9話 再会
お昼ご飯を挟みつつ中学時代の話、七人女神の話を終えた。
「成程なぁ……とりま、近い内に、七人女神と再会すんだな?」
「うん。愛実さんが巻き込まれないよう、頑張るから!」
「何言ってんだ? 巻き込まれ上等! 洋と一緒に乗り越えるって、腹括ったし大丈V!」
「愛実さん……ありがとう」
「にひひ♪」
心強い味方が傍にいる。
もう僕1人の問題じゃないんだ。
手を重ねてくれる愛実さんのお陰で、後退りせずに向き合える。
「お取り込み中ごめん……悪いニュースが入って来た……」
「悪いニュース? 一体何なんだ、しららん」
「アリア、昨日から日本に帰って来てるって……」
「え!?」
「事前連絡無しかい!」
半年間一度も連絡を取らずとも、アリアさんの女優活動伝いで、何をしていたのかは大まかに把握している。
近況だと映画撮影で多忙な日々を送ってると、ニュースに取り上げられてた。
まさか帰って来てるとは思わなかった。
「きょ、今日の午後、サプライズで会いに行く予定だったみたい……積木君に……」
「午後って……もうなってんじゃん!?」
「白姫さん! 色々とありがとう! お会計お願い!」
「あ、あい」
慌ただしい退店のまま、早足で最寄り駅まで向かった。
「洋! こんまま私も家まで着いてくから!」
「うん! ちゃんとアリアさんに直接伝えないだもんね!」
「おう! ヤバ!? あと5分で出ちまう! ダッシュダッシュダッシュ!」
「早っ!? ま、待って愛実さん!? 脚がぁ?!」
不完全燃焼な初デートに文句一つ言わず、心身共に手を引いてくれる愛実さんは、本当に僕には勿体無い彼女だ。
♢♢♢♢
数時間振りの我が家は、玄関先から感じたことのないプレッシャーを放ってた。
「こん感じ、もう来てるな……」
「うん……行こう、愛実さ」
「誰か外に……あ、おかえりお兄ちゃ……へ? め、愛実さん?」
「空。詳しい事は後で話すけど、愛実さんと付き合う事になったから」
「お邪魔するね! 空ちゃん!」
「つつ付き合ってる? か、かのかかかののじょっじょって事ぉお!?」
バグった空の横を通り、玄関の赤いヒールが真っ先に入ってきた。
プレッシャーの元凶はリビングにいると、静かに扉を開けた。
艶やかな赤のストレートセミロング。
お手本の様な姿勢の良さ。
気品ある清楚な白タイトYシャツ。
そして肌身に響く圧倒的なオーラ。
七人女神の1人、乙夜街道アリアその人がソファーに座っていた。
「半年振りだな洋君」
「あ、アリアさん……」
「ほ、本物だ……生造形エグ……」
紅茶を飲む所作一つで、映画のワンシーンに見える、息を呑む美しさ。
画面越しとリアルとでは比べ物にならない。
「して、君の隣にいる彼女がそうなのかい」
「う、うん。彼女の瓦子愛実さん」
「か、瓦子愛実です! 洋の彼女です!」
ソファーから立ち、ゆっくりと歩み寄って来たアリアさん。
170越えの高身長、細身で抜群なスタイル、ハリウット級の美貌は、半年間の目覚ましい成長を遂げた証だった。
目の前に立たれ、同じ歳とは思えない大人な風体で、愛実さんの全身を見ていた。
「愛実ちゃん。君は洋君に何処まで本気になれる」
「ほ、本気ですか? ず、ずっと隣にいるつもりです!」
「なら、親しい友人関係でも変わらないだろう。君の本気は所詮、学生の恋人ごっこだ」
「だ、だったら! あ、アリアさんの本気はどうなんですか!」
「私は洋君に全てを捧げられる。そして洋君の全てを欲してる」
何一つ包み隠さない強欲の言葉を、臆せず堂々と言えてしまうアリアさん。
言葉の重みに負け、愛実さんの次の言葉が出てこない。
「ぐうの音も出ないか。確固たる意志のない者ほど、先が見えないんだ」
「ふぐぅ」
「違うよアリアさん」
「ほぉ」
「僕達のことは僕達が決めるんだ。だから、アリアさんには関係ないよ」
「よ、洋ぅ……」
離れないよう握り返す手こそ、僕らの確固たる意志。
反論が効いたのか、アリアさんが自分を抱き締め、息を荒立て始めた。
「あぁ……そ、そんな事を言われたら、ますます君が欲しくなるよ、洋君……」
ルビーにも勝る瞳を輝かせ、並大抵じゃない色香を出してる。
心が一瞬揺れ動かされても、愛実さんの手は決して離さない。
「あぁ洋君……君の家にお泊まりする今日が楽しみだ……」
「な、何いいいぃいいぃい!?」
「と、泊まるの?!」
「蒼さんと空ちゃんの許可は得てる。何ら問題ないだろう」
「私もアリアと久し振りに話したいもの」
「わ!? 姉さん!?」
「お、お邪魔してます!」
リビングに入って来た姉さんが、現状の積木家の最高責任者だ。
許可を得てる以上、何も言えない。
「残りの親友達も、夕飯時までには集うだろう」
「え」
「し、七人女神も!?」
我が家の一つ屋根の下で七人女神が集結、しかもお泊まり付き。
とんでもない詰み場の確定に、アリアさんが勝利の微笑みを浮かべてる。
「半年振りの再会に、積もる話もあるんだ。愛実ちゃんはそろそろ帰」
「わわわ私も泊まっていいですか?!」
「め、愛実さん!?」
「な」
「いいわよ。夕飯の腕が鳴るわね、ふふ」
七人女神と愛実さん、一触即発にならない事を願うしかない。