21話 期待と生徒会長
周りの期待に応え続け、反動でズボラが生まれた事を話してくれたライラさんは、表情が柔らかく自然になっていた。
「長々とすみませんでしたが、本来のワタシはそういった人間なんです」
「ライラの気持ち、めっっちゃ分かる! 私も誰かしらの期待背負っての陸上だったからさ、こんなの自分らしくないって誰にも言えなかったんだ」
「瓦子さんも?」
「そうそう。でも、誰かの期待ってわざわざ背負うものなのか、って、洋が言ってくれてさ、やっと期待を背負わない決意が出来たんだ」
「改めて言われると、なんか恥ずかしくなってくる……」
「アハハ! だからさ、もしライラが困ったり悩んでたりしてたら、遠慮なく私達に話してくれ! 今度は友達としてさ!」
握手を求める愛実さんに、ライラさんも心を決めたのか、そっと手を握っていた。
「……完敗です……瓦子さん、洋さん。今度こそ、心から祝福をさ」
「んなお堅いのはいいの! よろしくなライラ!」
「ライラさん。これからもよろしくね」
「……はい!」
七人女神の1人にして、『学問の若女神』と呼ばれる満欠月ライラさんの略奪を乗り越えられた。
今回は生徒会の皆さんの支えがあったから、短期戦で終えられたんだ。
残り6人との略奪戦は、今回みたいに上手く行くとは限らない。
「ほんじゃ、一件落着?したとこんで、親交会を楽しもうぜぇい!」
「ライライのオススメ甘味を全部頼んじゃいましょうか♪」
「ま、マジんこ?! ひーふーみーよー……お、おかにぇ足りるかにゃ……」
「星さん……私達も出しますから」
「あんま興味そそられる奇抜な組み合わせはないっすね……」
「裏メニューに沙良先輩さん好みの、チャレンジ精神ものがあります」
「もう店員さん呼んじゃった!」
呉橋さんのユーモアや生徒会の前向きな姿に、空気が重くならず、自然と笑みが溢れていた。
「洋さん、愛実さん。状況的とても言い難いんですが、是非お耳に入れて頂きたい事があります」
「うん」
「お? なんだ?」
「今日この場の状況は全て、アリア達に筒抜けてます」
「「え」」
タイミングを見計らったように、僕のスマホから着信が鳴り、相手はアリアさんだった。
「も、もしもし」
《やぁ洋君。スピーカーにしてくれるか》
「うん」
《ありがとう。ライラの略奪を防衛できたみたいだな》
「どこかで見てるの?」
《事前に君らのいる部屋に、最新高解像度極小カメラを10台セッティングしている。今日も洋君の姿を見られ、眼福の極みだ》
「隠し撮りかよ!」
それらしい場所に視線を向けると、キラッと一瞬レンズが光り、呉橋さん達はカメラ探しに夢中に。
《店主の許可は下りてる、何ら問題ないぞ愛実ちゃん。ライラ聞こえてるか》
「ハッキリと聞こえます」
《ライラ。君はもう少し頭を使うと思ったんだが、あっさりと負けを認めてしまったな。正直期待外れだ》
「えぇ。しかし悔いはないです」
《そうか。私達は君の二の舞のならないように尽力しよう。では、洋君、愛実ちゃん。次の略奪を楽しみにしててくれ》
「あ、切れた……」
「アリアの奴! 何が期待外れだ! 今度会ったらケツ引っ叩いてやる! フンフン!」
渾身の素振りで憤りを露わにする愛実さん。
期待に応えてきた境遇もあってか、自分の代わりに怒ってくれてる愛実さんに、ライラさんは嬉しそうだった。
♢♢♢♢
甘味に溢れた親交会も、お開きの時間になり、呉橋さんの一言で締め括ることに。
「んだら、新生徒会の諸君! 北高を任せたぞい! 以上!」
「もう少しあった方がいいんじゃない? 星ちゃん」
「えー? こういうの苦手なのにぃー。したらば、芽白!」
「は、はい!」
「引っ込み思案に負けずに、皆を引っ張っていきな! 芽白なら大丈夫! 次! 沙良!」
「はいっす!」
「誰にも振り回されない強みで、皆を守ってやんな! 沙良なら出来る! 次! 千沙!」
「はいです」
「1人で何でもできる強みで、皆に寄り添ってやりな! 千沙なら平気! 次! 瑠衣!」
「はい♪」
「誰からも愛される人柄で、皆を笑顔にさせてやんな! 瑠衣ならやれる! 最後! ライラちゃん!」
「わ、ワタシですか?」
「期待に応えるよりもまず、自分を大切に! 期待は誰でもしたりされたりするけど、ライラちゃん1人しかいなんだからさ。これで満足かぇ、萌乃よ」
「百点満点あげちゃう!」
「良かったですよ! 呉橋会長! ヒューヒュー!」
「最後に会長らしい姿を見られて良かったです」
「おい洋君!? 2年間年中無休で生徒会長やってたわい?!」
最後の最後までブレない呉橋さんが、北高の生徒会長で良かったと、心の中で感謝した。




