ボロ寺
「―― とある山間の里で親切な坊さんに会ってな。 そこな寺で、おれはしばらくやっかいになることにした。 ところが当の寺がひどくボロくて。いつでもこんなのが出てきそうな感じよ」
サダトモは両手をだらりと前に垂らしてみせた。
おもわずヒコイチが、出たんですかい?と身をのりだす。
「 でねえよ、でなかった。 坊さんいわく、自分の供養がよくできてるからだっていう。 たしかに、ひどいボロ寺だけどな、汚くはないんだ。床はにぶく光るほどだし、墓石もどれもすっきりしてある。 坊さんだけでなく、小坊主や檀家の人がきれいにしてるのさ。 おれも世話になってる手前、それを手伝うことになったんだが、これがまあ本当に細かい仕事で感心したよ。―― みながみな、『先祖』を敬って、大事にする姿というものを、しっかりと感じたさ。 盆暮れなど関係なくだ。 ―― どうだ?いい里だろう?」
目を見て聞かれたヒコイチはうなずく。
「おれは、『先祖』どころか、『親』のゆくえもわからねえような人間なんで、寺があるってだけで、感心しまさ」
「・・・へえ、そうか・・。 ―― そりゃ、すまない」
こんなところで謝られ、ヒコイチはなんだかこまる。
「いや、べつに、」
「いやいや、これは失礼した。 おれはてっきり、どこかの田舎からとびだしてきた次男坊あたりなのかと」
「まあ、そんなもんです。で?その里がどうしました?」
なんだかヒコイチのほうが気をつかうことになってしまった。