僕と居候
目を開けると、見覚えのある部屋。天使ちゃん(仮称)と話していた部屋だ。あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。ついさっきのような気もするし、すごい長い間が空いていたような気もする。
一旦僕の身に起きたことを整理しよう。僕は自分自身に関する記憶のほとんどを失った。唯一覚えているのは僕の名前が進藤歩夢だってこと。そして、天使みたいな美少女に新しい世界で暮らすように言われた。
………整理したところで、だな。意味がわからないことが多すぎる。
でもとりあえずこの世界で生きていく方向性で考えよう。天使ちゃん(仮称)だっていずれ分かるって言ってたし。
となれば、まず僕がしなければならないのはこの世界で友人を作ることだ。
人間は1人では生きていけない生き物。馴染みのない異国の地なら尚更だ。僕の生活を支えてくれる友人が欲しい。できるだけまともな奴がいいんだけど。
ピンポーン
「はーい」
おっと玄関のチャイムが鳴った。第一村人のようだ。友人を作りたい僕からしたら向こうから来てくれるのは大歓迎だ。
ルンルンでドアノブに手をかけたそのとき、
ドアは内側に勢いよく開き、僕は鼻を強打した。
「痛っっ!なになに、何が起きてる!?てかそもそもなんで扉が家の中に向かって開くんだ!玄関扉は外開きって相場が決まってるでしょ!」
「あー、今日からここで一緒に住むことになってます。赤羽奏多です」
「無視?僕がこんなに痛そうにしてるのに挨拶から入ることある?」
………ん?てか今なんて言った?
一緒に住む?今まさに僕のことを無視してスムーズに家の中に入った上、ベッドに倒れ込んだこの男が僕と?
いや、でも右も左も分からない世界で生きていくためには知り合いを増やしておくに越したことはない。
そもそも、人は見かけによらないって言葉もあるし。こいつも実はいいやつみたいなパターンもありえなくはないかも。
「あのさ、赤羽くん。一緒に住むならとりあえず自己紹介とかさ」
「自己紹介?俺、赤羽奏多。歳は19」
それだけ言い放って赤羽奏多はまたベッドに横になった。
「寝るなーーー!」
ダメだこいつ完全に見かけ通りの奴だ。最初の印象から寸分の狂いもないダラダラ系男子だ。人が話をしている最中に寝るってどういう神経してるんだまったく。
進藤歩夢は自分が天使ちゃん(仮称)を無視して二度寝をしたことなどすっかり忘れていた。都合の悪いことはすぐに忘れてしまう。人間とは所詮その程度の生き物なのだ。
「はあ」
僕は大きくため息をついた。突然現れたこの無気力系男子と同棲。考えただけで疲労感が襲ってくる。
とりあえず疲れたから一休みしよう。
ベッドに向かって、と………。
視界に映るのはベッドに倒れ込んで小さく寝息を立てている男。
「ああ!もう嫌だ!!」
こうして進藤歩夢と赤羽奏多の共同生活は始まりを告げたのだった。