第八話
「鶴姫様、婚約の儀にふさわしい肌のお手入れをすることができました。
お召し物をご用意致しました。」
寝床から起き上がった鶴姫は柔らかい布で綺麗に全身を拭かれた。下半身に茂みも小刀で見事に剃られている。
全身裸のまま、先ほどより更に入念に、顔から首には白粉を塗られ、唇には紅の化粧を施された。髪も姫君にふさわしい髪型に仕上げてもらい、簪ではなくティアラのようなアクセサリーを髪につけてもらった。
化粧が一段落したあと立ち上がった鶴姫に襦袢、小袖、打掛とまるで平安時代十二単衣の女貴族のように豪華な着物を女中たちは手際よく着せていった。
「鶴姫様、本当にお似合いでございます。」
女中たちが次々と称賛する。
鏡が無いのが残念だわ。
地味なアラサーOLから、これぞお姫様ファッションに大変身できたのに見られないなんて。
はなという幼い女中が女中頭に尋ねている。
「さよ様、婚約の儀とはどのようなものでございますか。」
「私が鶴姫様にお伝えしますから、お前も聞いておくように。」
女中頭のさよは、鶴姫に向って説明をし始めた。
「鶴姫様、婚約の儀は三日三晩の昼の午の刻から夜中の亥の刻までの間、続きます。途中お色直しで何回か席を立ちますのでその間にお食事や厠を済ませていただきます。夜中は経好様と閨は同じですが、夫婦の契りを結ぶことは禁止されております。
閨の横で女中が見張っておりますので、くれぐれも婚約の儀の間は契りを結ぶことが我慢してお待ちください。婚約の儀に契りを結びますと結婚の証を確認できなくなりますので婚約破棄になりますのでご注意ください。
肌と肌が触れ合い口吸いまでは大丈夫でございます。契りの行為は禁止でございます。
殿が我慢できない場合は女中が代わりに殿の処理をさせていただきます。
えっ、そんな。何としても経好様には我慢してもらうしかないわ。
契りの行為はどこまでならいいのかしら。
「鶴姫様、婚約の儀の間は殿の精に大量に触りますと穢れになりますゆえ、何かごあいましたら女中が処理させていただきますのでお呼びいただければと思います。殿の精を受け止める行為はすべて契りになりますゆえ、口吸い以外の性技は使用されませんようお願いします。
鶴姫様は巫女をされておりましたゆえ、神にお仕えするための性技をお持ちでしょうが結婚式までは我慢して頂きます。」
そうなの。キス以外に、私の手や口で殿のものに触れるのはダメなのね。
「婚約の儀は、一日目に、宝珠、二日目に宝勾玉、三日目に宝剣を置くための敷物がご用意されます。
その間は引退された父上様、殿の経好様、家来衆、近隣の市川家と親しい方たちが宴を開き、皆さまに殿の婚約者を周知するというのが婚約の儀の市川家のしきたりになっているそうでごいます。」
鶴姫は頷いた。私が声を出す必要はないようね。
女中頭は続けた。
「三日目の最後に、殿から『赤龍の印がはいった三種の神器を集めて改めて宴を開く。そして結婚の証を皆に披露し正室の姫君と結婚する。』と宣言されて、婚約の儀は終了いたします。」
なるほどね。赤龍の三種の神器が結婚の証というわけね。
「なお、今宵は殿と閨は別でここで就寝頂き、明日午の刻前に改めて婚約の儀の広間で座って頂きます。今宵は前夜祭ということで、殿にお召し物をご覧いただきいっしょに殿とお食事をして頂いた後、鶴姫様は殿の部屋から退出してここに戻って頂きます。」
別の女中が外から女中頭に駆け寄って囁いた。
「そろそろ前夜祭のお食事の準備が整ったようです。
殿のお部屋に案内します。」
絢爛豪華な衣装の鶴姫は女中頭に先導され、経好の部屋に向った。
「ごめんくださいませ。鶴姫様をお連れしました。