23話美神ナナ・レイ
接客から早数十分、誰しもが視線を奪われる女性2人が来店し、もるにゃーさんが親し気に対応していた。
「おかえりなさいませ♪ れったや♪ なーにゃん♪」
「たーま。よっしー部長いる?」
「ねぇ、いつまで部長さんって呼ぶの? 卒業して数年経つんだよ? まぷっ!?」
「顔近付けんでも聞こえるわ、アホ」
「よっしーさんなら来てるよ♪」
「お二人とも! こちらですぞ!」
「お疲れっす。おら、行くぞ」
「ぷりゃん!? も、もう! 頬っぺた掴まないでよ!」
ハーフっぽいクールな小柄な黒髪美少女。
動きの一つ一つが大人フェロモン爆発する、グラマラスな黒髪美女。
身長差は優に20cm以上、嫌でも美神ペアと姿が重なってる。
「よーみゃん。あれがナナ・レイだ」
「うぉ?! 急に現れないで下さい! 最上川さん!」
「んな事より、接客ついでに敵情視察してきな」
「お、押さないでってば?!」
見かけによらず力のある押しに、よっしーさんのテーブルまで強制移動させられた。
「ん? 新顔じゃん」
「美人さんだね! 凄く若そうだけど、学生さんって大丈夫なの?」
「バイト許可があれば大丈夫ですぞ! そして、こちらの素晴らしきニューフェイスこそ、先程お知らせした、よーみゃんさんですぞ!」
「へぇー……ちょっくらスカートん中見せあだっ!?」
躊躇なくスカートを捲く立てようとされて、本能的に頭目掛けてチョップが出てしまった。
「す、すみません!? つ、つい!」
「よ、よーみゃんちゃん大丈夫?! 怜が悪いんだからね!」
「んだよ。本物の女装野郎か、確認すんだけだったんだぞ」
「いやはや! いつになっても、お2人の仲が健全でなによりですぞ!」
「な、何なんだこの人達は……」
まるで3人だけ別世界から来たような、そんな気持ちにさせられていた。
♢♢♢♢
「柳家怜。日本生まれ日本育ちのクォーター、26ちゃい」
「古賀峰奈南だよ! 怜と同じ歳で親友です!」
「当時大学の同好会で部長を就いておりました、吉田と申します! 28歳ですぞ!」
間近に接する事で尚分かる、美神ペアの常人ならざるオーラに、身体を緊張させるには充分だった。
「こ、高校1年の積木です。皆さんが今日秋葉っぱらに来たのは、コスイベの為ですか?」
「まぁな。優勝賞品も賞金もウマウマだし、コスイベに出る度コス需要が爆伸びしたり、元ネタが爆売れしたり、オタク経済に多大な影響と貢献をしてるんだとさ」
「もう怜と一緒だとコス尽くしだよ!」
「毎度毎度コスイベ情報仕入れて、前のめりで持ち掛けてくんのはどっちだよ」
「わ、私です……えへへ」
影響力も認知度も王座に相応しい器だ。
そんな美神ペアから王座奪還なんて、本当に出来るんだろうか。
「ところで、後ろにいるの誰だ?」
「へ? わっ?! 最上川さん!」
「よーみゃんと同じ高校の1年最上川です。今日は美神ナナ・レイから王座奪還しに来ました。よーみゃんと、もるにゃーさんが」
「堂々とご本人様達の前で言うじゃん」
「残念だけど無理だと思うよ?」
挑戦者は大人しく指を咥え、王座を見上げ続ければいい。
オーラだけで屈させる気満々だ。
「分かりませぬぞ! よーみゃん殿の本番コスプレ次第では、王座奪還も無きにしも非ずですぞ!」
「よっしーさんの言う通りだよ♪ れったや♪ なーにゃん♪ 余裕でいられるのも、今の内だよ♪」
「もるにゃー、てめぇ……って、プリン!」
「よっしーさんの注文した、デラックスにゃんだふるプリン・にゃんにゃん呪文詠唱付き・スペシャルエディションバージョンです♪ ご指名の私とよーみゃんちゃんが、愛情込めて呪文詠唱しちゃうぞ♪」
「流石よっしー部長! 最高っす!」
「お安いご用ですぞ!」
軽く打ち合わせした通り、もるにゃーさんと恋人握りで、振り付けと台詞が始まった。
「ときめきラブリー♪ にゃんだふる♪ ご主人様にアイラブにゃー♪」
「にゃーですぞ!」
「にゃー」
「こ、恋して愛してキュンキュン大好き沢山あげちゃうにゃん!」
「にゃんですぞー!」
「にゃーん」
「にゃんと素敵な今日だけ特別♪ あーんをプレゼント♪」
「お、お口を開けてくれないと、にゃいちゃうにゃー」
「準備万端ですぞぉおおお! さぁ! 怜殿のお口へ!」
「あーん」
「もぐもぐにゃんにゃん♪ もっと食べて欲しいにゃん♪」
「あーむ。うまぁー!」
あーんで全てのプリンを食べさせ、ひと息つく間もなく、同じ注文をしているお客さん数十人にも、同じ光景が繰り広げられた。




