26話 招待券とゲスト
コスイベ明けの平日。
通学車両内で千佳さん達から、何かのチケットを手渡された。
「西女祭招待券、今週の日曜日だから来てね」
「これが……宵絵さんにも聞きました。今時期になると招待券争奪戦が勃発する、危険物だって」
西女生徒会長3年、水無月宵絵さんもまた、千佳さんや芽白さんと同じ、最近幼馴染だと分かり、ずっと僕の事を想ってくれてる1人だ。
そんな宵絵さんは毎朝恒例のモーニングコールで、招待券について話してくれたんだ。
招待券は入場券となり、男は5枚、女性は1枚ないと一切の入場を禁じられてる。
人気故に売買された過去があり、今では規制が厳しく、徹底的に取り締まってるそうだ。
「だね〜ふつー女子の花園に入れないもん〜禁域禁域〜」
「洋くんは入ったけどね」
「マジかーむっつりだなー洋はー」
「全部呉橋さんの原因ですから」
「そん時に、夏洋初お披露目だっけか? お、これこれ! 見てみ! カスミン!」
「初々しいこったー他のも見せろー」
「み、見せないでいいから愛実さん!」
「そう言われると意地悪したくなっちゃうじゃん♪」
「私のも見せたあげるね」
「千佳さんも!?」
夏洋の初々しい黒歴史画像に、キャッキャ嬉しそうに共有する女性陣を、ただただ見届けるしかなかった。
♢♢♢♢
教室に入って早々、赤鳥君に肩を組まれ耳打ちされた。
「西女祭招待券持ってるなら、1枚下さい……何でもしますんで……いでぇ?!」
「洋に群がんな! クソドリ!」
「何すんだ瓦子テメェ?! 5枚集める苦労も知らんクセに!」
「知らん!」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。実はもう5枚手に入る予定なんだ」
「それを先に言えよ!」
もう5枚は宵絵さんが、わざわざ郵送してくれるんだ。
それを聞いた赤鳥君は、納得してくれた。
「1枚でいいからよ、届いたらくれよな。勿論タダじゃねぇからさ」
「うん」
「いいのか洋? コイツが西女に来たら、最悪お縄になるかもだぞ?」
「ならんし、何もしねぇよ!」
「どうだか!」
冗談抜きに些細な行動一つで、一発アウトだってあり得るんだ。
赤鳥君とは一緒に行動した方が、いいのかもしれない。
自分達の席に着くと、峰子さんにもさっきの話が聞こえてたみたいだった。
「洋達も西女祭に行くんだな」
「峰子師匠はランパッパがいるもんな!」
「ランパッパって誰だよー」
「え? 蘭華だけど?」
峰子さんの双子の妹、義刃蘭華さんは、西女で峰子さんを布教してる、峰子さん溺愛者だ。
「六っちゃんも行くだろ?」
「峰子からさっき貰ったからな。で、残り3枚どうすんだ?」
「既に渡したぞ。大地に太、大海に1枚ずつな」
緑岡君は神流崎さんがいるから、丁度良かったのかもしれない。
「したら、西女近くで待ち合わせして、皆で一緒に回ろうな!」
「いいのか? 2人で回ってもいいんだぞ?」
「ぶっちゃけ洋の周りを固めとかんと、西女生徒にあれやこれやされそうでさ、その防衛策ってとこ! ダメ……か?」
「肉壁になんだろ? まぁ、面白そうでいいんじゃね?」
「洋は人気者だからな。変な虫に寄り付かれるのは頂けないな」
「良かったなーてか、愛実とずっと恋人繋ぎしとけば、良くないかー?」
「してても寄ってくるのがいるんだわ。明日久先輩とかの翻弄系女子は特にな」
「「「あぁー」」」
西女生徒会役員の1人、2年黒木馬明日久さんには会う度に翻弄され、詰み体質上でも手強い相手だ。
「愛実さんの言う通り、皆に迷惑掛けるかもですけど、それでも回ってくれますか?」
「あぁ、一緒に楽しもうじゃないか」
「はいはい、迷惑上等だ。だからいちいち、かしこまんな」
「まぁーそん時はそん時で、楽しむ事優先だなー」
「皆ありがとな!」
「ありがとうございます!」
きっと何かしら起きると覚悟しつつ、当日まで待ち遠しくもある僕らだった。
♢♢♢♢
放課後、最寄り駅のホームを出ると、不意に手を握られ、声を掛けられた。
「おっと。約束通り届けに来たぞ、洋君」
「よ、宵絵さん? 郵送じゃ?」
「宵絵配達員だ。ふふふ、少し直接話したいことがあってな」
近場のベンチに腰掛け、ピッタリ触れ合う密着感で、宵絵さんは口を開いた。
「今朝も話した招待券争奪戦なんだが、今年は荒れに荒れてる」
「も、もうですか?」
「あぁ。毎年、旬な著名人をゲストとして招いてるんだが、今年はゲスト自ら出演依頼して来たんだ」
「つまり争奪戦も、そのゲストが要因だと?」
「その通りだ。『グラビア界の超新星』灘梨紅、君がよく知る人物だ」
七人女神の2人目、灘梨紅さんが早くも仕掛けて来た。




