僕と朝食
清々しい朝の目覚め。朝日が差し込み、鳥のさえずりが心地いい。横に目をやるとベッドの上で幸せそうに寝ている男。赤羽奏多だ。
まったく、昨日から今朝にかけて何度ため息をついたかわかったもんじゃない。ため息をつくと幸せが逃げるなんて説があるけど、その理論でいくと僕の幸せの残量はもう赤ゲージだ。
これ以上僕の幸せポイントを削るわけにはいかない。そのためにはこいつに関わらないことだ。うんそうしよう!
となればまずはご飯だ。ご飯は人を無条件で幸せにしてくれる。
朝食と言えば白ごはんと味噌汁、それに焼き魚が定番だ。お金に余裕があったら朝からステーキを食べたいなどと言う人は、僕に言わせて貰えば何にも分かってない。寝起きの胃を優しく包み込むような食事こそ、朝食のピラミッドの頂点に立つものなのだ。
よし、メニューも決まった。早速調理に取り掛かろう!
………先述した通り、進藤歩夢は名前以外の自分に関する記憶を#全て__・__#失っていた。
彼は自身の料理センスが壊滅的であることも忘れていたのだった。
「できた!」
我ながら素晴らしいものができた。苦節1時間を経て完成した100点満点の朝食。さて、問題はこいつをどうするか。
こいつというのはもちろん赤羽奏多のことである。
関わり合いを避けた方がいいのは間違いないけど、朝食を食べられないのは日常における不幸ランキングでも上位にくる出来事だし、流石に可哀想かも。ここは僕の中の仏に免じて、昨日のことは全て水に流してあげることにしよう。
「おーい、朝ごはんだぞ」
「ん………眠いからいらない」
………ま、まあ睡眠欲ってのは強力だからね。人類は昔から強大な力に対しては服従する生き物だからね。
「早く起きてこないと冷めるよ」
「………だからいらないってば」
不機嫌そうな声色で顔を上げることもなく返事する赤羽奏多。
………ダメだこいつ。てか僕の中の仏キレ症だから。仏の顔も二度までのタイプの仏だったみたい。
「いい加減にしろー!!」
進藤歩夢はベッドの上の布団を引き剥がすと、そのまま赤羽奏多の身体を二本の腕でホールドし、床に引き摺り下ろした。睡魔も相まって、突然の出来事に赤羽は全く対応できず、弱々しく地面に倒れた。
さて、役者は揃った。相変わらず赤羽奏多は不機嫌そうだが、僕の朝ごはんを食べてくれればもうこの際文句は無しにしてあげよう。
赤羽奏多は味噌汁椀を口に運び、味噌汁を一口。
「え、まず」
「は??」
これで三度目だ。僕がキレるのも正当だろう。
しかし、若干僕の雰囲気に怯えながらも赤羽奏多は続けた。
「いや、ちょっと食べてみてよ。本当にまずいから」
言ってくれるな。僕の作った料理がまずい訳がない。まずは味噌汁から………。
………。
「あ、あーまあ確かに好みが分かれる味かもね。まあ僕は好きだけどね」
「ちょっと座って待ってて」
そう言って台所へ向かう赤羽奏多。
数分後、味噌汁を完成させ、食卓に戻ってきた。
「どうぞ」
「いただきます」
「どう?」
「………すいませんでした!!!」
進藤歩夢は土下座していた。端的に言えば彼の作った料理と赤羽奏多の料理の間には天と地ほどの差が存在してたのだった。
こうして、彼ら2人の仲は少し縮まったのであった。
そして、料理担当が赤羽奏多になったということは言うまでもない。