特製まんじゅう
「もらった。それにもう試してもみたさ」
「ど、どういう秘薬で?どんな効能があるんです?」
「いつ効果が?人間でも使えたんですか?」
二人の矢継ぎ早な問いに、サダトモはにんまりとほほえんでみせ、懐に芝居がかったしぐさで手を入れた。
「―― これぞ。ケモノの隠れ里秘伝の秘伝。『コウガン』さ」
もったいぶってだされた香り袋のようなそれを顔の前に出された二人は、しばし無言でそれを見つめた。
「・・・あの、もしかして」
「ケモノのキンタ」
「ちがうっ!! おまえらが考えてる字とは異なるぞ。いいか?良い香りのする薬だから『香丸』と書くのさ」
疑うふたりの顔前で振られたその袋は、まさしく香り袋のように良いにおいをさせた。
へえ、と感心したヒコイチが、それで効能はなんですかい?と確認する。
いくら良いにおいをふりまこうとも、薬として驚くような効能がなければ『秘薬』ではないだろう。
ここでサダトモはその袋を懐へと戻してしまった。
「 ―― そのはなしの前に、なあ、ノブ。おれの土産のまんじゅう、―― うまかったかい?」
「はあ・・?まあ、おいしかったですよ。ちょっとニッキの味で変わってましたけど・・・」
お坊ちゃまの返答に、満足げにうなずく男が、そうだろうなあ、と腕をくむ。
「なにしろ、このおれの『特製まんじゅう』だからな」
「サダさんの?」
お坊ちゃまが首をかたむける様子に、いきなりヒコイチにひらめいたものがあった。
「さ・・サダトモさん・・・。あんた、まさか・・・」
ヒコイチのとまどった声に、サダトモはしっかりうなずく。
「せっかくなんで、まんじゅうにこの『秘薬』をまぜこんでみたのさ。 どうだい、ノブ? こんなことめったにないんだから、しっかりと楽しめよ」
「っさ、さ、サダさん!?本当なんですか!?」
「だって、『おもしろい』だろう?ケモノの秘薬の効能を自分で感じられるなんてさ」