサイコロに触れれば、その最後に触れたプレイヤーがサイコロを振った判定になるんだ。
タイミングを見計らって動き出した愛実さんに折鯊さんが間に合う訳もなく、最後にサイコロに触れた愛実さんが止まったのは『神の気まぐれマス』。
文字通り、ゲーム上の気まぐれ(ランダムイベント)でプレイヤー達を引っ掻き回す、ギャンブル性がある逆転マスだ。
そしてゲームアナウンスから聞こえたのは『審判の日』だった。
ランダムで他プレイヤーと場所変えをする強制イベントで、多人数プレイならリアルファイト勃発もある一発逆転のイベントだ。
けれども今回は1対1、確定で愛実さんと折鯊さんの場所変えが決まる。
「な、む、ちょ」
「アンタと違ってサイコロ運が良いんだよ!『天獄の門』も一発突破じゃい! せりゃあああ!」
「わ、私のサイコロ!? と、取らないで!?」
「よし! 突破の出目来た! こんまま行くぜぇえええ!」
一見弱みの無さそうな折鯊さんでも、一度自分のペースを乱されると、一気に弱くなっちゃうタイプだと分かれば、愛実さんも鬱憤を晴らすが如く一気に攻められる。
「どりゃああああああ! 妨害マス! 『海割れ』!」
「ひにゃああああ!?」
他プレイヤーはサイコロを2度(連続ではない)振らないと進めない妨害イベントも、今の折鯊さんにとっては重い足枷そのもの。
サイコロが折鯊さんに近付く事なく、祝福マスで大幅にマスを進み、アイテムマスやサポートマスにも次々止まり、アイテムもバフも純諾な愛実さんは、もはや敵無しだった。
「せぃいい! あ、やば! 『亡者の道連れ』だと!?」
「や、やったー! ちゃいころぉおお!」
最恐マスの一角『亡者の道連れ』は、止まったプレイヤーの全アイテム、バフを奪われるプレイヤー泣かせのマスだ。
この機を逃さまいとサイコロ目掛けて、全力ハイハイする折鯊さんに対し、愛実さんは『神々すごろく』の真髄を見せた。
「特性発動! 『祝福神の愛』で『亡者の道連れ』を無効化じゃい!」
「ぴぇえええええ!?」
各キャラごとに設定されてる特性は、プレイヤーの好き好みが分かれる、キャラゲー好きにはもってこいな要素だ。
『祝福神』の特性『祝福神の愛』はどんなマスも一度だけ無効化する、『神々すごろく』内では使い所があまりなく、使用キャラ率も割と低い特性だ。
それでも愛実さんはここぞという時に使えるから、流石としか言いようがない。
ちなみに『鬼神』の特性は、他プレイヤーに直接攻撃する事でアイテムを破壊する『破壊拳』だ。
逆転の一手が崩れ、へにゃりと女の子座りで絶望する折鯊さんの、もう何もかも諦めた空気のまま、順調にマスを進む愛実さんは、最後の一振りを豪快に放った。
スローモーションで空を描くサイコロは、ゴールぴったりの出目で止まり、ゲームアナウンスが流れた。
《勝者、祝福神!》
「ひゅふぅうう!先勝頂きぃいいい!」
「あばばばばばばば?!」
敗北を認めたくない副反応で、白目を向きビクンビクンと痙攣する折鯊さんは、屈強な生徒達に担がれて退場した。
対戦大画面には僕らのチームに王冠マークが付き、一勝した事が堂々と表示された。
「イエーイ! 勝ったぜー!」
「流石だよ愛実さん! ハイ!」
「カッカッカ! 火ヶ島も負けられないな! セイ!」
「ナイスっす! 愛実後輩! ヘイ!」
「あとは私達に任せてね、ハイ!」
祝福のハイタッチをする僕らに、本気の視線を送るイヴさん達。
穏やかじゃない場の空気に飲まれないよう、愛実さんが勝ち取った僕らのペースを崩さないようにしないと。
「カッカッカ! ところで、すごろくをわざわざVRAでやる必要あったのか?」
「ま、まぁ……今回はテストプレイみたいなものですし、世の中に出回る頃には大幅改良されると思いますよ」
「んー小難しい話っすね!」
「なるようになりますよ」
「だな!」
VRAの将来にも貢献出来るよう、次鋒の火ヶ島先輩と樫扇さんの戦いが始まろうとしていた。




