第二十四話
経好の頭のすぐ横を矢が通り過ぎる。
「伏せろ。」
「大丈夫か。鶴姫は私の後ろで。」
経好は日本刀で、飛んでくる矢を撃ち落としている。
やがて敵の矢が切れたのか建物の気配が静かになった。
建物に経好を先頭に、家臣や家来たちが突進する。
建物の扉を開けると、大内が居たが建物の後ろの戸から家来一人と走り去っていくところだった。
建物には弓が残されている。矢は無い。使い果たしたようだ。
後ろ姿の大内の手には剣がある。
「あれがクラウソラスの剣なのか。大内を追え。」
経好が家来に指示をした。
「大蛇女の姿は見えないわ。」
「今はクラウソラスの剣が先決だ。大内の後を追いかけるぞ。」
経好たちは建物の外に出て大内を追った。
建物の裏のクスノキの林の根元には小さな祠があり空洞で中には何も入っていなかった。
大内は林の先に向って走っていく。
林の最後は、高嶺山頂から降りる急な傾斜になっていて傾斜の先には洞窟の穴が見えた。
大内と大内の家来はその穴に逃げこんだ。
大内を追って、経好と鶴姫が林を抜けてその穴に向って走っていった。
その後に大砲や武器を持った経好の家臣・家来たちが続く。
「大内。大人しく剣を置いていけ。そうすればお前たちは見逃してやる。」
洞窟の穴を入ったところで経好が穴の奥に向って叫んだ。
経好と鶴姫が洞窟の入口に入った途端、ガラッという音とともに入口の上から木枠が降りてきた。
「嵌ったな。市川のバカ殿。これで入口は塞がった。
私とお前しか武器を持った者はいない。
クラウソラスの剣を持つ私の勝ちが見えている。
鶴姫と鶴姫が持っている勾玉を渡せ。」
大内はそう言うと、クラウソラスの剣を右手で構えて左手に鞭のようなものを持って経好に襲い掛かろうとしている。
経好をけん制したまま大内は、左手の鞭で鶴姫の足を襲った。
鶴姫は鞭が左足首にあたり、思わずその場で倒れた。
「鶴姫、私の側室となれ。
毎夜、お前の体を縛り、鞭の愉悦で地獄の楽しみを教えてやる。
市川家を滅ぼし、私の奴隷として私に仕えるのだ。」
地面にしゃがみ込んだ鶴姫は大内を睨んだ。
私は経好様以外とは結婚しないわ。
大内の息が酒臭い。
大内の眼を見ると白目になっていて何かに操られているようだ。
大内の横にいた家来が顔を伏せている。
「鶴姫に何をする。鶴姫は渡さない。
お前を絶対許さない。」
経好が日本刀を構えた。
大内がクラウソラスの剣を上げて経好の正面に切り込む。
それを経好は日本刀で受け止める。
洞窟の中で刀と刀が交差し合い、刀と刀が当たる音がする。
大内の鞭が経好の右足に当たった。
経好の顔が歪む。
大内が経好に言い放った。
「お前をこのクラウソラスの剣で切り刻んでやる。
さらば市川のバカ殿、クラウソラスの剣の勝ちだ。」
劣勢に追い込まれたのか経好の体がじりじりと下がっていく。
大内の鞭が経好の日本刀に絡みつき、日本刀が経好の手から離れて地面に落ちた。
「クラウソラスの剣でとどめを受けよ。」
鞭を地面に降ろしてクラウソラスの剣を両手で持ち換えた大内が、経好の頭上に剣を振りかざす。
助けて、経好様を。
左足首を怪我してしゃがんでいる鶴姫は思わず目を伏せて祈った。
鶴姫の胸元の勾玉が赤色に光り出した。
カキーンという音がして鶴姫が目を恐々開けると、大内が振りかざしたクラウソラスの剣を経好が両手で受け止めていた。
真剣白刃取り!
鶴姫は叫んだ。
クラウソラスの剣が赤色に輝き始めた。鶴姫の勾玉の赤色とリンクしているようだ。
「手が痺れる。何だ、これは。」
大内の顔が歪む。
顔が苦痛に歪んだ大内が思わず剣から手を外した。
真剣白刃取りでクラウソラスの剣を両手で素手のまま受け止めていた経好は、剣を柄の部分に持ち換えた。柄の部分には赤龍の紋が記されていた。
そして、経好はクラウソラスの剣を手に入れた。
鶴姫は赤龍の紋がある勾玉を手に入れている。
二つの赤龍の紋があるお宝が赤色に輝いている。
クラウソラスの剣を手放した大内は鞭を拾って身構えた。
横に居た大内の家来が、顔を上げて口を開いた。
「丁度いい。二人とも赤龍の宝を差し出せ。」
鶴姫が家来の顔を確認した。
大蛇女だった。人間の女の姿をしている。




