40話 好きな人の為に
夕食後、洗い物やらを済ませ、イヴさんとVRAの話や、七人女神との関係、そして略奪戦を乗り越えないといけない事を語った。
「成程です! 泥棒猫ちゃん達が沢山いるということですね!」
「すごく簡単に言えばね」
「にしても、既に2人の防衛に成功した洋ちんと愛実ちんは、素直に凄いよん」
「周りの皆がいてくれたからだよ」
七人女神一人一人が数人分、数十人分の秀でた才能や能力があるんだ。
だからこそ、周りの皆が心強い味方なんだ。
「問題は乙夜街道アリアだ。全てを手にしてる彼女は、誰がどう見ても非の打ち所がない」
「でもでも、略奪戦じゃないと、よー君が奪えないなんて変だよね。私なら正々堂々と、こんな風に攻めちゃうけどね♪ ムチュー♪」
「ちょ!? ふーちゃん!?」
「「「甘えん坊アウト!」」」
唇を尖らせてアタックしてきたふーちゃんを、3人が息ピッタリな連携で阻止してくれた。
そのまま余計な動きをさせまいと、拘束されたふーちゃんを横目に、しゅーちゃんが口を開いた。
「洋さん。今回の木林森イブさんとの略奪戦なんだけど、私も同行させてくれないか」
「あー! 抜け駆けズルいよ! しゅーちゃん!」
「秋子ちんってほとんどゲームしないよねん?」
「見学席から応援じゃダメなんですか?」
「ゲームだけに焦点を当てたら、桜の言う通り応援一択だ。でも、今回はVRAを使った何かだ。運動神経ならこの場にいる誰よりも優れてる」
しゅーちゃんの両親が大手ジム経営と、スポーツ用品店の社長さんのなのもあって、休日は義刃姉妹と一緒にインストラクターとしても手伝ってるんだ。
それに一つ一つ努力を積み重ねて、東海高校でトップの成績を誇る努力家なしゅーちゃんだ。
今までゲームに触れて来てなくても、僕らが教えれば順応出来る筈だ。
「ゲームは土曜日までに出来る限りの事をする。それに、好きな人の為に動きたいんだ。それじゃあダメか?」
腹を決めたしゅーちゃんの決心は、僕を納得させるには充分だった。
「分かったよ、しゅーちゃん。そうと決まれば、色んなジャンルゲームを把握しておかないとだね」
「洋さん……」
「むぅ……今回はしゅーちゃんに譲ってあげるけど、次は私だからね!」
「何を言ってるよん。次はワタシだよん」
「私はいつでもいいですよ」
「ふふふ、仲良いのはいいけど夜更かしはダメよ」
極度のゲーム酔いな姉さんが、リビングテーブルに移動してると、僕のスマホから着信音が鳴り響いた。
画面の名前は話題に上がってる、イヴさんだった。
「皆。イブさんから電話だけど、大丈夫?」
コクリと頷いてくれた皆が耳を傾け、電話を繋いだ。
「もしも」
《洋! オレだ!》
「い、イブさん。声が近いよ」
《すまんすまん! ナハハハハ! ビデオ通話に切り替えるぜ!》
「うん」
直前まで身体を動かしてただろう肌が艶めいたスポーツウェア姿のイヴさん。
引き締まりながらも女性らしらを良い所取りしてる、抜群のプロポーションは、軽く見惚れてしまう程だ。
《お? どこぞの馬の骨な美少女が4人いるじゃねぇか! オレって女がいるのに、そいつら誰なんだよ!》
「い、今から説明するから話をわぁ!?」
説明不要と言った具合に、強引に画面前へと移動して来たしゅーちゃん。
ちょこんと僕の前に座り、姿勢を正し言葉を放った。
「木林森イブさん。自己紹介が遅れましたが、私は市瀬秋子と言います。洋さんの幼馴染で、花嫁候補の1人です」
《は、はぁああああああ!? お、幼馴染!? 花嫁候補?! 意味分からねぇよ!?》
強烈で容赦のない自己紹介で、頭をわしゃわしゃ掻き乱すほど、猛烈に僕としゅーちゃん達の関係性を否定するイヴさん。
そんな姿にピンと閃いたふーちゃんも、画面前に身を乗り出して矢継ぎ早に口を開いた。
「やっほーイブちゃーん♪ 兼森吹雪ちゃんでーす♪ よー君の幼馴染で、花嫁候補の1人だよー♪ ちなみに一つ上だから年上のお姉さんでーす♪」
《はぁ!?》
ふーちゃんの追い打ちで、青筋浮かべて歯をギリギリ鳴らすイブさんは、獲物を今すぐにでも食らいつきそうな猛獣そのものだ。
普通なら冷静にさせる場面でも、ライバルと認めた幼馴染は止まらず、今度はひーちゃんが画面前に身を乗り出した。
「北坂向日葵だよん。洋ちんの幼馴染で花嫁候補の1人だけろ。そして前の2人とワタシともう1人は、東海高校四大美女でもあるよん」
《なぁ!?》
スマホが今にも壊れそうな程、近距離で画面を握り締めてるイブさんは、もう冷静さを失ってる。
些細な発言でも怒り爆発するんじゃないか内心ヒヤヒヤなまま、オオトリのさーちゃんがビシッとやる気満々で画面前に座り、僕は静かに息を呑んだ。
「榮倉桜です! 洋ちゃんと幼馴染で稲荷漬けの1人です!えっと、あっと……ハッ! 沢山食べられます!」
《お、おぅ》
「あ、あれ!? 今までの反応と違いませんか?!」
ギャフンと言わせたかったのに、天然性格で思い通り行かなかったさーちゃんは、軽く涙目だった。




