交差点の交通量調査に幽霊は含まれますか
保育園の前で、園児用の黄色い帽子とバッグを着け、眼鏡をかけた通流は、怪異を待っていた。
大学生だと言うのに園児のコスプレをしている時点で、通流自身も怪異ではあるが、これには理由があった……多分。
『……来たわよ、交差点の向こうから』
通流の上司の夜美が合図を送る。
訪れる怪異は<ターボ婆>と呼ばれる都市伝説の類。それがこの街には、実際に居るのだ。
怪異は轟音を上げて交差点に進入する。信号も、急な進路変更による遠心力も関係ない。時速100キロはゆうに超えているスピードで、減速のないまま曲がっていく。
ゴゴッ! ゴゴッ! ゴゴッ!
もはや足音ではない。地面を蹴り、その全てを推進力に変えた怪異は、疾風のまま保育園へ向かう。
ゴゴッ! ゴゴッ! ゴゴッ!
通流は覚悟を決める。怪異と相対するのは自分一人。
ゴゴッ! ゴゴゴゴッ!
雑多な反響が次第に揃っていく。
ゴゴゴゴゴゴッ!
その轟音に空気が震える。
ゴッ
ゴゴゴンッ
足を止めた怪異が近づき、
その口を、開いた。
『通流! お迎え、遅くなってごめーん!』
◇
通流は、交通量調査のバイトをしている。その調査項目を見た時、驚きを隠せなかった。
「自動車、自転車、歩行者……幽霊?!」
幽霊は成仏の為、霊山を目指し行列を作って歩みを進める。その三途の川の様な成仏の列の道は、現実では普通に道路としても使われているのだ。
「バイト初日は驚きましたよ。眼鏡が無ければ幽霊は見えないから、今でも慣れませんけど。そして、この調査で、まさか亡くなった母に出会うなんて」
「ふふ……。あの怪異は成仏の列に影響を与えていたから……でも、ちょうど良かったわ」
通流の母は、通流を保育園に迎えに行く最中、亡くなった。しかし、その迎えに行かねばという気持ちが怪異の種となり、<ターボ婆>へその姿を変えた。
怪異となった母の後悔は迎えを待つ息子。ならば、息子の姿を見せれば、怪異騒ぎも収まるという事で、あの園児の姿であった。
『ねえ、通流ちゃん。あの地縛霊さん、列の渋滞の原因になってるんじゃない?』
「……本当だわ。通流君、交差点の渋滞緩和の為、また仕事よ」
「夜美さん。コスプレ、しませんからね。というか母さん! 何で憑いて来てるの!?」
生を終えた後の営みも運ぶ、この世の道路と交差点。
交差点を渡る時の確認は。右見て、左見て、右を見る。
では、何故、2度も右を見るのでしょう。
それは、アナタに迫る何かを、確認する為……なのかもしれない。