第十八話
経好が説明した。
「大蛇女を酒に酔わせて、その隙に勾玉を手に入れる。
戦わずして魔型を手にいれることができる。
ただの酒だけではなくあの大蛇は私の精を欲しがっている。
私の精でおびき寄せるために酒に混ぜて大蛇女の近くに桶を置く。」
「殿、洞窟の入口の穴は人が一人やっと入れるくらいの大きさに近づきましたが、道具も摩耗してしまいこれ以上の大きさを空けることが非常に難しい状況です。開けた穴も思っていたほどより小さく、家来の何人かが入ろうとしましたが途中で引っ掛かり前に進めません。
申し訳ございません。」
鶴姫が手を上げた。
「私は細身で体も鍛えています。私ならこの穴をすり抜けられるはずです。
大蛇女の近くに桶を運んでいきます。」
「いや。鶴姫、それは危険すぎる。」
経好が止めた。
家来も「鶴姫様、それは危ないです。」と鶴姫を止めた。
ツインテールの髪をなびかせている鶴姫は、小袖を脱いで胸を張って白い襦袢だけのスリムな体を経好に見せた。
貧乳ではなくスリムな女よ。
「他に手段は無いわ。
私は赤龍の証のある三種の神器を早く集めて殿と結ばれたいの。
大丈夫だから、家来に、桶を用意しなさいとご指示を。
愛する経好様、私は赤龍に守られている女。心配ないわ。
私は経好様の唯一無二の女としてお役に立ちたいの。」
神々しいオーラを鶴姫から感じた経好は決断した。
「そこまで言うのならやむを得ない。本当に面目ない。
桶だけ置いたら全力で戻ってくるのだぞ。
その間に我々は岩でも使って、地面を掘ってでもして必ず穴を広げるぞ。」
鶴姫は、洞口の入口の隅の大きさを確認した。
ギリギリ左右に体を捩じればすり抜けられそうだ。
穴の奥を覗いてみるとまっすぐは、行き止まりになっている。
高機能集音装置を使うと、穴の右側でシューシューという声が大きく聞こえてくる。
右に道があってそこに大蛇女がいる可能性が高いわ。
経好の精と酒が入った桶がいくつか用意された。桶は穴の大きさより小さいのを用意している。頭に翳すろうそくの照明道具も準備されている。
「経好様、行ってきます。
家来の皆さん少しだけ下を向いていてくださいね。」
鶴姫は白い襦袢も脱ぐと一糸纏わぬスリムな体で経好に抱きついてキスをした。
しばらくして赤龍の証のある背中を経好に向けてしゃがみ込むと、スマホのような物だけ片手に取って、洞窟の穴に向って滑り込んだ。
中に入った鶴姫は洞窟側から手を差し入れて、ろうそくの灯と桶を洞窟の中に取り込んだ。
頭にろうそくを翳してスマホも頭にねじ込んだ。両手に持てるだけの桶を担ぎ進んでいく。中はひんやりとしている。
簡単なダンジョンのようね。行き止まりまでは緩やかなくだりになっている。
行き止まりだけれどまっすぐ下って行ってみましょう。
頭に挟んだスマホの高機能集音装置が、この先の右にいると思われる大蛇女の声を拾ってくる。
『精の匂いがする。位の高い侍の精の匂い。どこにある。上の方から匂ってくる。』
右から更に下の方に大蛇女がいるのね。声が更に聞こえる。
『赤龍の勾玉を手にしたとき私は人間の乳房の大きい女の姿になれた。勾玉をつけていても海の塩水に浸ると元の蛇の姿になってしまう。
しかし勾玉をつけていても人間の女の姿を長く維持するには生きがよく気高い男の精が必要だ。この辺りは気高い男はいなかった。漁師の精では一日で蛇に戻ってしまう。
前に瀬戸内の島の大名と交わったときは一か月人間の女で居られたが男は戦で死んでしまった。
だからこの勾玉は誰にも渡さない。
あの高貴な男と交わり続け精を吸収すれば一生人間の女で居られそうだ。
永遠の人間の女の姿を手に入れて大名を誑かし、日本を蛇に支配させてやるのが蛇である私の使命。
一足先に潜りこませた私の子分の諏訪とともに日本中の稲荷神社を神の使い白狐から、地獄の使者である青蛇に変えてやる。
諏訪に聞いたらあの者の父上の精も絶品らしいわ。親子ともども支配してくれるわ。』
勝手な大蛇女。経好様は私の唯一無二の男。誰にも渡さない。契りを結ぶのも私だけ。
ところで諏訪って女の正体は蛇なの。それで経好様の嫁取りに難癖つけていたのね。
鶴姫が、洞窟の中を突き進むと前面は突き当りだった。
右側には更に奥に行く通路があり、左は行き止まりだ。簡単なダンジョンだわ。予想通り。
右に進むと後ろの洞窟の入口の穴から差し込む光は見えなくなった。
右側を更にゆっくりと気を付けながら奥に進むと下る細い道があった。
細い道の先に大蛇ではなく女が一人横向きに座っている。首には勾玉を首輪アクセサリーのように飾っている。近くには海水が見える。
上半身はなにもつけておらず豊かなバストにツンとした乳首が見える。上半身は丸みを帯びて占い師の諏訪よりも男への媚びのためのフェロモン全開だわ。漁師が惑うのも少しは分かる気がするわ。
あの海水と海が繋がっているのかしら。
この細い道のここに桶を置いて私は岩陰に隠れるわ。
岩肌が蛍光色のある苔に覆われて、明かりが無くても仄かに周りを見渡せるみたい。
桶を置くと桶の覆いを払い、素早く鶴姫は岩陰に隠れた。ろうそくの灯をかき消して見守った。
岩陰にいても経好から先ほど搾り取った精の匂いが漂ってくる。
『高貴な男の精の匂いがする。いい酒の匂いも。
あの男が来たのか。飛んで火にいる何とかだな。誘惑してやるぞ。
ほれ、下半身を覆う布も要らぬ。』
高機能集音装置から大蛇女の声が聞こえる。
岩陰のすぐそこに女の気配が近づいてきた。
桶に手を出したようだ。
桶の中の酒とそれに交じらせた精の液体を舐めている。