2話 明かす詰み体質
晴れて愛実さんと付き合える事になり、水族館デートを続けてる。
一つ一つの仕草に毎秒ときめき、声の一音一音に心揺らされ、付き合う前よりも何倍何十倍、数字じゃ決して言い表せない気持ちで溢れてるんだ。
前にはなかった恋人フィルターで、愛実さんがそう見えてるのだとすれば、ずっとこれからも色褪せさせない。
有意義な時間ほど早く時間が過ぎ、気付けばデートから2時間も経っていた。
なんだかんだで朝から移動やらで動きっぱなしなんだ。
館内にカフェテラスがあったから、お昼時前の今なら空いてる筈だ。
「愛実さん、カフェテラスで休憩しない?」
「お? 私も言おうとしたところだった♪ やっぱ相性バッチじゃね?」
「う、うん」
「にしし♪ したら善は急げだ!」
「わっ?!」
腕をギュッと絡め、人混みを素早く抜け、あっという間にカフェテラスに到着。
予想通りオープンしたてで、自由な席でいいと言われ、海が1番見えるテラス席を選んだ。
「カップル限定アクアソーダアイスだって! 頼んじゃおっか!」
「いいね。シャチマカロンも美味しそう」
「迷ったら頼むっしょ! すみませーん!」
今まで通り、頼ってばかりじゃいられない。
もっと頼られたいし、頼って欲しいんだ。
注文後の待ち時間、ふとした会話の間が生まても、シーズンオフの静かな海から、秋を告げる大人しい波音が聞こえ、僅かな間も自然と埋めてくれてる。
「来年……来年は2人で海に行こうな」
「再来年もその先もずっと、僕は行きたいかな」
「も、もう……そ、そん時には、さ、3人とか4人とかに増えてるかもじゃん……」
「増え……あ……それって、つまり……」
「ま、まずは大人になってからな! な!」
「だ、だね!」
少し先の将来も想い描いてくれて、胸が一杯だ。
愛実さんとの将来をもっと大事にしたい。
だからこそ、今まで言えずじまいだった、あらゆる場面で異性に囲まれる詰み体質であると、今こそ打ち明けるんだ。
「愛実さん。いきなりだけど大事な話があるんだ」
「む! 聞く姿勢整いました!」
「ありがとう」
ありのまま詰み体質のこと説明し、愛実さんは真っ直ぐな瞳で真剣に、最後まで話を聞いてくれた。
「言われてみれば……周りの席、女の子ばっかだな」
「どんなに避けても、必ずやって来るんだ」
「ほほーん……異性なら私も対象って事だよな?」
「うん。愛実さんも詰み要素として、無自覚で僕に近付いてきてたんだ」
もし詰み体質に嫌気が差して、付き合うのも無しになっても、愛実さんの気持ちを尊重したいから、悔しいけど受け止めるつもりだ。
「だとしたら、その詰み体質がまた、私達をこうして出会わせてくれたんじゃん? 私からしたら、むしろ感謝なんだけど!」
後ろ向きだった捉え方が、前向きになれる。
自分にはないポジティブさを含めて好きになったんだ。
「もち私に限らずさ、詰み体質で出会った沢山の女の子達も、洋に会えて絶対良かった筈だし! ほら、峰子師匠だったり、六っちゃん、カスミン、竹つん達、生徒会の人達、それに……」
関わってきた異性の名前をどんどん上げ、出会った頃や今までの事を振り返っても、皆いい人で、いい思い出ばかりだ。
1人で悩んで抱えて来た詰み体質は、結局僕の捉え方に過ぎない。
愛実さんのお陰で、僕の捉え方も完全に変われた。
もう詰み体質も怖くない、むしろ今は誇れてる。
「大和ちゃんだろ? あと里夜っぺ先生! あとはなー?」
「愛実さん」
「ん?」
「愛実さんに打ち明けて、やっと詰み体質で良かったって思えたよ」
「お? そうなんか? どういたしまして! にひひ♪」
愛実さんの影響で、見えてた世界がもっと広がるんだって、分かったんだ。
本当に何から何まで感服だ。
詰み体質も打ち明けたとなれば、次にやるのは僕らの事だ。
「そういえば、僕らを知ってる人に、付き合ってるってのを連絡した方がいいよね」
「そん事だけどさ、もう皆に連絡しちゃってる♪」
「は、早!?」
「にひひ♪ つい先走っちゃった♪ 許して♪」
「か、可愛い……でも、早い内に報告はしておきたかったから、ありがとう」
「いえいえ、なんせ君の彼女なので♪」
少し茶目っ気な一面も、良い風向きになってくれる。
楽しい未来が待ってるんだと、何も心配はないよと、心強く背中を押してくれてる。
心に余裕が生まれたのもあって、周りの声がBGMみたいに聞こえ始めた。
どれだけ周りに異性がいようとも、詰み体質を誇れている今はもう、若い男女2人の何気ない日常の一部でしかないんだ。
「てか、お昼どうする?」
「折角の遠出だし、近くの美味しいお店調べてみよっか」
「さんせーい♪ どこがいいかなー? ふんふふーん♪」
一緒に探す時間も、あれもこれもいいと迷うやり取りも、全部が楽しく思えてると、2人の聞き覚えのある声が近付いてた。
「瓦子さんと積木君、やっと付き合ったんだね」
「律儀にお知らせしなくても、2人は付き合ってるも同然な関係でしたよ」
「そうだね。でも、本当にめでたいね」
「おめでたいのは別として、クラス内の風紀を乱す様なら、容赦無くお叱りしま……」
「夕季さん? どうし……あ」
クラスメイトのクラス委員長でもある神流崎夕季さんと、数少ない男子のクラスメイト
緑岡犬次郎君と、偶然にも鉢合わせした。
「ん?、なした洋? ……って、委員長に緑岡君じゃん! 奇遇だな!」
「お、お付き合い始めたんでしたよね、お、おめでとうございます。で、デートのお邪魔ですよね? け、犬次郎君、別の場所に移動しま」
「ま、待って夕季さん」
手を握り止めた緑岡君に、ボッと顔を赤くする神流崎さんは、しおらしく緑岡君の隣に立ち戻った。
2人から溢れ出てる幸せ雰囲気は、まさに僕らと同じものだ。
「じ、実は昨日から僕らも、付き合い始めたんだ!」
「本当! やったね緑岡君! おめでとう!」
「マジか! てか昨日って事は、1日先輩か! おめでとう!」
「ななななんで言っちゃうんですか!? 休み明けにお知らせするって、言ってたじゃないですか!?」
「ふ、2人には言っておきたくて……ご、ごめんなさい」
2人が両思いだと知ってたからこそ、目の前のやり取りをほっこりと眺められた。