悪役令嬢は365日後、チェックメイトされる
小鳥のさえずりとともに目覚める。
屋敷中が騒がしい。私の十五歳の誕生パーティーの準備をしているのだ。
婚約破棄まであと、365日。
ベルを鳴らすと飛び込んできた侍女。
幼い頃から、ずっとそばにいてくれている彼女を巻き込まないように、そろそろ勤め先を探してあげなくては。
乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったことに気がついたのは、2年前。
当初、すっかり性格が変わってしまった私に周囲は大騒ぎだったけれど、いつの間にか当たり前のように受け入れられている。
「……青いドレス」
来年の誕生パーティーで婚約破棄してくるはずの王太子殿下から贈られてきたのは、彼の瞳の色をしたドレスだった。
あと1年。そろそろヒロインと出会ったはずなのに、律儀な婚約者だ。
「思った通り、ナティアには、青いドレスがよく似合う」
「ありがとうございます……」
ドレスをまとって、パーティーに参加する。
本当であれば、王太子殿下は現れないシナリオのはずなのに、なぜかエスコートされている。
パーティーは、大盛況だった。
◇
婚約破棄まであと、100日。
今日は両陛下の結婚記念日。
パーティーには、全ての貴族が参加している。
「あの……アルベルト殿下」
「なに? 可愛い人」
「はっ? いえ、そうではなく。私などをエスコートしていてよろしいのですか?」
「婚約者をエスコートするのは、当たり前だろう?」
「そ、それはそうですが」
このパーティーで、王太子殿下はヒロインをエスコートし、私は一人きりになるはず。
悔しさのあまり、ヒロインにワインをかけるはず。
「……ところでワインは?」
「あちらにあるけれど、君は未成年だ」
「……それもそうですね」
ヒロインは、見たことのない貴族の子息と楽しそうに談笑している。
「さ、両陛下に挨拶に行こう」
「え、ええ……」
両陛下には、結婚はいつになるのかと急かされた。
王太子殿下は笑って、「もうすぐです」なんて答えていた。謎すぎる。
◇
そして、運命の誕生日。
「結婚式なんて本気ですか?」
「……逃がさないよ?」
「えっ?」
王太子殿下は、決して離さないとでも言うように、私の手を握りしめて笑った。
なぜかシナリオは全く機能せず、365日経ったその日は、結婚記念日になってしまったのだった。
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