第二十九話 最後の宝
二匹の蛇が暴れて、父上の居た部屋の屋根は吹き飛んでしまった。
部屋の四隅の壁も壊れて屋敷の外が見える。
一匹は白い蛇で諏訪が変身した蛇だ。もう一匹は大蛇女の蛇で青色の鱗がある。青色の鱗の内、鎌首の横の鱗が傷ついている。
経好がクラウソラスの剣で切りつけたときの傷だ。
「父上、鶴姫、この場から逃げてください。あとは私たちが蛇たちを退治します。」
経好の父上は腰が抜けて動けないようだった。
白蛇が口を大きく開けて父上に近づいてきた。
経好は父上を背負い間一髪で蛇の攻撃をかわし、鶴姫の手を取り屋敷の外に走って行った。
屋敷の外で、家来が大砲を撃つ準備がちょうど完了して、経好の家臣が指令を出した。
「大砲の砲弾の倉庫が近くにある。いくらでも砲弾を補給して大砲を撃ち続けろ。」
鶴姫がスマホの表面を見ていると、経好に手を握られた鶴姫の勾玉が赤く輝きだした。
経好のクラウソラスの剣も赤く輝きだしている。
鶴姫の脳内に赤龍に乗った巫女の姿が浮かんでいた。
どういうこと。
『美都留は特大三島神社の巫女。』
どこからかわからないが脳内に声が聞こえてくる。
巫女が赤龍を携えて、赤龍に乗って飛んでいる風景が鶴姫の脳内に浮かび上がってくる。
鶴姫の脳内に再び声が響いてくる。
『美都留、貴方は灰色の悪魔から守るために令和から遣わされた赤龍の力を宿した神の使いの巫女。
灰色の悪魔は停滞・齟齬・中途半端の象徴。
今の歴史が停滞して齟齬が出てきてズレが生じています。
クラウソラスの剣と貴方が灰色の悪魔を退治しなさい。そして歴史を戻しなさい。』
誰?
私に呼びかけるのは誰?
スマホに書いてあった葛の葉なの。貴方は。
そう、私は令和では三島美都留という失業したてのアラサーOLだったわ。
「二つの蛇を撃て。」
家来が叫んでいる。
大砲から砲弾が次々発射され、白蛇の頭に命中した。
白蛇が地面に倒れてのたうち回っている。
「白蛇を退治したぞ。青蛇を狙え。」
家来たちが叫んだ。
火縄銃で青蛇の鱗の傷を集中的に狙った。
青蛇が口を大きく開けて舌を出して、鶴姫を睨んでいる。
『勾玉は私の物。経好は私の物。お前を飲み込んでやる。』
スマホから鶴姫は、青蛇が話しているかのような音を聴いた。
やがて青蛇が白蛇に近づき二匹の蛇が絡み合ってとぐろを巻きはじめた。
二匹の蛇から灰色の煙が立ち上り、煙幕のようにあたりを覆いつくそうとしていた。
「蛇が煙で見えない。青蛇も退治できたのか。」
家来たちは休む間もなく煙幕の中に砲弾や火縄銃を発射する。
やがて、煙幕の中から、凶悪な爬虫類のような咆哮がして鎌首が持ち上がった。
両手、両足が生えている全身が灰色の蛇のような怪物が灰色の煙から登場した。
「二匹の蛇が居ない。蛇が合体して灰色の龍になったのか。」
一体の灰色の龍の眼が悪魔のように鶴姫を睨んでいる。
口には牙が生えている。
灰色の龍は悪魔のような声を上げて手足としっぽを動かしている。
その悪魔が劈くような声を出し、経好と鶴姫に向って大きく牙をむいて襲ってきた。
どんどん経好と鶴姫のほうに灰色の龍が近づいてくる。
大砲を灰色の龍に標準を合わせ家来が発射するが、灰色の龍の体は、びくともしない。砲弾や火縄銃は灰色の龍に全く効果が無い。
「あぶない。鶴姫下がって。私が相手だ。」
経好がクラウソラスの剣の剣を構える。
「いえ、私は赤龍の守り巫女。赤龍の使いである私と経好様のクラウソラスの剣であの灰色の悪魔に勝てるはずよ。」
悪魔のような眼をした灰色の龍が、鶴姫と経好に牙をむいて襲ってきた。
クラウソラスの剣が真っ赤に輝いている。
経好がクラウソラスの剣を上段に構え、灰色の龍の首を目掛けて切り込んだ。
ツインテールの髪が靡いている鶴姫がスマホでサンダーレーザー電磁波アイコンをなぞる。
赤く輝く勾玉を胸元から出して、鶴姫がスマホを灰色の龍の首に向ける。
空から雷が、そしてスマホからレーザーの光が合わさり、灰色の龍の首に直射する。
その光に当たった灰色の龍の首の鱗をめがけて赤く輝くクラウソラスの剣を経好が突く。
途方もない爆発音と夥しい光に灰色の龍が包まれる。
激しい咆哮がしたあと、灰色の龍の首が取れ首のない灰色の龍の体が地面に倒れこんだ。
灰色の龍の頭は、大砲の弾薬倉庫に飛んで行って爆発して倉庫も頭も粉々に砕け散った。
灰色の龍のしっぽが地面に倒れているがそこから赤い光が漏れている。
「この光は何だ。」
経好が動かなくなった灰色の龍の胴体の先にあるしっぽに近づき、赤い光が漏れている箇所をクラウソラスの剣で切り裂いた。
「これはっ。」
中から、赤龍の紋が入った宝珠が現れた。
経好は、赤龍の紋が入った最後の三種の神器である宝珠を手に入れた。
「父上、これで本当に赤龍の三種の神器が揃いました。
屋敷は破壊されましたが、結婚の儀を予定通り行いたいと思います。」
「経好、すまないことをした。私は白蛇に騙され操られていたようだ。
名実ともすべて息子のお前に譲り私は完全引退をする。
もちろん結婚の儀を早く実施したいが、この屋敷の惨状でありどうしたものか。」
「父上、高嶺の山頂に築城中の城がございます。
そこであれば家臣、家来、女中たちも連れて生活できると思います。
そこを新しい市川家の本拠にしましょう。」
「そうか。そんなところがあるのか。」
「はい。高嶺城と名付けましょう。」