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第六話 クラウソラス

「父上、鶴姫と結婚します。」

「経好、気持ちは分かるが市川家の繁栄のためにはそれにふさわしい嫁をめとらねばならない。」

「いえ、父上。」

経好はもっと大きな声で叫んだ。」

女中頭が鶴姫に近づき、帯を外し、鶴姫を経好の父から背を向けさせた。

「父上、この鶴姫は赤龍の紋を備えております。」

女中頭が、鶴姫の豪華な打掛や小袖を手際よく剥がしていく。

やがて白い襦袢しか鶴姫は着ていない状態になった。

「鶴姫の背中をしっかりとご覧ください。」

女中頭がそういうと城の襦袢も鶴姫からはぎ取った。

えっ。何も着てないのだけれど。イケメン大経だかではなくその父上にも見られるの。

鶴姫は羞恥で顔を伏せて右手で胸を、左手で黒い茂みを隠した。

経好の父とその後ろから女易者の諏訪が、鶴姫の背中を凝視した。

「ある。確かに赤龍の証がある。これは経好、でかしたぞ。

結婚を前提に婚約することを認める。結婚の儀は、市川家の三種の神器を用意したあと盛大に開くぞ。

これで市川家は安泰だ。周防・長門に城を準備し、そこを市川家の我が息子が領主として治めるぞ。これぞ市川家の悲願。」

「父上、結婚を前提とした婚約を認めていただきありがとうございます。」

「経好と鶴姫は、さっそく今夜、婚約の儀を執り行う。

諏訪、良いな。」

諏訪が狼狽して震えている。

諏訪が小声で独り言を言っているのを鶴姫は諏訪の唇から読み取った。

諏訪は確かにこう言っていた。

『まさか。本当に赤龍の証を持っている女子が現れるとは。


諏訪は必死で体制を立て直してゆっくりと経好の父に語りかけた。

「確かに赤龍の証のようにも見えます。但し結婚は、三種の神器を用意できるかどうか。ご判断は時期尚早かと。」

「諏訪、三種の神器は揃えば易として異論は無いのだな・」

諏訪は黙っていたが、やがて返事をした。

「易はそうでております。赤龍の紋がある宝珠、宝刀、曲がった勾玉の三種の神器を集めることは、困難を極めるかと。」

「それが集まったなら、結婚に異存は無いな。」


諏訪はしばらく黙っていたがやがて決心したように息を吐き、小声で囁くように言った。

「確かに、異存はございません。」


経好の父は、経好に指示をした。

「経好、婚約の儀を終えたら、直ちに市川家に伝わる赤龍の印がはいった三種の神器を集めよ。」

「はい。父上。そう言えば、三種の神器について、父上が知っていることがあると聞いたような気がします。手がかりがあれば教えてください。」

「うむ。宝珠と勾玉は大体の在り処が文で残っていたような気がする。」

経好の父は、机の引き出しから古文書のような文を取り出した。


『赤龍の証、剣は高嶺の山頂にクラウソラスの祠に、勾玉は浮島の洞窟に秘す。

この二つを手にした選ばれし剣士は、赤龍の証を持つ女に宝珠を導かれる』


鶴姫は諏訪という女が気になったので、諏訪の顔を伺うとまた独り言を言っているようだ。

諏訪の唇は『三種の神器は渡さぬ。』と言っているようだった。


「父上、婚約の儀の後、直ちに高嶺の山頂と浮島に行って参ります。」

「うむ。高嶺は今、宿敵の大内が支配している。更に堅ろうな建物を構築中だと噂である。かなり難しいぞ。それに浮島も未だに海賊の残党が出没すると聞く。いずれにしても市川家の兵力がまだ及ばない所だ。気を引き締めて参れ。」

「はい。まず海賊の残党が残っている浮島に行くつもりです。高嶺にあるクラウソラスとは何ですか。」

「私も詳しくは知らぬ。」


諏訪が口を開く。

「魔剣のことよ。遠い果ての国に伝わる伝説の光の剣。

それに相応しい者が手にすると途方も無い望みが叶い、それにふさわしくない者が手にするとあらゆる不幸が降りかかるという魔剣。」


経好の父が女中頭に指示した。

「婚約の儀を準備せよ。今夜から始める。鶴姫を頼む。」

女中頭は、承知しましたと言って、鶴姫に脱いだ着物を何枚か着せて、鶴姫の手を取り経好の父の部屋の出口を指さした。

鶴姫は、女中頭に付いて部屋を出た。鶴姫の後ろから女中たちが後を追う。

後ろから経好の声がした。

「今夜楽しみに待っている。さあ、女中について婚約の儀の準備をしてくれ。」


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