それは心配
なあ、トモゾウ、おれはノブの遠い親戚筋だから、あいつが親族関係でどれだけいやな思いしたかよく知ってる。 そんで、優しかったおばさんが亡くなって、それからおいかけるみたいに逝った、おじさんのでっかい遺産が入って・・・、まだ一人前として認めてもらえなかったノブが、ここまで、どうやっていろんなもん潜り抜けてきたかも、知ってるのはおれだけだ。 おれも、親族から『はみだしてる』種類だからさ。どういう扱い受けてるかすぐにわかったさ。でも、・・・ノブはおれと違って、すぐに他人を信用するからな。 あいつに今まですり寄ってきた金めあてのハエは、おれがかたはしから叩き落としてやった。今、売れない作家連中にあいつが金を出しはじめたきっかけは、その作家連中をまとめてるやつがおれの友達だったからさ。それもおれは反対だったんだが、へんなところで頑固で自信家なノブは、その連中にはだまされないって言い張ってさ。―― だから、こんな言い方はなんだが、金のからんでいない関係は、このおれだけだった。・・・ノブは何も悪くないが、あいつのそばには金に関心がある人間しか寄ってこない。 はじめはなくとも、いつのまにか『金』にしか反応しなくなるなんて、いつもの話だ。 ―― だからな、今度のこの、《ヒコイチ》って男も、そうじゃねえって保証はどこにある? ノブは絶対にいいひとだなんて決めてかかってるが、おれはどうも、信用できないんだなあ・・・
「――― 本当はご自分で確かめるのが一番なのでしょうが、サダトモさまはご友人に大切な用事で呼ばれ、北のほうへ旅立っていかれました。その間、そのヒコイチさまのことを調べておくようにといわれたのです」
「・・・それは、なんというか、・・・」
お坊ちゃまが、なんとも言えない顔でヒコイチをみあげた。
「・・・サダさんに悪気はないんです。ぼくが、・・・昔からお世話に、っていうか、頼って甘えている人なので、情けないぼくのことが、心配なのだと思います・・」
「―― そりゃ、当然だとは・・・」
もごもごと珍しくヒコイチはくちごもる。