24話 性別とペア
全ての呪文詠唱付き注文をこなし、小休憩を挟んでると、最上川さんからとんでもない一言が飛んで来た。
「え、この格好で出るんじゃ?!」
「メイド服は単なる、わちの趣味。お陰で世界がまだまだ広いと知れたよ。感謝感謝」
「……ちゃんと聞かなかった僕も悪いですけど、本番は女装じゃないですよね」
「大丈夫。やって貰うのはラノベ原作の『双子勇者イチとニイ』。もるにゃーさんが男装する」
「ホッ……」
王座奪還狙いの為、とびっきりのコスプレが用意されてると思い、割と無難な所に着地していて安心した。
「で、積木洋くんはこのキャラになって貰う」
「ん? び、ビキニアーマー姿ですよね?! これ?!」
「そだよ。主人公の仲間で人気キャラ」
「それでこそ、もるにゃーさんが相応しいです!」
「それだと王座奪還は無理。必要なのは性別の垣根を超えた意外性。それしか奪還の勝呂はない」
至って本気な眼をされたら、反論も言い辛くなる。
「で、剃っとくでしょ?」
「……や、やりますよ! けど、金輪際女装は無しですからね!」
「キャラもそんな感じだから、よろしく」
T字カミソリとシェイビングクリームをお供に、顔から下の除毛作業に黙々と勤しんだ。
♢♢♢♢
本番30分前、数十組のコスペアと控え室で待機してる。
美神ペアを中心に人集りが生まれ、その人気さを物語ってる。
「よーみゃん♪ 緊張してる?」
「恥ずかしさが勝ってるんで、大丈夫ではないですけど大丈夫です」
「んー♪ こう考えたらどうかな? 今日さえ乗り切れば、今後怖いもの無しになれるって♪」
「あーそれ良いかもです」
銀髪イケメン勇者のもるにゃーさんと、ピンクビキニアーマー姿の僕に、キャッキャ喜んでる他のコスペアさんもいるのは、ちょっと気にはなる。
そんな個性豊かなコスペアは、それぞれ時間を潰していた。
「おい、右腕。いつ始まるんだ」
「30分ですって。1分前にも聞いてましたよね?」
「知らん。こうなれば私1人で今出てやる」
「ルールは守りましょうよ!? 勇者様!?」
真紅の双角を生やす美人女勇者さんと、大柄で物腰低い双角を生やす肌が青い男の人との、主従関係まで成り切ってるペア。
「ふっふっふ! 私の悪魔姿で全員イチコロの優勝よ!」
「副賞の温泉旅行の方が良くない? 貸切り露天風呂だってあるし」
「貸切り……い、いっぱいしてくれるなら、そっちで」
「サリーさんが可愛すぎる!」
露出が多い悪魔コスの銀髪美人さんと、目隠れ天使コスのイケメンさんの、天使と悪魔のお似合いペア。
特に目立つ2組も、恐らく王座奪還戦のライバルになる。
「よ、いいビキニっぷりじゃん」
「本物の女の子みたいだね! フンフン!」
「お二人もお似合いですね。天狗とがしゃどくろの擬人化?でしたっけ」
「おうよ。妖人っつう、漫画原作のな」
「後輩の子が作ってくれたんだよ! 毎回毎回凄いクオリティーでビックリしちゃうよ!」
がしゃどくろコスの怜さんは、無数の髑髏に纏われたような、骨々しさと際どい露出を取り入れた、アートに近いデザインだ。
天狗コスの奈南さんは、赤ベースに白模様をあしらった軽和装で、羽や扇などの装飾や小道具付きだ。
「なーにゃんは今回露出してないんだね♪」
「前ん時、過度な露出で挑んだらよ、観客、審査員、出場者が軒並み興奮して失神しちまってよ、イベが中止よ」
「だから露出は自粛してるの!」
もしかすると、最上川さんはこの事を知った上で、王座奪還を企てたのかもしれない。
「てか、つるっつるになってんな」
「え? あ、まぁ、見えちゃあれなんで、剃りましたよ」
「えぇ!? 大胆過ぎるよ?!」
「ご苦労なこった。こちとら絆創膏一枚貼っちまえばいい、天然のパイんっぐ?!」
「それ以上はお口チャックでーす♪」
ほぼほぼセクハラな発言も、ビキニアーマーを身に纏ってる僕は、何とも思っていなかった。




