僕と謎解き
とある日の昼下がり。赤羽奏多が作ったスコーンをつまみながら、2人は紅茶を飲んでいた。
「この前の朝食事件で君の料理の腕が確かなことは分かってたけど、まさかスコーンも作れるなんてすごいね」
「まあね、俺わりとなんでもできるから」
赤羽奏多との共同生活が始まって、はや数日が経過していた。短い期間ではあったけれど、この間で僕は赤羽奏多という男がどんな人間なのか大体わかってきた。
こいつは一見無気力な奴だけど、実はスペックがかなり高い。運動神経もいいし、料理もできる。顔もいい。
しかもいいんだか悪いんだかわからないけど、自分のスペックの高さを自覚してるから自信もめちゃめちゃある。
要は完璧人間なのだ。
「あのさ、赤羽、謎解きゲームしない?」
「いいけど」
そう。この時進藤歩夢は完璧人間赤羽奏多と張り合おうとしていたのだ。なぜかはわからないが、頭の回転の速さなら負けないという謎の自信が彼を包み込んでいた。
「じゃあ問題ね。生まれたての時は4本足で、成長すると2本足になって、歳をとると3本足になる生き物ってなんだ?」
「ルージャ」
「は?」
「ルージャでしょ?じゃなきゃあれ?人間は歳とると杖つくようになるからっていうつまんないとんち?しかもこれ謎解きゲームじゃなくてなぞなぞじゃん」
「つまんないって言うな!いやてか、ルージャってなに?ほんとに予想外の回答なんだけど」
「あーそっか。歩夢はこの世界来たばっかだから何も知らないよね」
………そういえば僕って異世界転生したんだっけか。あまりにも普通な生活をしてたから忘れてたけど、そういえば新しい世界でセカンドライフを!みたいな感じだったな。
よく考えたらここに来てから一度たりとも家から出てない。
「せっかくだし見に行く?ルージャ。この世界のこと、ちょっとくらい知っておいてもいいんじゃない?」
赤羽のその魅力的な誘いを断る理由が僕にあるはずもなく、僕は大きく頷いた。
家を出て、郊外の草原にたどり着いた。辺り一面に膝くらいの青草が生い茂っている。
そこにいたのは体長100cmほどの人型のトカゲ。意味がわからないと思うけど、僕の頭も置いてけぼりだ。超巨大な2本足で立つトカゲとしか言いようがない。ただの化け物だ。
「どう?これがルージャ。カッコいいでしょ」
「それな!めっちゃカッコいいね!
………ってなるわけないだろ!早く逃げなきゃ僕たち殺されちゃうって!」
狼狽える僕をじっと見つめたかと思うと、赤羽は目を丸くしてお腹を抱えて笑い出した。そりゃもう楽しそうに。
「あっはは!歩夢は面白いね。ルージャは草食だから人間は襲わないよ」
「この見た目で!?明らかに戦闘向きだろこいつら!草食べんの!?」
ダメだ。脳の処理が追いつかない。とりあえず、この世界には僕の持つちっぽけな常識じゃ太刀打ちできないってことがわかっただけ今日は収穫があったってことにしよう。
こうして、進藤歩夢は未知の世界に小さいながらも、記念すべき第一歩を踏み出したのだった。