サダトモではなくトモゾウ
「な、なにがおかしいんだよ?胸が苦しいっていってんだ。早いとこ医者にみてもらわねえと」
「ないない。だっはっは。そんな必要ない」
笑いながらのその返事についに何かが切れたヒコイチが、腰にお坊ちゃまをひっつけたまま拳をにぎってふみだしたとき、サダトモの姿が一瞬で消える。
「っつ!?なんだあっ??」
サダトモが消えた椅子のうえ。
黒い何かが丸まっていた。
いや、よくみれば、黒い毛皮だ。
「・・・まさか・・・」
ヒコイチのつぶやきに、その毛皮が顔をあげた。
「 おはつにおめにかかります。じつはあたくし、二条のサダトモさまに頼まれ、サダトモさまのふりをして、おふたりを試すよう、いいつかわされてまいりました、カワウソのトモゾウと申します」
「・・・・・・しゃべった・・・」
「か、かわいい・・・」
その、ぬるりとしなやかな毛皮の主は、ケモノの口でしっかりと言葉を話す。
「・・・まあ、・・・乾物屋よりもいいわな」
「さすがヒコイチさま。慣れるのがはやい」
「あの、あの、じゃあ、はじめからずっと、サダさんではなく、トモゾウさんだった?」
「そうなのです、ノブタカさま。 ―― いや、さすがお噂の方々。普通の人間とは胆の太さがちがう。いや、さすがでございます。 サダトモさまの命とはいえ、おふたりをばかしてだましました。どうかお許しください」
ぺこりと頭をさげるケモノに、ヒコイチとお坊ちゃまはとにかく説明してくれと求めた。