心配になる
「はい。―― サダトモさまが、あたくしどもの里にいらっしゃり、里を発つときに、タヌキの和尚が『秘薬』をさしあげようとしたのは本当です。 ですが、実際にはサダトモさまはそれを受け取らず、代わりに、頼みたいことがあるとおっしゃいました。 ―― それは、サダトモさまのご親族であり、ご友人でもある、一条ノブタカさまにちかごろできたお知り合いの方が、本当にノブタカさまの思っている通りのかたなのかどうか、調べてほしいというものでした」
「ぼくの思ってる?思ってるもなにも、ヒコさんはこの通り、まんまの人だよ」
お坊ちゃまのそれに、カワウソは小さな前足をふった。
「サダトモさまはまだ一度も、じかにお会いしたことがないでしょう? ただ、ノブタカさまから届く手紙に、いつからかだんだんとその名前が何度も出るようになって、サダトモさまは心配なさったんですよ」
「え?ぼく、そんなにヒコさんのこと書いてたかなあ・・?」
「書いてますよ。あたくしも一度読ませていただきましたが。・・・どうやらヒコイチさまとお会いになってから、なかなかフシギなおはなしが多くなったようで」
「ああ、たしかに・・・」
「サダトモさまがおっしゃってましたよ。 こんなにノブが一人の人間と長く付き合ってるのは初めてだって。不思議なはなしのタネがふえたのもいいことだけど、もしかしたら全部この男がつくった嘘のはなしかもしれないし、口がうまいだけの男かもしれないって」
「・・・まあ、商売がら、たしかに口はたつけどな・・・」
しぶしぶというようにヒコイチは認める。
「サダトモさまがヒコイチさまを疑ったのには、わけがあるのです。サダトモさまが、ゆっくりとはなしてくださいました。――― 」