42話 黄金の四天王
略奪戦当日の土曜日、一全体育高校の校門前で僕らは圧巻の景色を目の当たりにしていた。
第二総合体育館までの道の両脇に、屈強なる男女達がズラーっと立ち並び、僕らを出迎えてくれてたんだ。
右を見ても左を見ても、スポーツ界隈で名前や顔の見た事がある人達ばかりで、その上を行くイヴさんの立場が垣間見える景色でもある。
前に聞いた話だと、一全高校にスカウトをされた愛実さんも、やっぱり凄い人なんだって改めさせられる。
仮に愛実さんが一全を選んでたら、こうして隣にいなかったんだ。
「うへぇ……イブの奴、このお出迎えで私達を日和らせる気か?」
「んー……イヴさんの事だし、純粋に歓迎したいだけだと思うよ」
「だとしても、無自覚で自分の立場を見せつけたいお馬鹿さんには変わらないよ。だよね、洋さん」
「ほ、本人の前で言っちゃダメだからね、しゅーちゃん」
僕と愛実さん、そしてしゅーちゃんの3人で場の空気に流されないよう、会話をしながら気を逸らし足を進めてる。
メンバーの残り2人は遅れて来るそうで、応援しに来てくれる皆も、僕らのセッティングやら云々があるから1時間後に集合する事になってる。
そんなこんなしてる内に、体育館の玄関前で堂々と立つイブさんの姿が見え、しゅーちゃんとスマホ画面越しじゃない初対面になった。
「怖気付いて逃げ出すと思ってたぜ! 市瀬……っ!」
「どうかした? 実物を見て怖くなっちゃったとか?」
「お、お前、スマホ越しよりぺったんこじゃねぇか!」
拡声器無しでも響き渡る、聞き通りの良い大声量は、お出迎えしてくれてた人達にも聞こえ、チラホラと頷いてた。
事実でありながらも大衆の面前で挑発させられ、しゅーちゃんのワナワナ震える握り拳が、その憤りをしっかりと表してた。
「こ、この……人のデリケートな部分を、声デカデカと……でも、無いは無いなりに垂れる未来も永劫ない。っふ」
「た、垂れる訳ないだろうが?! オレの黄金肉体美が妬ましくて、たまらねぇんだよな!」
「黄金肉体美(笑)も、いつまで続くやら。老いの反動が大きそう」
「今ここでケリつけるか!?」
「望むところ!」
「ストップストップ!? ここじゃダメだって!?」
ギリギリの仲裁でどうにか踏み止まってくれたものの、イブさんのやる気(2つの意味も込めて)は目に見えて増幅し、周りの景色が歪む空気を纏い、館内に消えてった。
もしイブさんとしゅーちゃんが一対一で初対面を果たしてたら、所構わずに一触即発が絶対に起きてた筈だ。
本番が今か今かと不安になる中、飛び火で胸ディスを食らってた愛実さんが、控え室に着くまで僕の袖を摘み、下唇を噛み締めてた。
♢♢♢♢
着替え諸々を済ませ、控え室で作戦確認してると、2人の人影が僕らの下へと歩み寄ってきた。
「すまんすまん! 遅れた遅れた! カッカッカ!」
「準備運動がてらにひとっ走りしてたら、こんな時間になってったっす!」
球技大会諸々で交流関係を築いた、燃えるように揺らめく赤髪と筋骨隆々な体格をした、北高3年の火ヶ島獅子美先輩。
そしてもはや助っ人としてお馴染みになった、運動系最強の師走先輩。
この2人が僕らチームの残りメンバーだ。
「お2人も揃ったんで、改めて最終確認を……ってちょ!?な、なんで脱ぎ始めてるんですか!?」
「お? わざわざ控え室で着替える時間が勿体無ぇだろ。聞く耳立てておくから気にせず進めてくれ」
「獅子美先輩の言う通りっすよ! 洋後輩!」
ギュッと肩を抱き寄せてきた師走さんも、いつも制服下に常着してるスク水姿になってた。
距離間が近いのもあって、良い匂いと肌の柔らかさが、VRAのタイトなボディースーツ越しに伝わってくる。
無自覚故の接触系コミュニケーションだからこそ、今更何を言っても変わらないから、そのまま話を続け、円陣を組み喝を入れて会場へと向かった。
♢♢♢♢
会場はVRA装置のセッティングで、大人数の大人の人達がせっせと動いてる景色が映る。
肝心のVRA装置は、中央に設置されてる2台の台座な筈だ。
目視だと大体3×3mがVRAの稼働領域だと思う。
前提として稼働領域外に出ない事が、最低勝利条件だ。
「何をやってんだかサッパリ分かんねぇけど、まだ掛かりそうだな!」
「そうっすね! 自分も分からないっす!」
「あの台座から出ず、相手を仕留めれば大丈夫です」
「ほぅ! 市瀬っつったか! サンキューな!」
「ありがとうっす! 結束力を深める為に準備体操するっすよ!」
「うにゃ!?」
しゅーちゃん達の準備体操を横目に、愛実さんとしっかり準備体操を済ませてると、VRA装置の準備が完了。
そして反対コートから、VRAスーツに着替えて来たイブさんが姿を見せた。
「一人も逃げ出さねぇで来たみたいだな!」
「貴方1人だけなの? そっちこそ逃げ出されたんじゃない?」
「な訳ねぇだろ! 演出だ演出! いちいちうるせぇぞ! 市瀬!」
口喧嘩を早々に切り上げさせ、イブさんが一つ咳払いをして仕切り直した。
「市瀬にお似合いな東海高校四大なんちゃらがあんだろ。一全にもよ、『黄金の四天王』っつうもんがいっから、遠慮なく呼んでやったぜ!」
大きく手を鳴らしたイブさんの背後から、異質な空気を纏った4人の女性達が歩み現れ、イブさんの横に並んだ。
「先鋒! 折鯊彌生子!」
「……潰す」
大和撫子を彷彿させる、黒髪ストレートロングの可憐で清楚な第一印象は、ジャージを脱ぎ投げ捨てて一変。
鍛え抜かれた身体をはっきりくっきりと主張する、金のライン入り黒ボディスーツ姿で、歴戦の戦士の如く空気が重くなった。
女子柔道で美貌と圧倒的な力、華々しい実績、そして『豪鬼』と呼ばれてる人だ。
「次鋒! 樫扇有叉!」
「ヨォヨォヨォ! 暇潰し程度じゃ納得しないからな!」
ぬるぬると身体の柔らかさと、蛇の様な動きを見せる、セミロングの茶髪に青メッシュを入れた、挑発的な性格の美少女。
女子体操で新記録や新技『アリサ』が認められ、オリンピック選手候補としても注目されてる、『究極軟体美少女』と呼ばれてる人だ。
「中堅!御琴葉寧斗!」
「ボクに勝てるといいね。まぁ無理だろうけど」
繊細な手捌きでバトン、フープ、リボンを次々に操り、パフォーマンス終わりにペコっと一礼した、紫髪のポニテロングの美女。
人を惹きつけるパフォーマンス力、卓越された技術、一度ハマったら抜け出せない魔性から『魅惑の魔術師』と呼ばれてる人だ。
「副将! 師走沙希!」
「ワシで終わらせてやるのじゃ! みゃははは!」
既視感のある外ハネ金髪の小柄な美少女は、名前からして師走先輩の親族で間違いない。
どの運動部にも所属せず、オールマイティな隠し玉として各界に名を轟かせてる、『秘密兵器』と呼ばれてる人だ。
「大将! 勿論木林森イブ! オレだ!」
一全の四天王を総合した実力のイブさんは、正に『闘技の女帝』に相応しい威厳だ。
VRA装置を設置してた大人の人達(主に女性)も応援席からキャーキャー黄色い声を送る、圧倒的カリスマ性で空気を取り込もうとしてる。
開始早々アウェイな僕らが出来るのは、ただ一つ。
後退りせず踏み出し、目の前の相手に勝つのみ。
「先鋒! 瓦子愛実さん!」
「全力で行かせて貰うぜ!」
「次鋒! 火ヶ島獅子美先輩!」
「カッカッカ! この火ヶ島に任せておけ!」
「中堅! 積木洋! 僕です!」
「副将! 師走沙良先輩!」
「まさか実妹と相手とは思わなかったっす!」
「大将! 市瀬秋子さん!」
「相手が猿山の大将さんなら、負ける気がしないね」
お互い対戦相手と火花を散らし、愛実さんと折鯊さんが台座に立ち、先鋒戦が始まった。




