第五話
「経好か。入れ。」
「父上、本日は私の正室になる予定の姫を連れてまいりました。」
「うむ。女中頭に聞いておる。経好のいい歳になったのだからそろそろ正室が必要だろう。その前に私も何度か正室の候補を出したが、市川家のしきたりで、あの易者に占ってもらう必要がある。」
父上の机には、市川経好 我が息子と筆で書かれてあった。
イケメン大名はツネヨシという名前なのですね。イチカワツネヨシで市川経好って、大名らしい名前だわ。
ところであの易者って誰?
「諏訪を呼べ。」
経好の父が女中に指示をした。
女が一人やってきた。鶴は、諏訪と呼ばれた易者の女の顔をチラリと見た。
年は私より上のアラフォー。
超美人という顔ではないが、全身から妖しい香りというかフェロモンの分泌を感じる。
こんな女には近づきたくないわ。
「諏訪にございます。」
易の道具のようなものを手に携えて諏訪と呼ばれた女は、市川経好を見て、その父上の元ににじり寄った。
「経好が婚約した姫君を連れてきた。市川家の繁栄のため経好には易に合格した姫君が必要だ。早速だが占ってほしい。」
諏訪と呼ばれた女は、鶴姫の前に来て、何やら胸元から袋を取りだし袋の中から筮竹や黒水晶等の道具を取り出し、鶴姫の前を行ったり来たりして唸り声をあげていた。
十数分くらい何度も道具や唸り声や鶴姫の周りをぐるぐる回って立ち止まった。
「易が出ました。」
経好も身を乗り出した。
経好の父上が諏訪に尋ねた。
「して、どうか。」
「父上様から紹介頂いた女性と同じ結果でございます。
私にはこの姫君から、高貴で品格のある証もなければ、市川家が反映していくための大きな証が感じ取ることができませんでした。
経好様の正室としてはふさわしくない女と易に出ております。
経好様がどうしてもおっしゃるなら、そこらあたりの飯炊き女として使用人に使うのが適切かと存じます。」
声の出ない鶴姫は、憤然として、諏訪を睨みつけた。
経好に期待して、イケメン大名の顔を伺うと同じように憤然としている。
これは結婚するなら駆け落ち?
大名の妻の安定さも捨てがたいし。
父上が言った。
「そうか。前と同じか。残念だな。大きな証を持った姫君は存在するのか。
もう経好もいい年になってきて後継ぎの心配をしないといけない。」
「父上。私は。」
いいぞ、イケメン大名、それでこそ私の夫。
経好の言葉を遮って、諏訪が話した。
「市川家が繁栄していくためには大きな証が必要でございます。
経好様の正室にふさわしい姫君は身に、赤龍の紋の証を持っていなくてはなりません。
その上で市川家の三種の神器を揃えて、二人が結ばれると市川家はこの瀬戸内の周防と長門を納める城主の王となりましょう。」
鶴姫は今の言葉に衝撃を受けた。
私の赤龍の痣が背中にあると女中頭が言っていたような気がする。
イケメン大名と女中頭が叫んだ。