22話 メイド服と接客
ライラさんの略奪防衛から数日後の土曜日。
残りの七人女神は動かず、平穏な日常を送っていた。
とある女子生徒の約束さえなければ。
「わちの目に狂いはなかった、積木洋くん。いや、よーみゃん」
「……最上川さん……こんな格好するなんて聞いてないです!」
「言ったら断るでしょ。しかし、猫耳メイド服の似合う男子は素晴らしい」
彼女は北高1-Dの最上川琥珀さん。
球技大会クラスリーダーで、クセになる声の持ち主だ。
そんな最上川さんとの約束で、オタクの聖地『秋葉っぱら』にて、猫耳メイドカフェ『にゃんだふる』で猫耳クラシカルロングメイド服に着替えさせられた。
「で、本題に入ろうか」
「こ、これ以上何かあるんですか」
「当たり前でしょ。まず、今日開催されるイベント『秋葉っぱら究極ペアコスプレイベントinオータム』に出る。もうエントリー済み」
大衆の面前でのお披露目に、魂が抜け出しそうだ。
「優勝狙いは勿論、近年コス大会を総なめしてる美神ペア、ナナ・レイの王座陥落が一番の狙い」
「誰ですか、その美神ペアは」
「これを見たまえ」
スマホ画面に映る、峰子さん以上のグラマラスな美人エルフ、二次元から飛び出した華奢なダークエルフ美少女。
身長差は優に20cm以上、周りのカメラマンも数十人と、カリスマ性と人気を物語ってる。
「ペアイベントって言ってましたけど、最上川さんもコスプレするんですよね」
「わちはプロデュース側。相方はここの花形、『もるにゃーさん』だ」
「よろしくにゃん♪ よーみゃん♪ イベントまで時間がまだあるので、コス慣れ時間として接客しちゃおう♪」
「イヤです!」
「おっほ、その調子で接客しちゃおうか、よーみゃん」
傀儡を見繕ってる以上、どうこうしても無駄なんだと、スカートをギュッとするしか出来なかった。
♢♢♢♢
軽く接客ノウハウを学び、開店時間ピッタリに来てくれてお客さんに、早速接客の挨拶をした。
「お、おかえりなさいませご主人様、にゃ、にゃんにゃん」
「ほっふっす! これはまた、素晴らしきニューフェイスですな!」
「おかえりなさいませ♪ よっしーさん♪ 本日限定のスタッフよーみゃんちゃんです♪」
「よ、よーみゃんです」
「そうでしたか! 初々しさも新鮮で良きですなぁ! よーみゃん殿、本日はよろしくですぞ!」
優しい気さくな眼鏡のお兄さんに続き、続々と来店するお客さんに挨拶を交わし、ものの数分で満席状態になってた。
「皆笑顔になれる良い挨拶だったよ♪ このまま接客も行っちゃおう♪」
「お、押さないで下さい!?」
もるにゃーさんの強制移動で、よっしーさんのテーブルに連れたこられた。
「ご、ご注文はお決まりでしょうか」
「では、デラックスにゃんだふるプリン・にゃんにゃん呪文詠唱付き・スペシャルエディションバージョンをお願いしますぞ!」
「あ、スペシャルエディションバージョンだと、呪文詠唱のスタッフを2名指名出来ますが、誰にしますか」
「もるにゃー殿と、折角の機会ですので、よーみゃん殿で!」
「あ、あの……ここだけの話、自分男なんですけど、それでも指名します?」
「お、男ですとぉおおおお?!」
「わっ?!」
あまりの大声量で、店内の視線が一点集中してしまってる。
「す、すみませぬ! あまりにも唐突なカミングアウトだったもので!」
「こ、こちらこそ、いきなりごめんなさい。言っておかないと、その、お値段の方もしますし、女装を毛嫌いする人もいるんで……」
「しがない一客でしかない拙者の為に、ここまで明かして下さるとは、感謝感激の極みですぞ! 是非とも、よーみゃん殿でお願いしますぞ!」
よっしーさんの気持ちが同調したのか、僕も私もと次々に同じ注文をするお客さん達。
そんな様子を最上川さんは、スタッフルーム扉の隙間から、後方腕組みをする人になっていた。




